プロローグ
いつからか、この季節になると、ふと里に帰りたくなる。
秋口の祭りは、故郷で一番の大きな祭りだった。
限界集落という名前が付こうとも、この時ばかりは、どこの町にも負けないほどの熱気に包まれる。
祭りの名は、「神颪」という。
「いやぁ、久しぶりに帰ってくるなぁ」
家族を引き連れ、実家へと帰る。
いつまでも変わらない茅葺屋根の家は、建てられてから300年を優に越しているらしい。
おばあちゃんから聞いた話では、この山間の谷間に、徳川家から追われた西軍の軍勢の生き残りが住みつき、当時いた村人と一緒に隠れて暮らしていたそうだ。
そのため、昔から続いている家には、だいたい1つや2つは、刀剣類があったりする。
かという我が家にも、戦国時代の初期頃に造られたという謂れがある刀二振りと、残党の頭領が使っていたと言われている華美刀一振りがある。
3つとも、全て正式な銃砲刀剣類登録を行っているため、いろいろと調べられている。
特に華美刀については、美術刀としての登録を受けているため、たまに美術館や博物館の刀剣類の展示会に出品している。
だが、華美刀には、もう一つの役割があった。
「おばあちゃん!」
子供が元気に横を通り過ぎて、祖母へとしがみつきに行く。
子供は二人、息子と娘だ。
共に10歳になったばかり、双子だから、同い年だ。
「おやおや、よく来たねぇ」
「ご無沙汰しています」
妻が祖母に深くお辞儀をしていた。
「そこまでしなくてもいいよ。さあ、あがっといで。おじいちゃんも待ってるよ」
「やったっ」
お盆の時期に帰ってくることはなく、お正月が雪の中にうずもれるこの地域では、この頃に帰ってくるのが一番だ。
今年はシルバーウィークとも言われている5日連続の休みが取れたこともあって、しばらく滞在する予定だ。
靴を脱ぎ散らかして走っていく子供らを、いとおしく祖母は見つめていた。
「あの子らは、この村を好きになってくれたようで、なによりだねぇ」
僕たちが靴を脱いでいる間、祖母が言う。
「ええ、とてもよかったです」
妻が、ほっとしたように言った。
「ああ、そういえば誠人」
誠人とは、僕の名前だ。
「なに、母さん」
「今年の祭りの振り役、頼めるかねぇ」
「え、あれやるのっ?」
いつも見ていた役ではあるが、あれができるとは思えなかった。
その役を知らないようで、妻は僕に聞いてきた。
「振り役って?」
僕は、玄関の段を上がりつつ、妻に説明をはじめる。




