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私はどうしたいんだろう

何を考えているのかなあ。


この頃よく、葵ちゃんは何かいいたげに私をチラリと見たりする。


でも、なかなか言いだしてはくれなくて、私もこっちから訊くべきか葵ちゃんから言い出してくれるのを待つべきか、ちょっと迷ったりもしていたのだった。


今だって何か言いたげな感じだったけど、結局は何も言わないままにあのチカチカと猛烈にまたたく星を黙って見上げちゃってるしなあ……。


少し迷ったあと、私は意を決して聞いてみた。


そう、女は度胸、だもんね!



「葵ちゃん、何考えてるの?」


「え?……うん、いや、ええと」



めっちゃドモってる、やっぱり何か言いにくい事なんだろうか。



「なんかこの前から、何か言いたい事があるんじゃないかって気がしてて。……言いたくない事なら別に無理にとは言わないんだけど」


「いや、その」



しばらく落ち着きなく目線を彷徨わせた葵ちゃんは、少し迷ったあとゆっくりと口を開いた。



「えっと……優香さんさ、この街が再生したら優香さんは日本に帰った方がいいんじゃないかって思ってさ」


「えっ!?私やっぱり足手まといだった!?」



驚きのあまり、普段から地味に心配していた事が口をついて出てくる。


私だってそりゃ頑張ってきたけど、お世辞にも戦闘センスがあるとは言えなくて、正直葵ちゃんがいなかったらもう既に何度かご臨終していたと思う。


葵ちゃんはなんにも言わなかったけど、実は面倒な女だと思われてたりしたのかな。



「まさか!」



急に不安になって発した言葉は、葵ちゃんの心も乱したらしい、ガバッと起き上がって全力で否定してくれた。



「むしろ優香さんがいてくれて本当に良かったと思ってるんだ、この街の復興が順調にいってるのだって優香さんの力が大きいと思ってる」



真剣な目でそう口にする葵ちゃんは、適当な事を言っているようにはとても見えない。きっと本心で言ってくれてるんだと思う。


……そうだね、確かにこの砂漠で水を出せるのってそれだけで凄く便利だとは思うけど。



「じゃあ、なんで?」


「だって優香さん、元々は俺の代わりに勇者になろうとしたんだろう?」


「まあ、そうだけど」


「俺は勇者を続けるわけだから、優香さんが苦労する事ないよ。日本に帰れば飯は美味いし風呂もトイレも入り放題だろ」


「うん、やっぱり恵まれてたよねー」


「家族や友達だっているだろ?」


「友達はいるけど、家族は死んじゃってるから」



私の言葉に、葵ちゃんは目を見開いた。


そう、葵ちゃんも父子家庭でそのお父さんも亡くなったって言ってたけど、私の家族ももうこの世にはいない。きっと家族……というか、元の世界との繋がりが薄い人ってのも、聖女や勇者の選定条件なんじゃないかな。



「聖女としてあの金髪に拉致られる半年くらい前にね。お父さんもお母さんも、妹も、全員事故で」


「そう……だったのか」


「うん、即死だったの。反対車線から突っ込んできた車を避けきれなくて……車、ぐちゃぐちゃだった」



頬を温かい物が伝っていくのを感じる。


葵ちゃんが痛ましい表情で「ごめん」とつぶやきながらそれをそっと拭いてくれた。



本当は私、あの朝なんだか嫌な予感がしたの。


でも私も友達と出かける予定があって急いでたし、三人は「誕生日プレゼントを買いに行く」って楽しそうだった。


だから私、三人が出かけていくのに何も言わなかった。止めなかった。


髪の毛をセットするのに忙しくって、三人が最後にどんな顔で「行ってきます」って出ていったかも覚えてないの。



日常だった。



私は何も、選ばなかった。



ただその日常を安易に過ごしただけで、あの日から私の世界から家族が消えてしまった。


それはとてつもない衝撃で、損傷が激しいという事もあって遺体の確認もできないまま荼毘にふされた家族の死を、私はうまく受け入れられなかった。


実感がなさ過ぎて涙もでない。


行ってきます、と言ったっきり帰宅が遅れてるだけじゃないかと現実逃避していた脳みそが漸く動き出した頃には、もう葬儀も終わって色々な手続きも済んで、いつの間にか私はお母さんのお姉さんにあたる伯母の家に引き取られていた。


何も選んでいない、決断を下した覚えもないのに状況がどんどん動いていく。


伯母さんは大好きだったし、その家族も優しくしてくれたけど、私の心の中にはポッカリと大きな穴が開いたみたいだった。


「高校だけは絶対に出なさい」と鬼のような顔で言い募る伯母さんに、それでも負担をかけたくなくてちょうど引退の時期もきていたタイミングだったし、私は部活をやめて受験に専念するようになった。



そんな時。


あの金髪に拉致られたんだ。



怖かった。


私が深く考えもせずに選んだせいで、普通の生活を送っていた男の子が『勇者』なんてものにされてしまった。


彼自身には選択の余地なんてなかったのに、状況が彼を変えていく。


戦いを経て『勇者』らしくなっていく葵ちゃんを見るたび、私は怖くて悲しかった。



彼が、自分の意思で人生を選んで欲しかった。



なぜか涙が止まらない。


葵ちゃんはちゃんと選んだ。



私も選ぶ時が来たんだ。


私は……私は、いったいどうしたいんだろう。

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