/蠟燭片鱗 6/?
誰も歩いていない夜道はいつも見慣れている景色のはずなのにどこか息をひそめているように静かに声を殺し人間を観察している。誰の目にも留まらぬようにひっそりと寝息を立てているようだった。万物全てには意思がある。絶対にないであろうと思っていた機械にでさえAIが組み込まれようとしている世の中。どこに命が落ちているか分かったもんじゃあない。もしかしたら車にも人工知能が組み込まれ人は何もしなくても車同士がぶつかりそうになると自分の意思で止まったりする車も出てくるかもしれない。それが、いいのか悪いのかなんて分からないけど、未来を見据えて思うなら機械発展は人間にとっていい事よりも悪いことの方が多い気がする。
ヒンヤリとした風が頬を撫で指先に突き刺さってくる。手先が冷え始め両手で擦り息をかけ暖をとろうとしてみたけど思った以上に暖かくならない。数回繰り返しやったところで暖かくなるはずもない。袋に入れた夜ご飯にと思い買った軽食も冷え切ってしまっていた。それに関しては事務所にある電子レンジで温めれば良いから気にはしない。
「あ」
嫌な事を思い出してしまう。奈保さんは一度温まったものが冷え、再度温めなおす食べ物はとことん嫌う事を忘れていた。以前、夏祭りの帰りお土産としてたこ焼きを買って帰った事がある。その時、奈保さんは喜び箱を開けると別人?と聞きたくなるほど冷めきった目で睨みつけてきた。「私は出来たてが好きなんだ。一度温まって冷えた食べ物は水滴が出て食感を殺してしまう。なにより柔らかくなるから嫌だ。買い直し!」ともう一度わざわざたこ焼きを買うだけの為に走らされた事がある。その事を思い出してしまったからにはこの軽食を渡す事ができない。小さく誰に向ける事もなくため息をつきコンビニへと向きを変えようと思っていると丁度そこに一台の車が目に入る。運転手に分かるように手を上げる、と運転手も気がついてくれたのかハザードを付け停車する。
「いらっしゃい」
「まだ残ってますか?」
「これぐらいだな」
そう言うと運転手はかごに入ったパンを見せてくる。残りものには福があるとは言ったものでカツサンド、タマゴサンド、ハムサンドと言う売れ残る事が間違いなくほぼないであろう人気惣菜パンを購入する事ができた。袋に入れながら少し強面のおじさんが話しかけてくる。
「にいちゃん。残業かい?」
「残業って言うほどのものでもないですけど。おじさんこそ遅くまで働いとられてお疲れ様です」
「俺は帰る途中だったからな」
「そうなんですか・・・なんかすいません」
「・・・まあ、頑張んな」
そう言うとおまけだろう、アンパンを袋に入れてくれる。お礼を言おうとした時にはドアを閉められ車は出発してしまう。おじさんは急いでいたのだろうか。申し訳なくなり遠くに見える車に一礼をすると急ぎ事務所へと戻る。事務所のドアに手をかけ開けると奈保さんは相変わらず難しそうな表情で何か資料に目をやっていた。
「戻りました」
返事が返ってこない事は分かっていたのだけど一応礼儀として声をかけテーブルに買ってきたパンを置きいつもの場所へコートをかけ自分の席へと戻る。少ししか歩いていないのに何故か疲労がどっと押し寄せてくる。
「ふー」
「なんだ?ちょっと散歩してきただけなのに疲れたのか?」
「あ、戻りました」
「おかえり。それより私が言った通り何もなかったでしょう?」
悪戯っぽくほほ笑みながら奈保さんが僕を見てくる。無駄足だったと言う事を知ってこの言葉を言う所が奈保さんのいやらしいところ。僕は負け惜しみでもないのだけど今日、あった事を話す。【パペット】【突然発火】【真っ青な瞳の女の子】この事を話す。
「ふーん。なるほど。死体が自然発火をしたってのは面白いね。キミが言う通りならそれは誰かの意思が動いたことによる放火とみて間違いない」
「話題をふった僕が言うのもなんですけど話しを聞いただけで発火じゃあなく放火だって言いきれるもんですか?」
クスリとほほ笑み買ってきたカツサンドを開けながら彼女は続ける。
「まあね。でも、その理由を分かったところでキミには何もできないし理解すらできないだろうね」
「はぁ・・・」
クスクスと笑いながらカツサンドを半分口にするとまた自分の席へと戻り資料に目をやり始める。本当は理由を知りたかったのだけど、奈保さんが僕には理解すらできないと言うのだからそうなんだろう。彼女は年の割にお茶らけたりするのだけど嘘は言わない。だから、聞き返す事もなければ言い返す事はまずないと言ってもいい。奈保さんの食べかけのカツサンドを皿にのせラップに包み自分の席へと戻る、と奈保さんがちょっと買い物頼むよなんて言いだしそうな気さくな声で話しかけてくる。
「キミが会ったって言う女の子には気を付けた方がいい。雰囲気からして魔を持っているから」




