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最終章

 華国の中でも随一の人口を誇る首都清華だったが、何時ものざわめきは無くシンと静まり返っていた。

 清華の中心にある影消本部とその敷地内にある居住、医療地区に出来うる限りの住民を非難させ、都市境と本部防衛に戦力を分けて配備した。

 本部防衛には、精鋭部隊の隊員が多く使われている。街を崩されても作り直せるが、住民の居る本部をやられたらお終いだ。都市境の防衛線には首都の通常業務をこなしていた精鋭部隊以外の影消隊員も組み込まれていた。

「この配備状況も敵さんに知られてたりしてな」

「不吉な冗談言わんで下さい!」

 司令としてもそうだが、戦闘員の一人として真藤も本部防衛の配置に付いていた。

 何時もどおりの軽口を叩く真藤は、ぴりぴりとした緊張感を漂わせている現場の空気を和ませるどころか余計に苛立たせていた。

(その不吉な事が冗談じゃないんだから、始末に悪いんだよ……)

 スッと真顔に戻って心中で毒付く真藤の様子に気付いた者は居ない。気付かせるつもりもなかったが。

(弭芹……あいつはやはり……)

 炯霞が白の武器を持っているのではないかと、思っていたのは確かだ。けれど確証も無く、本人にも否定された。けれど疑念は消えず、あの日偶然見えたのは、やはり間違いじゃなかったのだと、今になって確信する。

(確信が遅すぎたがな……)

 精鋭部隊が発足されたあの日の夜に、支部長室の前に居た炯霞。

 あの時は大して追及する事も無く帰してやったが、本当は微かに見えていたのだ。炯霞の持つ白い笛が。

 けれど光の加減もあったし、何とも言えない状況だった。あの時見せろと問い詰めていれば、状況は違っていたのだろうが、そんな事を思っても後の祭りだ。

(警戒心の強い猫を手懐けてから保護しようとしたら失敗したって感じだなぁ……)

 白の武器を持つ者を、組織が保護しようとするのは表立って言われている様な事が理由ではなかった。

 裏切りを警戒してではない。裏切られた時の対抗戦力としてでもない。

 白の武器の力に飲まれ、暴走した時に手に負えない程の影になる事を阻止する為だ。その行為に鎮めの者も斬る者も還す者も関係ない。三人共に制御法を教え、制御鈴を付ける。それだけの事だ。

(それを表立って言わないのは、上層部のやり方か……)

 前大戦に関わった者で、白の武器保持者に近い所に居た者なら知っている筈だ。

 本当に、裏切りがあった訳じゃないと言う事を。

(いや、違う。裏切りはあったんだ)

 影に飲まれてしまった鎮めの者が、反旗を翻したのは紛れも無い事実だ。けれどそれは彼の意思ではなく、影に操られた人の奥底に眠っている闘争本能の表れ。

(裏切りの事実だけが一人歩きしたのを良い事に、人の心を操った)

 大戦での疲弊、疲れきってそれでもまだ、出現し続ける影に怯える民衆。その彼等に影消の存在と『差別すべき存在』は心の拠り所となった。

 さげずむ対象が出来れば、人は安心する。『あいつ等よりはまだマシだ』と。

 その心理を付いて都市を整備し華国をまとめ、ほんの十年で今の状態に作り上げたのは賞賛しよう。けれど、やり方全てに賛同できなかった。

(お陰で反対した俺も、それを知った天祇も第五都市に左遷だからな)

 だからのし上ろうと決めた。決めたからこそ、同じ匂いをさせた炯霞に目を付けた。

 詳しい事情はわからない。けれど真藤は炯霞を見た時に感じたのだ。自分と同じように現状をどうにか打破しようと足掻いている、のし上ってやろうとしている野心を。

(早まった事してくれるなよ、弭芹)

 ドンっと何かが爆発する音が遠くから聞こえて来た。

「首都境、第三地点で交戦開始」

「……始まったか」

 指示を待つ能力者達に姿が見えるように立ち上がると、真藤は司令らしく声を張った。

「生きて帰れ! 指示は、ただそれだけだ」



 第三地点での交戦は、本部防衛隊にも迅速に伝わった。

「始まりやがったか……」

 本部中央を守るように言い渡された武流の班は、知らせを受けて戦闘体制に入った。

 武器の具現化はしていても疲れる事はない。影を感じ次第即時攻撃に移れるように体制を整えておくには問題なかった。

 班を組んでいるとは言え、今回の班員は今日初めて顔を合わせた者だ。

 人数調整上、仕方がなかったのかもしれないが、知らされていなかっただけに班の斬る者が武流だと知った時の鎮めの者の怯え方は酷かった。

 還す者に諌められて、簡単な自己紹介はしているが、怯えた気配は消えそうもない。

(ちっ……)

 苛付いた気分のまま戦闘に入っては、また危険な戦い方をしてしまうかもしれない。

「何処に行く?」

「見回りだよ」

 還す者の制止の声が聞こえてはいたが、戦闘開始まで班員達と共に居たくなかった。

(俺だって、やりたくてやったわけじゃない……)

 前の戦闘で仄を傷付けてしまった時の事を思い出す。

 仄が影を補足した所を見て、武流は糸を放った。仄の具現武器は帯で、それ自体で敵を縛る事も、花びらを舞散らせて複数の敵を捕捉する事も出来た。

 それなのに仄が下位の班に在籍していたのは、持続性の無さが問題だったのだろう。捉えたと思っていた影が動き出して、仄の持っていた帯を逆に絡め取り、その腕に仄を捕らえたのだ。

 それに気を取られた武流も還す者も、自分に向かっていた触手に気付くのが遅れ、眼前に迫っていた。

(だから、俺は咄嗟に……)

 このまま糸を振るえば、近くに居る仄にも糸が当たってしまう可能性はあった。それは武流も自覚していたし他の二人から見ても判っただろう。

 けれど武流は己の身を守る為に、糸を振るった。影の腕を切り飛ばした糸の先が、仄の顔を舐めて行く。

 影を切った時には付かない、紅い雫を垂らして戻って来た糸に罪悪感が沸かなかった訳でもない。けれどそうしなきゃ自分が殺されていたんだ、と必死に良い訳をして味方を斬り付けた事を正当化した。

(だって、鎮めの者なんかより斬る者の俺の方が大事だろ)

 戦力的に考えても、それは当然の考え方で間違っていないと自分に言い聞かせる。

 もやもやとする気分を晴らす為の理由が、段々と自分の中で本当になって来て、鎮めの者なんてどうでも良いと言い切った。

「鎮めの者より斬る者の方が、偉いんだから……」

「ほんとうに?」

「っ?!」

 突然聞こえて来た声に、息を飲んで振り返る。気配など微塵も感じなかった廊下の先に、ゆらりと立つ人がいた。

「お前……弭芹っ…なんで、ここに?!」

「どうしてだろうね?」

「ふざけんなっ!」

 見下したような視線を向けたまま、聞いた事もない高慢な物言いをする炯霞に、武流は警戒心を剥き出しにして武器を構えようとした。

(震えてる……俺が?!)

