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石を育てるアプリ  作者: 珀桃
いなくなった石を探せ
7/15

『夢の国』作・sumitakamakao

私は夢の国の入国審査を受けにやってきた。石太郎とは途中で別れた。

「うわあああ!俺は、死ぬ前にしたかったこと全部してから死ぬんだぁ!入れろ!」

男がわめいていて、入国審査官と思しき人が止めている。

「ですから、あなたのように***がある人はそれがどんなに悪い***であろうとも入国を許可できません!」

***のところだけはっきりと聞こえてこなかった。某然としていたら、別の入国審査官がやってきた。

「ああ、あなたは入っていいですよ。どうぞこちらへ」

私の設定では、夢の国の入国審査はかなり厳しいはずだが、このsumitakamakaoが作った夢の国はかなり緩やかだ。しかし、それなら何故あの男は入国を許可されないのだろうか?


私のスマートフォンが鳴った。プリンの値引きクーポンが追加されたというかなりどうでもいい通知だった。


「あ、すみませんが、ここから先は地球人にはあまりよくない空気が流れていますので、お手数ですが、このクリームを塗ってください。このクリームを塗るのは、肌が露出しているところだけで結構です。」

入国審査官がクリームの入った壺を差し出してきた。

私は言われるがままにそれを塗った。肌がつるつるになった。悩みの種のにきびもすっかり消えた。不思議なクリームだが、ここは宇宙なのだろうか。


とにかく、夢の国へと入った。そこは不思議な空間だった。皆がしたいことを好き放題にやっていた。ある人はご馳走をたらふく食べ、ある人はずっとゲームをし続け、ある人は山のような本に囲まれて読書をしていた。

私も試しにしたいことを考えた。


「そうだ。プリンを食べよう」

何故プリンが出てきたのかはよくわからないが、おそらくさっき、スマートフォンから『とろける堅焼きプリンが20円引き!』とかいうクーポンの通知が来たからだと思う。

すると床からプリンが出てきた。おっかなびっくりそれを手に取る。いつも食べるプリンと何ら変わりなさそうだった。おまけにスプーンはもちろん、お手拭きもセットだった。

「いただきます」

恐る恐る一口、口に運ぶ。甘いプリンが口の中でとろけた。美味しかった。


プリンをすべて食べた後、私はすることもなかったので、とりあえずそこにいた人に話しかけてみた。

まず、ゲームをし続けている少女に話しかけた。

「誰?」

「夢路美和って言うんだけど、あなたはここにどうして来たの?」

「…オンラインゲームにはまって、学校中退して、親にも怒られて追い出されて、気がついたらここにいた」

「ふーん」

「でも、ここはいいところだね。インターネット回線を突然切られたりしないし、食事もトイレも動かずにできるからね」

ゲーム中毒のその少女は目を輝かせて話す。あまりに感情が高ぶったのだろうか、机の上のグラスを倒してしまった。グラスの中にはジュースが入っていた。そのジュースが私の服にかかってしまった。

