影と影の会話
ゆらりと暗闇に影が浮かぶ
闇に浮かぶ影は見えない筈なのにやけに目立ち、どうしてか見分ける事が出来る。
きたよきたきた
まってたよたくさんまった
こちらへはようこちらに
たどたどしい言葉が闇の中に響き、影を受け入れる。
言葉を発しているのはもちろん影で、目を凝らせばこの闇が大量の影で埋め尽くされてされているのが分かった。
闇の中にはいろいろな意思。
霧の様な 靄の様な
はっきりしないモノから形を持ったモノまで。
その中に一人の影が入ってくる。
影は他の何よりも黒く濃く、全てを飲み込んでしまうほどの巨大さだ。
いや、巨大なのはその体駆ではなく存在がと言った方が正しい。人の形を取るその中に、凝縮された闇が詰まっている。
主サマ 主サマ
たたかいのじゅんび
できた。みなうごいた。
言われたとおりした。
えいきもうごいた
つぶされる
けされそう
「皆おちついて」
影の発する声は低く暗く、地を這い有象無象のモノ達に響く。
「君等が消されても、別に構わないんだ。君等は言われた場所で言われた通りに暴れてくれれば良いんだよ」
ひとおそったたおしたひと
のんだぞあばれたぞ
とおくまでいったいわれたとおり
でも駄目いわれたこともした
ひとのんだよたおしたよ?
たくさんねてた
飲み込んだら人たくさんねた
だめ言われたけど主さま良いっていう
「良いんだよ。それで良い」
報告なのか雑談なのか分からない言葉の羅列に、影は頷きにやりと笑った。
弱い影しか現われないと安心している礫華と漠華を、強力な影を用いて潰し、影消の戦力を削いで首都を襲う。
「影を操る能力が完全に復活すれば、こんな事くらいたやすいのに……」
忌々しげに吐き捨てる影は、ゆらりと揺れてそれでも、と笑う。
「計画どおりに事は進んでいる。もう直ぐだ。楽しみだなぁ……」
思ったように事が動くのなら、誰も影を止められない。
影はざわざわとうごめきだす
人々は気が付かない。光と影は表裏一体。その光が強ければ強いほどに、その影は濃く暗い物になると言う事に。
「さぁ、散って。一人でも多くの能力者を殺して来てよ」