 糸を慣れた手付きで絡めている筈なのに上手くいかない。

「怖いの? 俺が」

「違う!」

「無理しなくて良いよ。蛟」

 クスクスと笑うその様は、自信に満ち溢れ自分の優位を信じて疑わない。冷徹な視線のまま笑うそれは嘲りの笑み。

「お前……本当に、弭芹か?」

 武流の質問に、その人はにこりと微笑んでいつもの声色で楽しそうに答える。

「影が僕の事を真似て擬態を作ったと思ったんですか? 意外と甘いんですね、蛟さん」

「弭芹……!」

 何のマネだと、掴みかかろうとする武流の眼前に、何処から伸びて来たのか影が急接近する。

「……っ!」

「逃げないで下さいよ。今貴方の欲しがっている物差し上げますから」

「んだと……」

「力、欲しいでしょ?」

「力……?」

 腕を伸ばして来た影を後ろに飛んで咄嗟に避けながら、武流は炯霞の言葉の真意を探った。

 力を与えるとは、一体どういう事だ?

「怯えなくても大丈夫ですよ。ただこいつに飲まれれば良いんだから」

「!? お前、影を飼い慣らしたのか!?」

「貴方に聞かれた時に、できますよって答えたじゃないですか」

 にこにこと答えを返す炯霞は何時もどおりのはずなのに、ただひたすらに怖かった。震える指は止まらないし、なのに逃げる事も出来ない。

「怖がらないで下さいっては。ただ影を入れるだけですから」

「ふざけんな! 俺は……!」

「大丈夫ですって。第五都市での鎮めの者も影を受け取った後はサイコーの気分だって言ってましたから」

「なっ……!」

 汐が査定に来ていたあの時。突然支部内に現われた影。

 あの影を討伐した事で実力を認められた炯霞はこの精鋭部隊に加えられた。

「じゃあ、お前……わざと……!?」

「そうじゃなきゃ、あんな都合良く影が現われる訳無いでしょう? 今もね、外周にもう影が来てるから、皆の意識が外に向いてるんですよ」

 ふっと遠くを見るように顔を動かす炯霞に釣られて、廊下の窓からほんの少しだけ見える本部外周を見る。

 あちこちで能力の光が放たれていて、混戦模様なのが見て取れた。

「だから、内部からいきなり影が出て来たら、総崩れになるんじゃないかなって思うんですけど、どう思います? 蛟さん?」

「俺を、影にして本部壊そうってのか!」

 怒鳴り声に、いつもの様に炯霞は怯えない。ただ可笑しそうに笑うだけ。その静かな笑みが、より一層怖かった。

「っ……滑れぇ!! 風の糸ぉ!」

 恐怖が限界を超えた。

武流は逃げ出したい気持ちをなんとか攻撃に摩り替えた。作戦も何も無い、無我夢中になって糸を振るった。

「効かないよ」

「な、にっ!」

「燃やせ、白の蝶」

 武流の放った糸が、あと少しで炯霞と彼を取り巻く影に届くと言う所で、美しい旋律と共に出現した蝶によって燃やされた。

「ぁあぁああ!!」

「痛そうだな? あぁ、具現武器って壊されると精神直結で痛みが走るんだったっけ?」

「ぁ……ぐっ……弭芹……!」

「いいね。憎しみの眼だ。もっと憎みなよ。そうすれば影が入れやすい」

 白銀に輝く笛を炯霞が再び奏でれば、炯霞の体から影が出現して武流を覆う。

 いくら照明を使おうとも、光を当てれば人自身が障害となって影を生む。やろうと思えば、自分の影の中に凶暴化した影を飼っておく事くらい出来るのだ。

「止めろぉっ!」

「なぁ蛟。あんた白の武器が完全に影消せるのに何でやらないって怒ってたよな?」

「……それが、なんだ!」

 突然の問いかけに怯みつつも睨み返せば、炯霞は笑って後ろをチラッと振り返る。武流が歩いて来た方向。つまりは仲間の居る方だ。

「蛟! どうかしたのか?」

「っ! 前方から影の反応が有ります!」

「なに! 蛟! 返事をしろ!」

 姿は見えずとも聞こえて来るのは紛れもなく今作戦用の班員達で、こちらにと駆けて来る足音も聞こえる。

「あの二人が来るまで、あまり無いけどちょっと話をしようか?」

「なに……」

 何のつもりだと戸惑いながらも武流は影に押さえられている為に動けない。その武流に見せ付ける様に炯霞は笛を吹くと、二匹の黒い蝶を出現させた。

「この二匹。影なんだけどね、さっきその辺で捕まえたんだ」

「捕まえた……? この辺に影の気配なんて無かったぞ!」

「正確には影になろうとしていたモノって所かな? これをさ、白の力で消したらどうなると思う?」

 脈絡の無い話しの飛び方は、ただでさえ恐怖で混乱する頭には理解できない。

 炯霞が何を言わんとしているのか、掴めないままだったが、どうしてか本能的に直ぐ近くにまできた班員達に向かって武流は叫んだ。

「来るなぁっ!」

「蛟、そこか?!」

 曲がり角から姿を見せた二人の班員は、来るなと叫んだ武流の意図を一瞬で理解した。

「お前は……」

「弭芹……その影は……?!」

 影を身に纏い、明らかに異様さを感じさせる炯霞に、影に捉えられている武流。

視界に納めた光景を理解して直ぐに能力を発動させた二人はさすが精鋭部隊と言えただろう。

けれど、炯霞が二匹の蝶を燃やす方が僅かに早かった。

「っ! ぅあああ!」

「ぐっ……くっ……!」

 蝶が燃やし尽くされた途端、二人は胸を押さえて苦しみだし、倒れ混んだ。

 武流の真横に倒れた鎮めの者の、息が無いのが見て取れた。

「なにを、何をした!?」

「白の力で影を完全消滅させたんだよ」

「なんだと……」

 もう、何が目の前で行われているのか武流には判らなかった。

 思っていたとおり炯霞は白の武器を持っていて、それで? 影になりかかっていたモノを消したら、二人が死んだ? 自分に言い聞かせるように反芻する武流の中で、どうにか線が一本に繋がった。

「人の、心……?」

「正解。意外に理解が良いね」

 笑う炯霞を睨んでも、それはもうなんの効力も生まれない。

「影とは人の負の感情。さっきの蝶はあの二人が溜め込んで垂れ流してた不平や不満。影になる前の感情を具現化させただけ」

「白の力は、人を、殺すのか……」

「そう言う事」

 だから炯霞は憎しみを煽る。その方が武流の存在自体が影に近くなって取り込みやすいからだ。

「だから白の力を組織は使わせない。それからね」

 そう言ってすっと炯霞が笛を奏でると、小さな影だと思っていたものから、複数の影が出現して炯霞を取り囲む。

 まるで主人を守るかのように。

「白の武器を使いし鎮めの者は、影を制し、影を操り、影を使役する。それが俺に与えられた能力。お前が嫌った裏切り者の力だよ」

「てめぇえ! やっぱり! っ……!」

「そのまま大口開けててくれよ。影が入りやすい」

「……がっ…! ぁああああああ!!」

 武流を覆っていた影が、その身の中に侵食を開始する。

物量の無いモノの筈なのに、口も鼻も目も耳も、全てを塞がれ息が出来ない。視界が消える。何も感じられない。

(闇だ……!)

