語らい
「振り役というのは、祭りの主人公みたいなものさ」
そもそも、神颪において特定の主人公は存在しない。
あくまで主体となるのは神さまであるのだが、主人公という感じで分けると、神楽を踊る神楽節、狂言廻し、そして神事の3つに分けられる。
振り役は、神事の主人公だ。
神さまが降りられる土地を清め、出迎えるホスト役というべきだろう。
代々我がやはその振り役を務めていた。
この村の頭領の一族であったからだ。
去年までは父親、子供たちから見たら祖父がその任にあたっていた。
今年は出来ないというのであるのだから、なにか患ったのだろうか。
「父さん、ただいま」
だが、僕の考えとは違って、父親は子供と遊んでいた。
現時点での全員集合となった居間は、記憶よりも小さく感じる。
それでもふすまを開けると50畳を越す部屋となるこの一角は、あくまでも大きな部屋というべきだろう。
「誠人、待ちわびていたぞ」
笑いながらも、今年の夏にとうとう総入れ歯となった歯を見せつけていた。
「ただいま、父さん」
「ああ、お帰り」
まあ、座れよと、父親に言われ、机を挟んで向かい側に座る。
妻はその間に、持ってきた土産を母親と一緒に台所へと運んでいた。
子どもたちは、走り回るのにも疲れたようだが、まだ遊び足りないという雰囲気で、2回へと駆け上がって行く。
「振り役、止めたらしいね」
「ああ、もう歳だからな」
今年で70か、もしかしたら80に足を踏み入れているかもしれない年齢だ。
神事を行うのにも疲れたということだろう。
「振り役は一子相伝。他言無用が鉄則だ。それを分かっているよな」
「ああ、もちろん」
もうずいぶんと昔の話になるのだが、覗き見をしたことがある。
その時、今までなかったほどに叱られ、怒られた。
それ以来、振り役神事については、何も聞く事はなかった。
「誰もいない、今のうちに話しておこうか」
そして、父親は、しゃがれた声で謡いだした。




