魔法使いと本の虫と絵描きの卵
人物設定と舞台の説明に当たるお話。
私は高校3年生で受験生だ。通う高校は進学校だ。勉強はあまり得意ではないが、しいて言えば、国語が他の教科より得意だ。
私は国語が好きだ。活字が好きだ。本が好きだ。文字が好きだ。
クラスの誰からも「美和さんといえば本」という筋金入りの本の虫であり、この2年間で100冊近く読破した。
…なんとなく、文学が学べる大学に行きたいと思うのだが、やはり現実的な問題で、家から通いやすいとか、学費が安いからとか、陳腐な理由で大学選びをしてしまっていると思う。
なんとなく。この5文字こそ私のすべてかもしれない。
「美和!おはよう」
「舞、おはよう」
声をかけてきたのは友人の立花舞。
舞は私と違って、読書があまり好きではない。彼女に言わせてみると、「あんな文字だらけのもの、よく読めるね」だそうだ。
舞は絵を描くのが得意でよく自作の漫画などを私に見せてくれる。
将来は漫画家とかイラストレーターになりたいと言っていた。
「美和は大学どこに行くの?」
「私は県内の大学で文学が学べるところがいいと思ってる。まだ分からないけど…舞は?」
「私ね、芸術系がいいんだけど…」
舞は言い淀んで、
「まだ決めてない」と言った。
「そうだ。昨日変なアプリを見つけたんだ」
「どんなの?」
「石を育てるゲーム」
ほら、と私はスマートフォンを見せた。
「へぇ、石のくせに柔らかそうだね」
「え?」
見ると、昨日は石そのものだった石が、今日はぷよぷよしたゼリーのようになっていた。タッチすると、ぽよーんと画面の中を跳ねてて行く。さらにサイズも小さくなったようだ。
「何もしてないんだけどな」
「でもこれ、顔があったら可愛いと思うよ」
「顔?」
「ほら、いろいろあるでしょ。見るからに気持ち悪いリアルな顔とか、可愛いゆるキャラのような顔とか。」
舞はそういって手元の紙にささっといろんな顔を描いてこちらに見せた。
確かに顔があれば愛着が湧きそうだと思った。
「…所詮石は石だよ」隣からひょこっと突然会話に入ってきたのは片岡真澄。この名前から女子を連想するかもしれないので断っておくが、男子だ。
「…えっ」
普段、というか今まで話したことが一回もなかったのでびっくりした。
「はじめまして、美和さん舞さん。俺は真澄と言います。魔法使いを目指しています。今後ともよろしくお願いします」
と、彼は真顔で言った。