 自分の身すらも見えない闇の中に、放り出された様な、酷く心細い感覚を味わったと思ったら、次は急速に身を切られる様な痛みに変わり、怒りに変わり、激情が過ぎ去った後、ふ、と軽くなった。

「本能に身を委ねたご感想は?」

「体が、軽い……いい、気分だ……」

 その答えに、炯霞は笑った。

 冷笑ではなく、腹の底から声を上げて笑った。嘲笑だ。あんなにも影を嫌っていた武流があっさりと影に飲まれた事に。

「所詮、お前等みたく差別しなきゃ生きていけない様な奴等は、そんなものなんだよ」

 吐き捨てる炯霞の言葉を聴かずして、影となった武流は飛び出した。

 人を恨み、憎み、襲い、傷付け、殺す。

 ただそれだけの感情に飲み込まれて、衝動と本能のままに本部内を走りまわる。

「組織の秘密を知って、組織に殺された母さんの仇だ」

 無数の影を配下に引き連れて、炯霞は激戦を極めている階下へと向かった。今頃はもう防衛線を突破して本陣へと影達は踏み込んで来ているだろう。

 どうしたって影と人との戦いは、人の方が不利なのだ。

 戦いが長引けば出て来る不満、痛み、悲しみ、恐怖。それら全てが影になり、還す者の力では影になる前の状態に戻す事しか出来ない。

 更に影は死者の想いも取り込める。

 恨みを残して死んだ者、未練を残して逝った物。全てが影に取り込まれ力となって人を襲う。

「潰れて貰うよ、影消」



「持ち堪えろ!! ここを突破されたら終わりだ!」

 激を飛ばす真藤の額からも、血が流れ出し、制服も鈎裂きだらけになっていた。

(声が……)

 ぐっと詰まって咳き込んだ時に吐き出された血は、喉が切れた事を示していた。こう言う時に、具現武器がある奴は良いなと、どこか暢気な事を考えてしまう。

「天祇、平気か?」

「喋らない方が良いんじゃないですか?」

「沈黙に耐えられない性質でな」

 ぜいぜいと息を付いているのは、壬蔓も一緒だった。真藤の武器は声。壬蔓の武器は歌。二人共、武器と言う武器ではないのが余計に負担をかけていた。けれど、広範囲、複数の影を還す事が出来るのが、もうこの二人か雷嗣、汐の白の武器を持つ者だけになっていた。

