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石を育てるアプリ  作者: 珀桃
石を認めたくない
13/15

とてもたのしいクリスマス

12月4日。時計の針が進む。休むことなく秒針が動き続けている。先生が何やら熱弁をふるっているが、私の耳を素通りしていく。私は時計しか見ていない。今ここには時計と私しかいないんじゃと錯覚するぐらいじっと見ている。その時間が近づくたびに汗が出る。緊張している。

なぜ私がこんなに緊張しているかというと、今日は推薦入試の合格発表の日だからだ。10時にそれは発表される。時計の針がようやく10時を示した。でもまだ授業は続いている。


授業がやっと終わり、私は教室を飛び出した。職員室の前に澪標先生がいた。紙を持って立ち尽くしている。

「先生!」

「夢路さん!これを見て、番号ある?」

私は紙をざっと見渡す。合格した7名の受験番号がずらっと並んでいる。3回くらい見渡した。ない、私の番号がなかった。ああ、落ちたな、と気が抜けていった。作家になりたいと意気込みを書いた志望理由書も所詮、「動機が薄い」とか思われたのだろうか。面接の時、言いたいことを全て言えなかったせいだろうな。落ちた。

「夢路さん、でもまだチャンスはあるんでしょ。後期試験で受かるかもしれないし」


「番号なかったね」

母が帰ってくるなり開口一番、そう言った。

「うん」

「受験料無駄にしたなぁ。まあ、あんな遠方の大学、受かってもしょうがないよね。縁がなかったってことよ」

「…。」

やりきれない思いでいっぱいだった。志望理由書に作家になりたいと書くことで夢に近づけたような気がした。落ちたことで全て最初に戻ったかのような喪失感が広がった。夢の国に行く前の自分に戻ったかのような気分だ。石を育てるアプリを起動すると、なんと石は紐で吊るされていた。それを見た瞬間、操り人形という言葉が浮かんだ。言われるがままに行動した自分…。


違う、あれは自分の意志で受けようと決めたんだ。言われたからじゃない。S大学に少なくとも魅力を感じて受けたんだ。断じて操り人形ではない。


くよくよしていても駄目だ。T大学という目標はまだあるではないか。センター試験まであとわずかしかないんだ。少しでも点を取らなくてはいけない。

それから学校に居残って勉強するようになった。夜の7時くらいまで居残っていると、あたりはもう日が暮れている。イルミネーションで飾られた街並みや、クリスマスケーキを売っているケーキ屋、サンタクロースのイラストが描かれた看板。周りはクリスマスムードに浮かれていたが、私の心は沈んでいた。私はケーキ屋の前でクリスマスケーキをぼけーっと見つめていた。

(いくら勉強したって変わりっこない…)

「メリークリスマス」

沈みきっている私の隣に誰かがいる。

サンタさんが私を哀れんでくれたのだろうか?それにしても、まだ12月5日だ。あわてんぼうのサンタクロースでもこんなに早く来るものだろうか。

「夢路さん」

片岡真澄が横に居た。

「…また片岡さんか!こういう変な事するのはあなたしかいないしね!」

「変?まあ、そうだね。魔法使いになるんだから仕方ないさ」

「だからそういうのやめてって言ってるでしょ」

「俺は魔法使いになれなかったよ。こんなことしてる奴は魔法使い失格だ」

「魔法学校の試験でも受けたの?」

「そんなことするわけないじゃないか。馬鹿だなあ、夢路さん」

何なのよ、こいつは…なんで私ばっかりちょっかいかけてくるんだよ!

「片岡さんとはまともな会話ができない…」

ぽつりと私がつぶやくと、片岡さんの雰囲気が変わった。こちらに一歩踏み出してきた。ち、近づいてこないでよ。何だか怖い。私が後ずさると片岡さんがそのぶん近づいてきて距離が開かない。

「夢路さん、俺は」

先程までのふざけた雰囲気がなくなり、真剣にこちらを見ている。何だこの状況。も、もしかして、告白…

「ご、ごめんなさいっ!わ、私、片岡さんのことそういう対象として見てないんです!」

私は顔を真っ赤にして手を前に突き出して弁解した。片岡さんは鳩が豆鉄砲食ったような顔になった。あれ?私おかしなこと言ったか?今度は私が鳩が豆鉄砲食ったような顔になった。

「…あはははは!はは、夢路さん、君はやっぱりおかしな人だ!」

夢の国にいた片岡真澄と同じことをまた言われた。さっきから馬鹿だのおかしな人だのひどい言われようだ。

「か、片岡さんだって、おかしいよ!わけわかんない事言って私達を馬鹿にして!」

今度は言い返した。

「夢路さん。すごく面白かったよ、今の。ありがとう。今落ち込んでたんだけど君のおかげで元気になれた。夢路さんもT大学目指して頑張れ」

「言われなくても頑張るっつーの!このエセ魔法使いが!」

片岡さんはまだ笑いが止まらないらしく、大笑いしながらどこかへ行ってしまった。



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