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石を育てるアプリ  作者: 珀桃
石を認めたくない
12/15

あなたが現れなければよかったのに

私は駅のホームで電車を待っている。電車に一人で乗るのは初めてだったので少し心細い。いよいよ今日は推薦入試本番だ。会場へ向かうために電車を待っている。


それから電車を乗り継ぐこと数時間。私はバス停の前に居た。隣にも学生服を来た女の子がバスを待っていた。スマートフォンを見ているようだが、時々顔を上げている。


(もしかしてこの人も…同じ大学を)


でも私には見知らぬ他人に話しかけられるほどコミュニケーションが上手ではなかった。女の子のスマートフォンがちらりと見えた。あれは…石を育てるアプリ?この人も!ますます話しかけたくなったがどうすべきかともじもじしていると向こうから話しかけられた。

「あの…」

「は、はい!」

「もしかしてあなたもS大学の推薦入試ですか?」

「はい!人文学部です!」

「本当ですか?私もですよ!」

一緒にバスに乗り込み、さりげなく石を育てるアプリについて聞いてみた。ついでに石が意志の強さによって育つという発見も教えた。

「ああ、このアプリ。不思議ですよね。勝手に育つから変だなって思ってたらそういうことですか。納得しました。」

女の子はなるほど、と手を叩いた。

「あのさ、それを作った開発者ってどんな人だと思う?」

「うーん、それは難しいな…ヒントとかない?」

「同級生が言うには、私がもう会ってる人で、先生が言うには私と同じように悩んでるんだって」

「…これ、あくまでも私の予測だけど、もしかして学生かもよ。もう会ってて同じように悩んでるんでしょ?」

「え、でも学生がアプリとかつくれちゃうの?」

「技術と金があればできるんじゃないかな。」


そこまで話したところでバスがS大学についた。二人とも下車する。推薦入試の会場まで迷いつつもたどり着く。


もう既にたくさんの受験者が着席している。知らない制服ばかりだ。確か、倍率は3倍あったような気がする。この人たちを押しのけて合格できるだろうか、と少し弱気になった。やがて、試験が始まった。まずは小論文からだった。言語について書かれた評論が出て、中に私が名前だけは知っている某アーティストの歌が出てきてユニークな文章だと思った。澪標先生のアドバイスを思い出しながら小論文を書いていく。


小論文の試験が終わり、休み時間になり、周りがざわつきはじめた。友人同士で話しているのだろう。あの女の子どこに座ったのかなーと思ったが探さなかった。面接の質疑応答の仕方を復習しながら面接の順番を待った。しばらくすると面接の諸注意があり、面接が始まった。


自分の受験番号が呼ばれた。私は立った。面接室まで歩く。ノックを2回する。どうぞ、と声が聞こえた。私はドアを開けた。


そこは真っ白い空間だった。面接官が3人座っていた。椅子に着席するよう求められる。もし受かったらこんな感じの教室で授業を受けるのだろうか?

「緊張していますか?」

「はい」

最初に質問してきた面接官の顔が石山石太郎に似ている気がした。あれは小説のキャラクターであって実在しないはずだが、目の前の面接官が石太郎にしか見えなかった。私は緊張しすぎて言いたかった事の半分も言えず、終始読んだ本について話していた。面接官は頷きながら私の話を聞いて時折興味深そうにしていた。


翌日、澪標先生にこの事を話した。面接官が印象よく見えても駄目な事もあるし、その逆も然りだから、結果をあまり気にするな、と言われた。


「舞、推薦入試大変だったよ」

「そう」

舞はやはり冷たいままだった。sumitakamakaoは学生かも、とあの女の子は言った。

それが本当なら舞は、やはり…いや、でもだからといって決めつけるのはよくないのだ。現に今、決めつけたばかりにこうなっているのだから。仲直りしたい。ごめんなさいと謝ればいいのか。あのとき片岡さんが言ったように。

「夢路さん」

「片岡さん?」

「12月24日、予定何かある?」

「は?クリスマスイブの予定なんかないよ」

「なら俺とどこか行かないか?」

「やだよ。恋人でもないのに。」

「ふーん、そうか。まあそうだね」


私は家に帰った。石を育てるアプリのストア説明文を眺めていた。このアプリに関連する項目、とある。そこにはsumitakamakaoが作ったアプリがたくさんあった。ゲームやRSSリーダーアプリやTwitterアプリなど多岐に渡っていた。


私の石はころころと転がっている。


『sumitakamakaoさんは学生ですか?』

私は何気なく聞いた。するとこのような返事が来た。

『もう私の事をこれ以上詮索しないでくれ!…あなたがいなければ私は私を思い出す事はなかったのに…』


どういうことだ?しかしsumitakamakaoから返事が来ることはなかった。



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