「弭芹は、まだ見つからないか……」

「はい」

「こりゃ、真面目に前大戦の再現かもな……」

 茶化した風でもなく、真藤が呟いた言葉に壬蔓は眉を顰めるだけで文句は言わなかった。

 白の力を使い過ぎて、闇に飲まれた鎮めの者。それを止めようと力を使った斬る者と還す者。互いの力が均衡していたが故に、共に倒れた三人の能力者。

「けれど、弭芹は白の武器を隠していた。使い過ぎる程とは思えません」

「そうだと、良いがな」

 呟く真藤の声に掛かる様に、前線から悲鳴が上がった。

 その場所から崩れるように隊列が乱れ、更に悲鳴に繋がり混乱を呼ぶ。

「どうした?!」

「司令、アレを!」

 指し示されたのは最初に悲鳴の上がった場所で、その僅か上空に浮かぶ様に影に持ち上げられた一人の少年の姿があった。

「あれは、弭芹?!」

 一瞬、捉えられているかの様に見えたが、その表情には余裕が見えた。寧ろ微笑んでいる。

「闇に、堕ちたか……」

 忌々しげに唸る真藤の横で、壬蔓が珍しく顔を歪ませる。これから起こるであろう事態を思うと、流石の壬蔓でも悲観的にならずにはいられなかった。

「ねぇ、白の武器保持者。何処にいるかな? 用があるのはあの二人になんだ」

 影の上に立ったまま、眼下にいる能力者達に問いかけるその口調は何時もと違い、ややゆっくりと、人を馬鹿にした様な話し方だ。

 普段の彼を知らない者ならそう衝撃は大きくないだろうが、精鋭部隊の第一斑を知らない者などいなかった。

『弭芹が影になった』

 ただそれだけでも、能力者達の戦意は崩れていた。能力者が闇に飲まれた場合、並みの影とは強さが違う事は皆知っている。

まして今が第一斑の実力者が飲まれているのだ。敵う訳が無い。そう思っても仕方が無かった。

「楼と神祈を探してどうする、弭芹!」

「どうする? 何言ってるの。殺すに決まってるでしょ」

 真藤の問いに事も無げに答えるその声に、迷い等は微塵も無い。少しの躊躇も戸惑いも見られない。その事が、壬蔓には耐えられなかった。

「何故だ弭芹! 何故白の子同士で戦おうとする!?」

 悲壮な絶叫は、その場にいた能力者達には届いても、影に乗る少年には届かない。壬蔓の問いにも笑いながら、さも可笑しげに答えるのだ。

「邪魔だからに決まってじゃない。僕が支配する世界にあの二人は邪魔なんだよ」

「なっ……!」

「絶対的な力を持つのは僕一人で良いじゃない?」

「お前……!」

 飛び出しそうになる壬蔓を、真藤が止める。攻撃を仕掛けたところで周りを取り囲む影の山に阻まれて当たるどころかこちらが殺られる。

「唸れ、白の水!」

「舞え、白の雷」

 叫びと共に辺りに轟音が響いた。容赦の無い雷嗣の雷が周辺に居た影を一掃し、汐の水が少年を捉える。

「汐、雷嗣!」

「ごめん、遅れた」

 壬蔓の呼びかけに安心させるような笑みを向けてから、汐はくるっと踵を返す。雷嗣は真藤に視線だけで意図を伝えるとそのまま汐を追って前線へと走り出す。

「負傷者を連れて後方まで下がれ」

「巻き込まれたくなかったら退いてて!」

「全軍退避! 脇からの攻撃に備えて防御壁を忘れるな!」

 汐と雷嗣、更には真藤までが出した撤退命令に能力者達は素直に従った。撒き込まれたくないのも十二分にあったが、なにより足手纏いなのを理解していたからだ。

「あれ、良いの? 影消しちゃって。人殺しちゃったんじゃない?」

「馬鹿にしないで」

「死者と生者の区別くらい付く」

「それからっ!」

汐が声を上げると共に水の刃を横薙ぎに振るう。それを飛んでかわしたその頭上から、雷嗣の雷が少年を襲う。

「お前が炯霞じゃない事も、わかってる」

 地面を揺らす轟音の後に、起こった土煙の隙間から、喉を鳴らし、息を多分に含んだ薄気味の悪い笑い声がその場に流れた。

 地に伏していた状態から、ゆらりと立ち上がったそれは、人の姿をしていたが、人の形を保ってはいなかった。

「なぁんだぁ……やぁっぱり武器通して繋がり合ってるから騙されないかぁ」

 妙に間延びした口調で話すそれは、雷によって失った体をそのままに、ゆらりゆらりと不気味に揺れながら徐々に影を己の中に取り込んで行く。

「影を取り込む事で自己を回復させるか」

「炯霞の姿なんか真似しちゃって……全然可愛くないのよ!!」

「うん。可愛くない」

 汐の場違いな発言と、その言葉に頷く雷嗣に、撤退した能力者達が唖然として、壬蔓と真藤は溜息を付いた。

「緊張感ねぇなぁー、あいつら」

「でも、能力者達の感情が落ち着いた」

「……だな」

 恐怖は影を強くする。不安に思えば思うほど、影に付け入られ易くなる。

戦場の雰囲気を和ませるのが一番の戦術だなど、誰も思い付きもしないだろう。

 けれど、緩んだ空気は次の瞬間一気に恐怖へと変わった。

 轟音を立てて背後にあった本部の一部が崩れ落ちたのだ。

「あれ、は……!」

「影?!」

 何時の間に入り込まれたのか、本部の中から影が這い出して来る。一気に多くの影を取り込んだのか、巨大な体躯を持ちながらもまとまりの無い動きをするその影が、撤退していた本陣の直ぐ前まで迫る。

「来るぞ!」

 咄嗟に構えた能力者達の力と、影がぶつかり合う、と言うところで、突然何かに操られる様に影が本部の方へと向き直した。

「何だ……? 何処へ?」

 一瞬の事に漏れた疑問に答えたのは、汐と雷嗣が対峙している影だった。

「医療・居住地区だっけ? それがあるところ」

「なっ……!」

「僕がね、今操って行かせたんだ」

「貴様っ!!」

 声と同時に振られた白銀の扇が、影の上に雷を落とすがそれはひらりとかわされて、笑い声だけを残して影の姿は消えていた。

「追いかけて来なよ。僕は炯霞にも用事があるんだ」

「待ちなさい!」

 流れて行く声と共に、医療地区の方へ消えて行った影を追って汐と雷嗣も駆け出した。



 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

 頭の中に直接鳴り響く声に突き動かされて、武流は辺りにあった影を取り込んで赴くままに暴れた。

「くそっ、いきなり制御が……っ!」

 その荒れ狂う武流を追って、何とか制止させようと動いているのは炯霞だった。

 影に変えて本陣を崩す筈が、急に方向を変え始めた武流を、制御し直そうとしても何かが邪魔になって言う事を効かない。

「その方向には、仄が……!!」

 真っ直ぐに医療地区に向かう武流を、追いかけて走る炯霞の頭上を追い越す影があった。

「みぃーつけた」

 必死に走る炯霞を面白そうに眺めながら、影は後ろを見る。自分を追って来た汐と雷嗣がもう近くまで追い縋って来ていた。

「と、まれぇええ!!」

 炯霞の発する超音波に近い笛の音が、白の蝶となって武流を覆う。手足に値する部分を焼かれたのか、絶叫を上げながらもんどりうった巨体は、医療と居住の為の地区に入り込んで、けれど建物の手前にある前庭の様な空間に転がった。

「炯霞!」

「汐、雷嗣……」

 影を追っていた二人が走り込んで来る。それに炯霞は驚いた様な表情を見せた後、バツが悪そうに視線を逸らした。

「炯霞?」

「お前等なんでこっちに? 本陣は?」

「炯霞こそ、何処に行っていた」

「俺は……っ」

 雷嗣の問いに応えた炯霞の口調が、何時もと違う事に二人も気が付き、炯霞も、しまったと言う顔をする。手に持った白い笛も隠せてない。

 もう、これ以上は騙し通せない。

「炯霞、素の状態だと俺って言うんだね。なんかちょっと意外かも」

「おかしくはない」

 うん、と頷く雷嗣と汐に、炯霞は力が抜けるどころか笛を握る手に力を込めて、どうしてか痛む喉の奥から、震える声を絞り出す。

「なんだよ……その、感想……」

「だって、素の状態始めて見たんだもん。やっぱり白の武器、持ってたんだね」

「こ、れは……」

「何故怯える? 仲間だろう?」

「仲間……?」

 再び、うんと頷く二人が伸ばして来る手を取りたい。

 そんな衝動に駆られながらも、炯霞は手を取る事は出来なかった。

(今更……遅い!)

 手を伸ばす二人から体ごと目を逸らして、炯霞は笛を奏でて蝶を出現させる。

転がっている武流を笛の音で無理やり起こして、誘導する笛の音で交戦中の本陣へと向かわせようとする。

「はぁぁずせりぃいぃ!!」

「本陣を叩け、蛟」

 ぐわっと鎌首をもたげて影が起き上がる。巨大な体躯が蠢いて上半身のみの人の形を取ると、その顔が判別できるほどに整い始めた。

「蛟?! じゃあ、あれ……影に飲まれた姿……?」

「炯霞、何の冗談だ? なぜ影を操って本陣を狙わせる」

 すっと戦闘態勢を取る二人に、炯霞は見せていた背を返して向かい合うと、少しずつ距離を取りはじめる。

「炯霞……?」

「炯霞」

「ごめんね、二人共……」

 謝りながら、炯霞は一瞬だけ泣きそうな顔を見せた後、耳を劈く笛を奏でた。

 鼓膜どころか脳内に直接音を叩き込まれている様な衝撃が二人を襲う。脳に響く音は平衡感覚を鈍らせ、地に膝をつく。

「行けぇえ!」

 炯霞の怒号と共に現われた無数の影と、武流の顔をした影がよろめく二人に襲い掛かる。

「炯霞、なんで!?」

「お前はまだ闇に染まっていない。影を操ってまで、仲間を影に堕してまで俺達と戦う理由は何だ?」

「仇を討つ為……それから、自由になる為だ!!」

 叫びがそのまま笛の音になって炎の蝶が舞い踊る。水の剣で数匹の影を消した汐が、次の攻撃態勢に入る前に蝶は水を滴らせる剣にまとわり付く。

荊の雷を己の周りに張り巡らせて近寄って来た影の殆どを消し去った雷嗣も、新に飛来した複数の蝶に反応しきれず扇に白の熱を受ける。

「っあぅ!!」

「くっ……!」

 制御をしている二人と、制御せずに全力で戦う炯霞では差が歴然としていた。蝶に焼かれる武器が熱い。具現武器に伝わるその熱は、手を通してと言うよりも精神を通して直接体内を焼かれる感覚に陥る。