「あっ、ごめん!向こうに水道あるから、洗って来なよ」

私は水道へ急いだ。

水道で服の汚れたところを洗い流すと、そばに青い顔をした人が座っていた。

「どうしましたか」

「…ひっ?!」

青い顔をした人はびっくりして後ずさった。

「怪しい者ではないです!ゆ、夢路美和と言います!あなたはどうしてここへ来たんですか」

「お、俺は…まともな職にありつけず、家で親の脛かじる生活をしていて、それでいつの間にかここにいたんだ」

青い顔をした人はぼそぼそと話した。

「でも、ここはいいところだね…金なんかなくても、これが手に入るんだから」

青い顔をした人は懐から白い粉を取り出した。何かの薬だろうか。

「さあ、君にもあげるよ!君みたいな素敵な女の子が、もっと素敵になれる薬だ!」

突然、青い顔をした人は元気になった。今度は私が後ずさる番だった。その人は粉をこちらにばらまいた。おかげで服が粉だらけになった。私は逃げるようにそこを過ぎ去った。


逃げた先には、少年がいた。

「ん?」

私はその少年に既視感を覚えた。

「片岡…真澄?」

「えっ?君はどうして俺のこと知ってるの?」

「知ってるも何も、あなたと私は同じクラスよ。あの魔法使い発言、忘れたとは言わさないわ」

「同じクラス?魔法使い発言?何のこと?」

しらばっくれるつもりだろうか。

「君が何を言ってるか分からない…けど、ここはいいところだよね。学校を留年することが決まったけど、ここへ来られたし、どうでもいいや」

「留年することが決まったって…」

何なんだろう。片岡さんは冗談で言ってる訳じゃなさそうだ。

「ああ、もういいよ。でも、sumitakamakaoって誰か知らない?」

「夢路さん…だっけ?君はやっぱりおかしな人だ!」

その言葉、そっくり返してやりたい。でも何とかこらえた。


「君、もう会ってるんだよ!知らないなんて、あはは、馬鹿だ。あははははは」

この狂った馬鹿には付き合ってられない。

先を急ごう。


すると突然上から大きな金属が落ちて来た。

「うわあっ」

私は咄嗟に避けた。すると大きな金属は引っ込んだ。しかし、頭に何か当たった。割と硬いもののようだ。

それはハードカバーの本だった。

タイトルは…『毛物けもの護人もりびと』。

「あっ、これは」


私は思い出した。それはかなり昔のことだった。この本はファンタジーもので、とにかく緻密なストーリー、あちらこちらに張り巡らされた伏線、圧倒的な世界観に驚かされて、幼い私はこう思った。

「私も小説を書きたい!」

そうだ、私はこの圧倒的な世界観を、誰かに伝えたくて書き続けていたのだ。


「まったく、せっかくの食事も時間が経つと台無しだ…」

声が上から降ってきた。

「?!」

「あの男はまずそうだな。生きる意志はないくせに、自殺する意志は一人前に持ってる」

その言葉を聞いて、入国審査官が引き止めた男を思い出した。


「うわあああ!俺は、死ぬ前にしたかったこと全部してから死ぬんだぁ!入れろ!」

「ですから、あなたのように意志がある人はそれがどんなに悪い意志であろうとも入国を許可できません!」


そうか、あの***は意志と言っていたのか。


「でもこの女はどうです?さっきまではすごく美味しそうだったのになんか、まずそうになってますよ」

「はぁ、そうだな。せっかくかけた調味料も勿体無いしはやく食べるとするか」

「?!」

この女が私を示していることはすぐ分かった。奴ら私を食べる気だ!上から降って来たのは金属ではなくてフォークだった。あれに刺されたらひとたまりもなさそうだ。私は慌てて…本のページをめくった。


おい、逃げろよ!


私は心の中で突っ込んだ。しかし私はページをめくり続けた。

主人公の毛物絵里けものえりが小説の中で喋るシーンが書かれている。

「意志のない人間は生きる価値がありません。食べてしまいましょう」

「ですが、待ってください!毛物様」


私は無我夢中で叫んだ。

「待ってください、毛物様!私には、意志が、意志がありますっ!」

何を言ってるんだろうと思った。さっき、片岡さんが私のことを馬鹿と揶揄したが、私は馬鹿なのかもしれない。


「ほう」

上からまた声が降ってきた。

「じゃあその石とやらを見せてもらおうか」

「えっ?」

戸惑う私の手が最後のページをめくった。そこには、残りのページが四角くくり抜かれていた。中には石が入っていた。

「え、石?これ、アプリの?!」

「ふむ、分かった。お前は石があるんだな。他の奴を食べよう」

毛物様(?)は分かってくれたらしい。フォークを先ほどの青い顔をした人に突き立てた。断末魔のような悲鳴が聞こえて来て、思わず耳を塞いだ。


***


「…わ。美和っ!」

「え?どこ、ここ?夢の国は?」

母が泣いている。舞が心配そうにこちらを見た。

「わあ、美和!やっと目を覚ましたんだね…よかった」

二人によると、私は1ヶ月近く眠り続けていたそうだ。それどんな浦島太郎だよとなんとなく思った。でもこの不思議な体験を二人に言うと、「宮沢賢治のあれみたいだね」と言った。

「あの…注文の多い料理店とかいうの」

言われてみればそんな気もする。


石を育てるアプリを起動すると、まるで何事もなかったかのように石があった。


私は引っかかっていることが一つある。それはあの、片岡真澄の言葉だ。


「君、もう会ってるんだよ!知らないなんて、あはは、馬鹿だ。あははははは」


sumitakamakao…奴は一体、誰なんだ?

一話にまとめようとしてものすごく長くなりました。(3.11改稿)サブタイトルのローマ字の語尾がおかしかったので直しました。本のタイトルにふりがなをつけました。

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