話を切り出すのって難しい
「美味しー!葵ちゃん、天才!」
優香さんが全力で褒めているもの……それはウサギっぽいのの丸焼きだったりする。持ち歩いている塩コショウ及び以前の世界で気に入っていたタレを焼きながらぶっかけるだけという、野趣溢れる一品だ。
「空腹は最大のスパイスとか言うの、本当なんだな」
「そんなに謙遜しないでも、本当に凄い美味しいよ。ありがとう、葵ちゃん」
そんな事言いつつこっそりスープに魔法で水足してたけどな、優香さん。申し訳ないが、どんなに素早くさりげなくやったところで、俺の動体視力は大体のものは見分けられてしまうんだ。どうやら俺の味付けは優香さんには若干濃いらしい。
「ごめんね、明日からは私もちゃんとお料理作るね」
「ああ、でもまだこのまま旅を続けるなら」
「続けるよ!当たり前でしょう!?」
「……ああ、そうなると今日みたいにしばらくは優香さんが主に戦うわけだろ?もちろん疲れるからさ、食事の用意くらいは俺がやるよ」
「でも」
なんだかなあ、優香さんはどうやら、俺に凄く負い目を感じてるみたいだ。勇者として違う世界に来れた事、俺は結構感謝してるんだけど。
「……そういえば、優香さんって料理うまいの?」
そっと目を逸らす仕草に、俺は全てを察した。今後深くは触れるまい。
しかしさっきから本題に入りたいんだが、どうにもタイミングが掴めない。そもそも俺は人としゃべるのなんか苦手なんだ。こんな荒野で心許ない焚き火の明かりの揺らめきの中で、それでも美味しそうに幸せそうに肉をパクついてる人に、どうやって真剣な話をふればいいんだろう。
結局タイミングが掴めないままメシを終え、ふたりしてゴツゴツの荒野に体を横たえる事になった。
「葵ちゃん、ゴメンね」
優香さんの背には俺のマントと優香さんが神様から貰ったという布が折りたたまれて重ねてある。ちなみに俺の道具袋と水筒がまくらだ。優香さんは申し訳なさそうだが、つい昨日まで羽根布団で寝ていた人にこの環境はキツすぎるだろう。俺だって最初は草原だってキツかったんだから。
ただ、今は慣れすぎて乾いた土の感触すら心地いい。
「気にしなくていい。俺、こうやって地面に直に転がって星見るの、結構好きなんだ」
「そう言えば、あんまり街に泊まらないで、よく野宿してたよね」
「人がいるとこより、こういうどーんと景色が広がってて、全身に自然が感じられる方がいい。自由な気がする」
どうやら優香さんは本当に俺の事をよく見てたみたいだ。俺、なんか変な事してなかったよな?とか若干気になるんだが。
「そっか、良かった。ちょっと気になってたんだ」
安心したように笑う優香さん。
俺が旅に出てからずっと、優香さんはきっとこうやって心配し続けていたんだろう。なんせ俺を見守り導く聖女の役割を担っていたっていうんだから。有難くもあり、気恥ずかしい気もする。姉さんとかいたらこんな感じなんだろうか。