「制御付けてるその武器に力注ぎ込んだら、容量越えして壊れたりするよな?」

 これ以上力を使うなと制御鈴が鳴り響く。けれど、力を使わずして炯霞には対抗できない。白の武器に対抗できるのは、白の武器だけなのだから。

「白の刃!」

「白の荊!」

水に消され、雷に打たれ、二人を囲む蝶を何とか振り払うが、再度炯霞が呼び出した無数の影と白い蝶が迫る。

「影消が影を支配し、人を支配する。その為の切り札。白の武器。それを壊して、俺は差別と言う束縛から解放されるんだ!」

再び笛を構える炯霞の耳に、己が紡いだのではない旋律が走る。

「これはっ!」

 高音の静なる旋律と、低音の動なる旋律が炯霞の周りにいた影を消し去り、汐と雷嗣の周りに壁を作った。

「真藤司令、壬蔓!」

「二人共無事ね?」

 走り込んで来る二人の他にも数人の能力者がいる。それを見て取った雷嗣のきつい視線を受けて真藤が苦笑を浮かべた。

「何で連れて来たって顔だな? 楼」

「巻き込まない保障はありません」

「大丈夫だ、直ぐ消える。医療地区の一般人救助に来たんだ。お前等助けに来たわけじゃねぇよ」

 真藤の言葉に頷いて、壬蔓も医療地区へと駆け出し、立ち去る寸前に近距離でしか使えない無線機を渡された。

「避難完了したら知らせる。そしたら医療地区壊しても良いぞ」

 じゃあな、と立ち去る真藤に緊張を解されて、二人は改めて炯霞に向き合った。もう一度、何故と問いかける為に。

「泣きそうな顔しながら、攻撃してこないでよ。炯霞」

「……うるさい」

「戦意を失ったなら、もう終わりにしておけ」

「うるさい! 俺は!」

「影消を潰して母さんの仇を討つんだよね。ねぇ? 炯霞」

 突然の言葉に炯霞すらも驚いて背後を振り返る。武流の顔をした巨大な影の上に一人の男が立っていた。

 その面差しは炯霞に似ているが、違う。

「父、さん……?」

「炯霞の、お父さん?!」

「いや、しかし……」

 雷嗣が躊躇するのは当然だ。ニコニコと笑いながら三人を見つめるその人は、父と呼ぶには若すぎる。

「仇を討つ為に頑張ったね、炯霞。褒めてあげるよ」

「父さん……亡くなったと、思って……」

 ふらっと、炯霞が弱々しい足取りで炯霞が近寄る。影の上にいたその人も、軽やかな身のこなしで地に降り立つと炯霞の方へと歩み寄る。

「父さん、俺……」

「あぁ、お前は頑張ったよ、炯霞」

 炯霞、懐かしい声で呼ばれる名前。

 優しく微笑む大好きな顔。

「父さ……」

 一歩、炯霞の足がまた父の元に近付いた。

 汐と雷嗣は本当にそれが炯霞の父なのか、それとも別の何かなのか、判別が出来ないから出るに出れない。

 けれど、どちらにせよ今回の騒動を引き起こしたのが彼なのだとしたら、二人はその人と戦わなければならない。例え、炯霞を敵に回す事になっても。

(あたしは、そんなのは嫌だ……)

 覚悟はしなければならない。けれど、汐はそうなった時に最後まで炯霞に敵対する事を拒否するだろう。

 付き合いは短くとも、炯霞と雷嗣は大切な存在だと思っているから、戦いたくは無い。

(だけど……)

