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おおからの、いち。

同日更新2回目の前編です。

 手早く飯屋の戸締まりを済ませました。


 すぐさま併設の民宿で借りている私室に駆け込みます。

 前掛けを外して寝台に放り出し、平服を床にかなぐり捨てます。

 箪笥の抽斗ひきだしをあさります。

 こつこつ貯めた俸給で奮発した皇国風の長衣を引っぱり出します。

 綺麗で繊細な縫い取りがあるので、爪を引っかけないよう注意です。

 勇んで頭から被ります。


 裳裾もすそが……長い……。


 なんとか帯でからげるしかない。

 四苦八苦してまとめて、かんざしして、表に出ます。


 ぼんやりと騎士さまが立っていました。

 しずしず歩み寄ります。


「お待たせいたしました」

「いや、まあ……うむ」


 なぜ目を逸らすか。


 やはり似合っていない……?

 尻尾が自然と垂れました。


 と、手を差し出されました。

 また幼子あつかいですか!


「い、いや、だからね、はぐれるとだね、いけないだろう?」

「……私は成体です」

「無論、知っているとも。しかし、それとは別にだね」

「……」


 仕方ない。

 騎士さまの差し伸べられたままの手のひらに、前肢をぽんと乗せました。


「本日はよろしくお願いします」

「あ、ああ! 任せたまえ!」


 目抜き通りはごった返していました。


 客は人ばかりですが、出店の主は人と魔物が入り混じっています。

 もっとも、人の姿に擬態できる魔物もいるので、正確な比率は分かりませんが。

 そこかしこで威勢のいい掛け声が飛び交い、場合によっては悶着も起きている様子。


「だからなあ! そりゃあ、ぼったくり過ぎだってのよ!!」

「あんだとぉ!? いちゃもん付けてんじゃねぇぞぉ!」

「むう、いけないな――」


 揉めているのを見つけた騎士さまが、手を離し、さっと走って行ってしまいました。

 いつものことながら鎧の重量などまったく感じさせない機敏さです。

 ぽつん。

 遠くから眺めます。


「待ちなさい君たち……なになに、ふむ」


 仲裁しているようです。

 周囲の人間より頭ひとつ分ほど抜けているので、よく見えます。

 屋台で買った棒付き飴を舐めます。

 小振りの果物に飴を絡めて棒に刺してあります。なんでも魔王さまの発案だとか。

 甘いです。

 甘いはずです。

 ぽつーん。


「いや、これは微量だが魔素を含んでいるな。むしろ値打ち物だ」

「そ、そうなのか……」


 通りの向こうから、魔物の衛兵までもが、ごった返す群集を掻き分けて近づいて来ました。


「おい、おい、騒いでるのは此処ここか!?」


 旧皇国に駐屯している魔王さま麾下きかの兵のようです。

 元皇国民による自警団程度は黙認されているといえど、まだまだ公の武力は制限されています。

 ですので、この祭における警備も、魔王軍が負担しているようです。

 しかし、すでに鎮静しています。


「いやあ面目ねえ」

「いいってことよぉ」


 衛兵は見回して、騎士さまに目を留めました。

 正確には騎士鎧を見て取って、なにがしか考えたようです。

 騎士さまに耳打ちをし、去っていきました。


 さすがの私の耳でも、喧騒を挟んでは単語しか聞き取れませんでした。

 魔王さま、大広場、発表……。


「――すまない、待たせたな」

「いいえ」


 戻ってきた騎士さまが、また手を差し出してきました。


「私は成体です」

「……先ほど流されそうになっていたろう」

「……」


 いたし方ありません。


 歩きながらも騎士さまは考え込んでいるようです。

 別段、咎められたというふうではなかったように見受けられましたが。


「大広場がどうしましたか」

「ああ……うむ」


 大広場とは、目抜き通りの突き当たり、広々とした扇形の石畳の敷地であり、城下の要です。

 なんでも、先ほどの衛兵に向かうよう示唆されたとか。


 確か魔王さまが、そこで新曲を披露する、と聞いていました。

 それだけではないということかもしれません。


 胸騒ぎがしました。


 つないだ手を強く握られました。

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