sumitakamakaoの正体
センター試験が近づいてきた冬のある日のことだった。
「美和。」
舞がやって来た。舞から声をかけられるなんて久しぶりだったので、私は思わず身構えた。
「これあげる」
舞はお守りを差し出した。真っ赤な布に合格祈願と刺繍されていて、少し重たかった。
「あ、ありがとう」
「中にね、石を入れた」
私はびっくりした。驚いた私に構わず舞は淡々と喋り続けた。
「石がいろんなことの始まりだったような気がするから」
「…そうかもね」
「私は絵を描いていく。美和は小説を書いていく。」
舞の何やら吹っ切れたような表情を見て私は思った。今なら彼女に言えると。
「ごめんなさい。舞に変な疑いかけて」
「こっちこそ悪かったわ。そんな小さなことで親友を無視なんかしてしまって」
「…しんゆう?」
「そうだよ、親しい友達」
それをずっと遠目で見守る人物がいた。片岡真澄である。彼は胸をなでおろしそそくさと退散しようとした。…が、舞が気づいて呼び止めた。
「片岡さん!」
「は、はい!」
いつもふざけている片岡さんが慌てながら真面目な返事をしたので私はくすっと笑った。
「片岡さんにもこれあげる!」
そう言って舞は私にあげたのと同じお守りを差し出した。片岡さんは中に石があるのを見て、驚いて舞を見た。なぜ、と言いたげな顔つきだった。しかし、それも一瞬だった。すぐにいつもの顔に戻った。
「ありがとう、立花さん」
彼はにこやかに去って行った。私は彼のあの表情が気になってしょうがなかった。
「そういえば片岡さんって留年してるんだよね。なんか夢中になって勉強をおろそかにしたらしい」
「ふーん…」
「まあ、噂だけどね」
それから暫くしてセンター試験があった。私は自分の今までの頑張りをこの試験にかけている。英語、日本史、国語、理科、数学、どれも落としたくなかった。でもやはり苦手教科の点数はふるわなかった。でも私はT大学に出願した。舞のくれたお守りの石や、アプリの石を見ながら考えた。そうだ、sumitakamakaoに自分で考えた『夢の国』の話の下書きを送ろう。それから謝ろう。詮索してごめんなさいと。
私はsumitakamakaoに以下のような内容のメールを送った。
『いろいろ探ってごめんなさい。もうあなたのことを詮索しません。最後に夢の国の話の下書きを見てください。
夢の国は、結局楽したい人間の集まりで、彼らは明確な意志もなく、向上心もない。このような集団にいても全くいい事はないと気づいた主人公は脱出を図る。しかし、やはり楽できるのにわざわざ大変な思いをしに戻ることへの未練だとか、周囲の誘惑をはじめとする脱出を妨げる試練が主人公を待ち受けていた。主人公は屈せず夢の国脱出に成功する。そのとき主人公には意志があった。
という感じです。拙い文章でうまく伝えられるか分かりませんが、もし感想や一言言いたいことがあったら返事をくれると嬉しいです』
返事は来なかった。
二次試験が始まる頃、私はかなり前の模試の問題を見つけて眺めていた。なんでそうしたかはよく分からないがふと見つけて眺めたい気分に駆られた。そしてある事に気づいた。ああ、こういうことだったんだ。分かったよ、sumitakamakao。
「ねえ片岡さんこれ見てよ」
「そんなの見てどうするの?センター試験終わったのに」
片岡さんが不思議そうに聞いてきた。
「この、ローマ字並び替えて何通りって問題。あの時分からなかったんだけど、今分かったんだ。ローマ字を平仮名にすると!」
「は?」
「suugaku、数学だということが分かったんだ」
「何、してるんだよ夢路さん。そんなの問題見たら、分かること………」
片岡さんの表情がすっと消えた。
「sumitakamakao、すみたかまかお…」
私はうわごとのように繰り返した。
「夢路さん、どうかしたのかな」
「ねえ片岡さん、これは私の想像なんだけど、『夢の国』はどうだったかな。返事、くれなかったよね」
「何の事かな、夢路さん」
片岡さんの表情がみるみるうちに変わっていく。
「とぼけないで。あなたがそうなんでしょ。違うの?」
片岡さんははぁ、とため息をついた。
「この問題と同じだったんだよ。すみたかまかお。並び替えたらかたおかますみ。これでもとぼけられる?」
片岡さんは観念しましたという顔になった。
「…あの主人公は夢路さんみたいだと思ったよ。」
「まぁ、そうかもしれないね。あれは自らの体験を元にしたところがあるから。」
「俺がsumitakamakaoって、ついに突き止めちゃったか。あーあ残念、夢路さんを彼女にして種明かししようと思ってたのにさ」
片岡さんーーーsumitakamakaoがついに私の前に現れた。私は彼にいっぱい聞きたいことがあった。
次回完結を予定しております。