「母さんの仇、とれた、かな……?」

「あぁ。もちろんだ。あと少しだぞ、炯霞」

 優しく微笑むその顔が、汐にはどうしても気に入れなかった。

 穏やかに笑うその表情の、その下に。どうしても何かが引っかかって、炯霞に面差しが似ていると言うのに好きになれない。

「炯霞! ねぇ、本当にお母さんの仇なの?」

「な、に……?」

 仇と言うには今回の騒動は事が大きすぎる。母親を殺した犯人を捕まえるだけならば影を操ってまで戦争を起こさなくても良い筈だ。

「言っただろ、影消を潰すんだって」

「何の為に?」

「差別を無くす為」

 躊躇なく答える炯霞の、さっき言っていた言葉を思い出す。

『影消が影を支配し、人を支配する』

 白の武器を使って組織が影を支配して、人を襲い、自分達で倒す。そんな自演をしているのだと、炯霞は言っていた。

「炯霞、俺達はそんな事に白の武器を使った事は無い」

 影を捉えて人を襲わせるなど、するはずも無い。けれど炯霞は疑う事をやめなかった。

「実際に影消は世界を支配してる。俺達鎮めの者を差別して」

 父が教えてくれた本当の歴史。

 二人が世界を支配しようと企んだのを、止めた鎮めの者は殺されて、汚名を着せられ下級にされ、それを知った母は殺された。

「だから父さんと二人で、復讐して、自由になろうと約束したんだよな、炯霞」

 約束。その言葉で炯霞の中に僅かにあった警戒心が消え去った。

 瀕死の重傷を負いながらも、自分を助けてくれた父さん。

助け、育て、教えてくれた。それから約束をしたのだ。自由になろうと。だから、炯霞がその約束だけを糧に生きて来た。

「さあ炯霞、白の武器を壊そうか?」

「行っちゃ駄目、炯霞!」

 おいで、と言う風に両手を広げる男の方へ、炯霞はふらりと歩み寄る。後ろから呼ぶ汐の声にも気付かない。

 死んだと思っていた父の出現に、緊張の糸が切れた様に頼りなげにふらふらと進む。

その頭上に、武流の影が迫り来るのも気がつかず。

「炯霞! 逃げて!」

「もう遅い! その体頂戴よ炯霞! 僕が有効に使ってあげるからさぁあ!!」

「っ! 父さっ……!?」

 悲鳴の様な警告と、狂った雄叫びにはっと我に帰った時には遅かった。頭上から巨大な影が迫り来て、父の顔をした影から放たれた触手が炯霞の腕を捕らえる。

「くっ……!」

「炯霞!」

 走り出す雷嗣に続いて駆け出そうとする汐の耳に、壬蔓から渡された小型無線の音声が届く。

『汐! 桃舞がそっちに!』

「っ! わかった!」

 慌てた通信の内容は、細かに聞かなくても判った。仄は逃げるよりも戦う方を選んだのだ。

「その体、僕に頂戴!」

「父さん、じゃ……な………じゃぁ…約束、は……?」

 確かに父の顔をしている筈なのに、狂気じみた笑いを浮かばせながら、その身を、影を伸ばして来るソレに、唖然とする。

「守れ雷の荊!」

 炯霞の腕を掴む触手を雷の荊で断ち切って、逃げろと叫んでも炯霞は呆然としていて動けない。

「炯霞、しっかりしろ!」

「邪魔しないでよ!」

「千切れ白の水!」

 雷嗣の雷に阻まれて、男の影は炯霞まで届かない。舌打ちをする男の横から汐の力が襲う。

 男は叫びながら次々に影を呼び出し、雷嗣と汐を襲う。二人はその防衛に必死になり、炯霞はいまだ放心して動かない。

「俺は、何処まで、騙されて……?」

 ポツリと呟かれた炯霞の言葉は、二人を襲う男に届きケタケタと嘲笑を零しながら答えられる。

「最初からだよ! 君の両親殺したのも僕だからねぇえ!!」

「っ! ……うそ、だ……」

 言いながら、ぎょろりと男の顔が変わって見知らぬ人物にと早変わった。

 約束も復讐も未来も

 全ては偽りだったのだと、見知らぬ男が哂うのだ。

「じゃあ俺は、何の為に……!?」

行って来た事全てを否定された。そんな気がした。

愕然とした思いで炯霞はその場にへたり込んでしまった。あまりの事に後ろから呼んでいる汐と雷の声すらも聞こえない。

「大人しくなったところで、体、貰うよ」

「危ない、炯霞!」

 名前を呼ばれるのと同時に、炯霞は突き飛ばされる鈍い感覚と眼前に広がる桃色の髪を見た。

「仄っ!?」

「間に、あったね……」

 槍の様に伸びた男の腕が、華奢な体を貫いている。

 まるでその槍を支えにして立つ人形のように、仄の体は力なく、それでも炯霞に向かって手を伸ばしていた。

「仄っ……!」

「よ、かった……炯霞、無事で……」

 影の槍が引き抜かれるのと同時に崩れ落ちる仄の体を、駆け寄って支える。

抱きしめるその体に、ぬるりとした暖かな感触を見止めて、炯霞は信じられない思いで腕の中の重みを抱き寄せた。

「ふり、そそげ……花の帯」

 吐息の如く放たれた言葉に呼応して、空中に飛んでいた仄の具現武器が旋回して桃の花びらを撒き散らした。

 あたり一面に降り注ぐそれは、一部が帯状に連なって武流を捉え、執拗に炯霞にと手を伸ばす男にも隙を与えた。

「がぁぁああ……! はぁずせぇ……りぃいい!!」

 桃の花に巻き取られながらも、ギリギリと無理やり体を動かす武流に雷嗣の荊が迫る。

「すまん、蛟」

 戻す事は出来ない。だからせめて再び影になる事の無いように全力の白の力で完全なる消滅を与えようと、雷嗣は制御鈴の警告を超えて白の力を使う。

「無に還せ白の雷!」

「ぎっ………ぁぁぁあぁああぁ……!」

 雷嗣の光に包まれて、武流が断末魔の悲鳴を上げながら雷に焼かれて消えて行った。白に飲み込まれる武流に、僅かな黙祷を捧げて雷嗣は男の方を振り返る。

「貫け水の刃!」

 隙を突いたにも関わらず汐の刃を回避した男は、十分な距離を取ってから向き直ってニタリと笑う。

「仄……」

「炯霞……私の、力……みせられたね……」

「うん。綺麗だ……」

 ひらひらと花びらの舞う中で、炯霞の腕に抱かれて仄は、水音の混じる喘鳴をたてながら微笑んだ。

「……戦ってね、最後まで」

「仄っ……」

 ふわりと微笑むと、仄の体から力が抜け落ちる。腕に掛かる重みが増す分だけ、暖かさが失われて行く。

 叫ぶでもなく、ただ涙を流しながら動かなくなった体を抱きしめて炯霞は体を振るわせる。

「ねぇ、なんで泣いてるの?」

 揶揄するつもりも無いだろう、本気で判らないと言った感じに、男が炯霞に問いかける。

「首都壊滅させたらその子だって死ぬ可能性あったじゃない。それでも事起こしたのになんで?」

「き、さまっ……」

「炯霞ってさ、なるべく能力者以外は巻き込まないようにとか、やる事半端なんだよね。だから僕が脇から手伝ってたんだけどさ。なんで邪魔な奴殺しちゃわないの?」

 子供のような口調で、十二分に物騒な事を聞く男の影に炯霞は色々と思い当たる節があった。

「脇から、手伝って……じゃあ、影が俺の指示していない動きで班や都市を襲ったりしていたのは……!」

「僕の指示。なに炯霞、自然に影が動いたとでも思ってたの?」

 馬鹿だなー、と笑う男に向けて炯霞の蝶が舞い踊る。

 怒りに捕らわれた攻撃は、難なく避けられてしまったが黙らせる事は出来た。そして、今の会話で判った。

「お前、差別のない世界なんて、最初から作る気無かったんだな?」

「当たり前じゃん」

 即答が、いっそ心地よかった。

 ゆらりと、炯霞の体から赤い炎が陽炎の様に湧き上がるのが見える。

「真藤、天祇。居るんだろ?」

 視線は正面にいる男を睨んだまま、炯霞は気配だけを感じていた二人を呼んで仄の体を預けた。

「汐と雷嗣も行けよ。巻き込むぞ」

「炯霞……駄目だよ、怒りに任せて戦っちゃ!」

「大丈夫だよ……」

 真藤達の姿が消えるのを見届けると、炯霞はゆっくりとした動きで笛を構え、息を吹き込んだ。

 蝶は出ず、紡ぎ出されるのは鎮魂歌。

悲しき旋律が奏でられる程に、炯霞の纏う炎が色を変えて行く。

 紅蓮から緋色へ変わり

 朱色から山吹、新緑色へと染まった

「お前は、前大戦の白の武器保持者だな?」

 炯霞の紡ぐ静かな怒りと憎悪と悲しみを、心地良さげに聞いている男に雷嗣の冷静な声が届く。

 その声色を男は意外そうな表情で受け止め、頷いた。

「わりと冷静だね。炯霞があんな風になってるのに」

「白の鎮めの者だった男だな?」

 男の言葉は無視して、重ねて問う雷嗣の手には白い雷が産まれていた。

「怖いなぁ。そうだよ。果たせなかった悲願、叶えるために蘇ったんだ」

