あなたと出会えて
即興で恋愛小説を書くつもりが前置きが長くなり恋愛に到達しませんでした
短編小説で上げさせていただきましたが後に短編小説づつで続編を書く予定です!
夢のような物語。
そう、夢物語。
夢のような世界は頭の中で思い描いているだけの状態だから夢だと言う。
だけど、頭の中で考えていたことが実際に起きたら?もうそれは夢物語ではない。
現実となる。
あたしは初めて知った。現実ほど物語に満ちていて、想像がつかないほどの素敵なものが待っているということを。
私は孤独だった。一人で家にいるのも、学校にいるのもいつとつまらなかった。誰かといても面白くない。だからただただ外へと赴く。
だけど特にやりたいことがあるわけではない。なんとなくカフェで時間を潰すだけの日々だった。
特に飲みたくもない珈琲を片手に、勉強をしているフリ。今時の学生のように、スマートフォンで何かをすることはしない。SNSという繋がりも気持ち悪くて仕方ない。
「いつもこの席にいますよね」
突然だった。他の席の人に声をかけているのかと思って、気にしないフリをしていたら肩を叩かれた。
「どなたですか?」
すごく冷たかった。自分でも驚くくらいに、冷え切った声が出ていた。
相手は自分と同じか少し上くらいの男の人で、親しみやすそうな笑顔を浮かべているが、怪しさしかない。これがナンパという奴だろうか。そう思って、視線を白紙のノートに戻した。
「学生? いつもここで勉強してるの? 俺もよくここ来るんだ。相席してもいい?」
尚も馴れ馴れしく話しかけてくるので、あたしは無視し続けた。何も反応しなければ、そのうち諦めて他の人のところに行ってくれるに違いない。そう思っていた。
だけど、あたしの考えは甘かった。彼はあたしの承諾など元から得る気などなかったらしく、勝手に自分のカップと鞄とパソコンを持ってやってきた。
あたしはノートに問題を写して勉強をしているフリをしながら、彼の行動を見つめていた。彼は目の前に座っても、特に話しかけてくることはせず、パソコンを操作し始めた。
何考えているんだろう。
何がしたいの?
自分から声をかけるのは癪だったので、教科書の問題を写すことにした。しかし、教科書一ページ分の問題を写し終えても、彼は真剣にパソコンに何かを打ち込み続けている。
つくづく変な人だ。一体何がしたいんだろう。不思議に思って見つめていると、彼が視線に気づいたらしく、キーボードを打つ手を止めてこちらを向いた。
「終わった?」
「えっ、何が」
「何がって、勉強。終わるまで待っていたんだけど、話してもいい?」
ナンパの分際で配慮していたの?それでパソコンで時間潰していたの?あたしは勉強なんてしていなかったのに。
ただのナンパ野郎とは違う。ナンパされた経験なんてないけれど、そんな気がした。単純だって笑われるかもしれない。だけどそんなことどうでもいい。自分が特別だって思ったから。
「あたしに何のご用ですか?」
それでも言葉は冷たいままだ。
「うん、ずっと君に興味があったんだ。僕に手を貸してくれないかな?」
「はっ?」
思わず変な声が漏れた。男の人は吹き出していた。だけど、あたしの反応はきっと間違っていない。
「ぴったりだと思うんだ。そういうところとか」
彼は笑いながら言ってくる。失礼ではないだろうか。
「うーん、なんだか説明するのも面倒だからついてきて」
つくづく変な人だ。普通初対面の人に、名前も素性も名乗らずにどこかに連れて行こうとするものだろうか。そんなにあたしは軽い女に見えるのか。
どうでもいい。それが正直な気持ちだった。自分には守るべきものなんてない。だから万が一変な事になったとしても、それはそれでいい。諦めの気持ちを抱えたまま、黙って男の人の後を着いて行った。
彼の三歩後ろを歩いていると、彼は時々後ろを振り返りながら歩調を緩めて歩いていた。優しい人なのかな。少しだけ速足で歩いて、半歩後ろになるように歩いた。
再び後ろを向いた彼は、あたしが近づいていることに驚いていた。だけど、すぐに笑顔になって歩き続けた。
「もうすぐだから」
彼はまた振り返って笑顔を浮かべた。この人が詐欺師でも、いかがわしいことを考えている人でもいい。そう思わせてくれるような、不安も何もかもを吹き飛ばしてくれるような笑顔だった。
「着いたよ。歩かせてごめんね」
屈託のない笑顔で彼は建物の中に入って行く。
「入って」
建物の中にある扉を開けて、彼はあたしを中へ入るように促した。
「失礼します」
中に何が待ち受けているのか、さっきまではどうなってもいいと思っていたけれど、人間いざとなると怖いものだ。恐る恐る中に入ると、同じ年くらいの男女が数人いた。
「なにこれ」
「おー、遅いぞ。その子誰?」
「あー、助っ人探してたんだよ」
「へー、助っ人ね、前に話していた子じゃないのか。とうとうやったのか」
彼は楽しそうにもみくちゃにされている。まるで大学のサークル活動みたいだ。あたしはそんな集まりに参加したことないけれど、こういう光景はよく見る。
「おいで、こっち手伝ってほしいの」
女の子に手を引かれて、部屋の奥に連れて行かれる。
何?
不思議でしかなかった。だって、あたしは何も聞かされていないんだから。その子も周りの人達も、あたしが不審がっているのがわかったのか、困ったように彼を見ている。
「いや、必死で、何も話していないんだよ」
「本当バカだよな。お前拉致したも同然だぞ」
「大丈夫だから、怖くないからね」
少し大人びた女の人が、あたしに優しく話しかけてくれた。何の集まりかわからない不審感はあるけれど、不快感はなかった。
「カフェを開業する? 本気で言っているの?」
どう見ても学生の集まりだ。人数が十数人いたところで、学生が店を開けるはずがない。
「開業って言っても、本当に店構えるわけじゃないんだ」
訝しむあたしに、彼が責任を持とうとしているのか率先して、ようやく説明してくれた。どうやらインターネットで客を集めて、借りた場所で不定期に営業するらしい。
「それであたしは何をすればいいの?」
「メニューの考案と、チェックをお願いしたいの」
もしかして、あたしがカフェに通っていたから、珈琲好きだと勘違いされたのだろうか?
「まあ、それは建て前でさ。わいわいやりたいじゃん」
彼は嬉しそうに言った。他の人たちも笑顔を浮かべている。
孤独だった。学校にも家にも居場所なんてなくて、誰も自分のことなんて必要としてくれなかった。
「それが理由?」
「他に理由がいるかな? まあ、あえて理由をつけるなら君なら大丈夫って確信があったからかな。変な人を仲間に引き入れたくないからさ」
変な人たち。でも、こんな集まりがあったんだ。あたしなんかでも何も言われずに参加できる、こんな集まりがあったんだ。
「手伝いたい。一緒にやりたい」
皆が笑顔になった。それだけでとても心が温かくなった。もうあたしの吐き出す言葉も冷たくなくなった。