「炯霞に虚実を教えて洗脳し、手駒としたか」

「君達だって、駒だろ? 二人が君達の元に行ってる筈だよね」

「そうよ。だから私達は真実を知っている」

「真実、ねぇ」

呟きながら男はふと笑うと、新たな影を 出現させる。構える二人のうち、雷嗣に全ての影を突進させ、男は高い跳躍をもって一瞬のうちに汐の後ろを取って耳元に囁く。

「真実を知ってるから、君達を襲うんだよ」

「っ!!」

 囁かれた言葉に汐が息を飲むのと、カチリと時計の針が動き、太陽が沈むのは同時だった。黒の時間に切り替わった途端、男の従えている影の数も強さも跳ね上がる。

「殺せぇ!!」

 有象無象が汐と雷嗣に襲いかかる。ひらめく扇と流れる剣が次々と影を消して行くがキリが無い。

 男が一際巨大な影を操って、雷嗣を潰しにかかる。

「くっ……!」

 巨体が雷嗣を覆い潰す様にのしかかる。それを張り巡らせた雷の網で受け止めて競り合う。

 雑魚を切り捨てていた汐がその攻防に気付いて巨体の足を白の力で切って倒すと、隙を逃さず雷嗣が雷で巨体を消して行く。

「白の雷」

 かっと降り注ぐ雷光の下、ジリジリと消されて行く影が、断末魔の最後にニタリと笑う。

 瞬間、りんっと甲高い音が響いた。

「制御鈴が……!」

 りんりん、と鈴が鳴る。

 限界だ、これ以上力を使うなと制御鈴が訴える。

「雷嗣、力使いすぎだよ、このままじゃ!」

「いっそ制御等ない方が戦い易い」

「雷嗣!」

 りんりんと鈴は鳴り続けている。力を使うな。白の力をこのまま使えば

「制御が壊れたら、あたし達は影に飲まれるんだよ!?」

 白と黒は表裏一体。光が強ければ影も濃くなる。強い力は強い力を呼んで、白の能力者は巨大な影になる。

 影消が白の能力者を見つけ、保護しようとしているのは影にさせない為だ。

 前大戦での鎮めの者の様に。

「制御が壊れて直ぐ影になる訳じゃない」

「だけど……!」

 そう言って前大戦でも鎮めの者は制御を外れ、力を振るい続けたが為に戦いの終わる頃には己が影に飲まれ、叛乱を起こした。

「あたし、嫌だからね。雷嗣の事も、炯霞の事も、殺さないから!」

「わかっている」

 汐も雷嗣も、前大戦での武器保持者が影となって力の使い方を教えに来ていた。

 影と言っても『真実を伝えなければ』と言う後悔の念だけで、悪意のあるものではなかった。

 その影から聞いた大戦での出来事。

 力を使わなければ勝てなかった苦しい戦いの中で、きっと自分を倒してくれると信じて、影に堕ちた鎮めの者と、仲間を殺さなければいけなかった二人。

 その想いを知っているからこそ、汐は制御を外す事を怖がる。力を使う事に怯える。

 その想いを知っているからこそ、雷嗣は揺がない。強い想いに共感できるから。

「早く壊れちゃいなよ!」

 黒い波の様に影が二人を飲み込もうとする。建物の影に潜んで何処からともなく影が飛来し雨の如く襲い掛かる。

「汐は防御に回れ。俺がやる」

「だけど!」

「平気だ。信じろ」

 薄く雷嗣が笑う。滅多に表情を動かさないくせに、こう言う時にだけ人を安心させる笑顔を見せるのはずるい。そう思いながらも汐は無言で頷いて防御の為に力を展開する。

「水の刃、壁を作れ!」

 打ち出される剣戟で襲い掛かって来る影達を押し留め、動きが止まった所から雷嗣が雷で仕留めて行く。

「白の荊、連ねて還せ!」

 雷が空中を横に走る。

 大量の影を一気に消滅させて、影の波の一角を崩す。けれどまだ影は二人に迫り、雷嗣は再び力を使う。

「白の雷!」

 千切れるような音、それに続く大地を揺るがす轟音と広がる光の波紋。次々とかき消えて行く影と、鈴の音の高い音。

「っ……!」

「制御鈴が……」

 リーン、と高くか細い音を残して制御鈴が砕け散った。途端、雷嗣の中で何かが脈打ち、荒れ狂う。

「……っ、影、か……!」

「っははぁ! 限界点突破だねぇ! そのまま壊れちゃいなよ!」

 男の怒鳴り声と共に細かな影が虫のように地を這いずって雷嗣を強襲する。

「っく、ぁ……ぐ……っ!」

「雷嗣!」

 己の中から暴れ出さんとする力の衝動と、体を這い回り外から浸食して来る影の圧力に、雷嗣が必死で抵抗する。

 助けたくとも、影が雷嗣を覆っているのでは攻撃は仕掛けられない。

「黒の時間になればこうやって本来に近い力を使えるんだけどなぁ」

 残念そうな声をあげつつ、表情は楽しそうに男は雷嗣を浸食する影の量を増した。

 闇に堕ちてしまった男は、鎮めの者の時に持っていた影を完全支配できる能力を、今は失っていた。

 闇だけの存在となってしまった男が、影を支配しようとするとどうしてもそれに引き摺られ、操ると言うよりも同化するのに近くなってしまう。そうなると影の受けた攻撃は直に男にも伝わって来る。

「やっぱり、白と黒。両方の力を備えてないと色々不便なんだよね」

 更に男は白の時間での活動制限が強いられる。逆に言えば白の力を使う能力者には力の強まる時間と言えたのだが、その時間は終わってしまった。今白の力を使っても、その威力は何時もより弱い。

「だからさぁ、君の体欲しいんだよ炯霞」

戦いの最中にも流れていた美しい旋律。

その旋律は炯霞が力を増す為に必要な、己の中でかけた制御を解く鍵。

それが終わりに近付くと炯霞の纏う炎は新緑色から天色になり、今や白く光る超高温の焔となっていた。

「やらないよ。お前になんか……」

ゆらりと炎が揺らぐ。

 抑えていない、炯霞の本来の力が体の中から溢れ出しているのがわかる。白い炎に一瞬指先程度触れただけで、それなりの大きさを持った影が燃え尽くされ刹那に消えた。

指先から全身へと萌えて行く様は紙切れの様だ。

「いいね。憎しみに満ちている良い白さだ」

「何も残さず消してやるから、無駄な抵抗はしないでくれよ」

「……炯霞」

 名前を呼んだきり、汐は口を噤んだ。

 あまりの静かさに一瞬恐怖すら感じたが、違う。炯霞の放つ焔は高熱の筈なのに暖かく、優しく、穏やかで、慈愛と言う表現がぴったりくる様な、そんな気がした。

「消えな、死霊」

 ふわっと、炯霞の手から放たれた光の蝶が、雷嗣を捉えていた影に止まる。途端、影は紙切れの様に燃え上がって消えた。

「っ…鎮まれ、俺の……力!」

 表から浸食する影がなくなっても、中から暴れ出そうとする力を抑えなくては雷嗣も影に飲まれる。賢明に抗っていると突然影の動きが弱まった。

「笛の音……?」

 炯霞が紡ぎだす白の笛と飛び立つ蝶の羽音からなる旋律が、影の動きを抑制して雷嗣の意思を保てる様に、体内の影を雷嗣が凌駕した。

「そうか。判ったぞ炯霞」

「雷嗣?」

 ふっと体が楽になる。

 体内の影を支配して、白の力と黒の力。混在する事を自分のなか精神で認めれば、それは一つの力として束ねる事が出来るのだ。

「お前の制御率の高さはこれを知っていたからか」

「残念ながら、教えてくれたのはそこにいる影だけどね」

 にやっと男が笑う。

それは余裕の笑みだ。自分を滅ぼすかもしれない力の使い方をわざわざ教えているからには、もちろんその対処法も知っていると言う事なのだろう。

「それでも」

「あぁ、やるしかないな」

 炯霞と雷嗣が武器を構える。同時に男の周りにいる影達もゆらりと動いた。先ほどまでで倒して来た影は死んだ者の想いばかりだったが、今は違う。揺れ動き男を守る様に地から伸び上がっているのは今を生きている者達の想いだ。

「消せば死ぬよ?」

「わかっている」

「殺すんだ?」

「やらなきゃ、お前を止められない」

 炯霞の言葉終わりで雷嗣と同時に男へと切り込んだ。焔が男を捕らえ雷が落ちる。

 けれど男は哂いながら影を操ってそれを防ぐ。

「ははっ! 判ってるなんて言いながら、結局僕一人を狙って来るんじゃない! それがお前等が僕を殺せない理由だよ!」

「くそっ……」

 雷を防いだ影が瞬きの間にも消えて無くなった。一人の人から出来た影ではなく、複数の意識の塊りだからこそ、強力で強固な影だが、消した時に本人に還る痛みは分散される。

 死んでいるとは限らないが、殺しているかもしれないと言う恐怖に怯えながら戦わなくてはいけない。

(あたしは……)

 男が伸ばした影の触手が二人を捉える。が、それは炯霞の蝶で焼かれた。雷嗣の荊が男を絡め取ろうと動いて、またもや影に阻まれる。瞬間、複数の影が白の力で消えさった。

(戦わないで、見てるだけ……?)

 鋭く硬化した影に引き裂かれ、炯霞の服が裂ける。一緒に少し皮膚を裂かれて血が滲んだ。

 重圧を以って雷嗣を潰そうと動く影が、逃げる雷嗣を追って床や近くの建物の壁を壊しながら進む。逃げ回ってはいるが、壊れた建物の破片等で雷嗣はあちこちに裂傷を負っていた。

(二人共、息が上がって来てる……辛いんだ。影を抑えながら全力を出し続けるのが)

 ぜぇはぁと肩で息をつきながら二人は戦う。極力影を消さないように、男だけを狙って。

 時折咳き込みながら、でも荒れた息を飲み込んで力を使い続ける。

 それなのに、汐には一言も戦えと言わない。

(庇って、くれてるんだね)

 二人は汐が無意識に力を使う事を恐れていた事を知っている。

 影に飲まれる恐怖の為に、制御もままならない程に自信が無く、臆病で精神的に弱い事を知っている。

 だから戦えとは言わない。

(あたしは、また罪を重ねるの?)

 怖い、怖いと逃げているだけで、結局何も乗り越えられていない。雷嗣は空虚の中でも二人を信頼できると感じていた。だから信頼すると決めた。

 炯霞は差別の無い世界をと切望して、それを叶える為に、今まで動いて来た。それが目指したのとは違う物だったが、それでも進んで来た事には変わりない。

(あたしも、戦わなきゃ。守る為に)

 ぐっと汐は剣を握り締める。

 人を殺す力を怖がって、殺してしまった事を悔いて、恐れて、逃げていたって何も変わらない。いつか自分で言った言葉を成し遂げられる様になりたい。

(あたしは戦う。誰かが笑う。その笑顔を守る為にこの力を使うんだ!)

 強く思う。人を殺す力じゃない。人を守る力にするのだと。

 その想いに答えるかの様に剣が光を放って汐を包む。汐の中に何か暖かな物が溢れると、次いで真っ黒のな物で埋め尽くされる。けれど、痛みにも恐怖にも汐は耐える覚悟が出来ていた。

(お願い。あいつを倒す力を!)

 影に飲まれ、闇に堕ちた男を倒す為には圧倒的な強さの光が必要だ。制御鈴等に頼らず、闇と光を束ねて作り出す強い力が。

 リンっと、小さく響いて汐の制御鈴が壊れた。地に落ちて転がるそれに気付いた雷嗣と炯霞が汐を振り返る。

「お待たせ」

 笑って、汐は剣を構えた。それを受けて二人も小さく微笑んで影と一端距離を取る。

 三人で戦うのだ。鎮めて、斬って、無に還す為に。

「大人しく怯えてれば良いのに」

 汐の参戦に男が始めて嫌そうな顔をした。

 やはり三人で戦う事が男を倒す事に繋がる様だ。

「行くよ! 千切れ、白の刃!」

 風を切って汐が走り込む。手にした剣を横薙ぎに振るって出すのは水の刃。けれど、刃を避けた為に固まっていた影が分裂して、小さな影になった所で炯霞の笛の音に乗った白き蝶達が影を取り囲んで動きを封じる。

「汐、次」

「うん。行ける」

 短い会話で互いの動きを把握する。

 白い笛から流れる旋律に、雷嗣はゆっくりと扇を振るう。その度に生まれる雷が男の周囲に集まる影を牽制して手駒にならない様に封じた。

 奏でられる旋律に、飛び交う蝶。旋律が汐と雷嗣の力を引き上げて、蝶は攻撃を繰り出す男の視界を邪魔する。

「ちっ!」

 それを撃ち落そうと伸ばされる、男自身の手が触手のように広がるが、剣舞の如く流れる汐の刃に切り落される。

「僕は、世界を……」

 ふわりとした動きから、生み出されるのは荊の雷。振られる扇の動きに準じて荊はしなり、男の攻撃を絡め取って打ち消した。

「世界を、支配、するんだ!」

 怒号と共に男が巨大な影に変化した。今までに無い圧迫感を感じさせるその巨体に、雷嗣の荊が踊りかかる。

「舞え、白き荊」

 扇から出現した荊が襲い来る巨体にしゅるしゅると絡み付き、締め上げる。

「斬り刻め、白の剣」

 締め上げられて動きを止められてもまだ、抗って暴れていた男を汐の剣が切り刻む。

「ぐっ……が、ぁあああ!!」

 悲鳴なのか雄叫びなのか、絶叫する男のそれは猛り狂っているかのようで、どこか

痛そうでもあり、悲しそうだった。

「焼き尽くせ白の蝶」

 ぶわっと蝶の大群が男を捉える。

 覆い尽すように男を取り囲んで蝶達が羽をはためかせると、白く輝く鱗分が舞い散り、その粉だけで周辺に集まっていた影を消してゆく。

「安心して消えろよ。作って見せるから」

 差別の無い世界を。

「ぁ……っ……!!」

 炯霞の言葉を受け止めて、男は悲鳴を残さずに消えた。

「見せてみてよね」

 ふっと笑いながら、男は消えた。一粒の影も残さずに、跡形も無く。

 後には、静寂だけが残った。

「終った、わね」

「あぁ」

「そうだな。終わった」

 三人三様の短い言葉の後に、がくりと地に膝を着いたのは炯霞が一番最初だった。

 二人よりも長く白の力を使っていたせもあるが、何よりもう気力がなかった。

(終った……何もかも)

 終わりと言う言葉に込められた思いは、二人と炯霞の中で違いがあった。

今まで行って来た全てを否定され、騙されていた炯霞にしたら、これからをどう生きようなんて考えられる訳が無かった。

「やる事いっぱいよねー。まずは後処理と報告?」

「報告はいらんだろう。影消の上層部は入れ替えた方が良いしな」

「そっか。じゃあ真藤さんと壬蔓に頑張って貰おう。炯霞、二人に頼んでみてよ。あんた気に入られてるから」

「…………は?」

 脱力したのか、床に座り込んだ二人は今までと変わらぬ口調で話し始める。これからの事を。そして、炯霞にも手伝えと促すのだ。

「は? じゃなくて」

「やるべき事は多い。ぼうっとしている暇はないぞ」

「俺に、復興を手伝わせる気か?」

 裏切り者なのに? 大勢の人を犠牲にして、この手で漠華の鎮めの者も、武流も影に堕としたと言うのに?

 炯霞の言葉にはそんな意味が含まれていた。けれどそれを判った上で二人は笑う。

「当たり前じゃない。一人だけ逃げようなんて甘い、甘い!」

「サボりは良くないぞ」

「なんだよ、それ……」

 呟いた後で炯霞は笑った。

 影がなくなる事はない。けれど、少なくする事は出来る。

 その為には戦おう。それで誰かが笑えるのならそれで良いと思えるから。

「戦うよ、最後まで」

 炯霞の言葉に懐に入れた桃の結晶が、励ます様にふわりと香った。

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