/蠟燭片鱗 5/?
そのまま目を瞑り神経を澄ましてみる。どうしてそんな行動を取ったのかは分からない。しかし、彼なりの直感が働いたのだろう。すると先ほどは気がつかなかったが、誰かの足音がこちらに向かって来ている気がした為、見周りの警察官だとしたら面倒になってしまうと思い物陰へと身を隠す。コツコツと足音らしき音は近付いてくる。物陰から様子を窺っていると小さな少女が血痕のあった場所へ自分の体以上に大きな花束を置き手のひらを合わせ夜空を見上げる。彼女は死者に対しての追悼をしているのだろう。つられ彼女が視線を向けている夜空を見てみると言葉を失ってしまう。
「・・・」
雲空だった夜空が徐々に風に流され満点の星空へと変わっていく。まるで彼女の意思を酌んだかのように空が、地球が意思を持ち動いているように感じる。普段、星空を見て綺麗だしか思わないのだけど、今の夜空は妙に生々しく、鼓動を感じ生きているのではないかと思わせる薄気味悪さがにじみ出ていた。視線を落とし彼女を見てみると未だ手を合わせ両膝を地面につけ空に向かい祈りをささげている。姿を隠していた月が彼女を照らし出す。暗くよく分からなかった彼女の容姿が月の光によって鮮明に映し出される。
「・・・」
月の光によって照らされる彼女は神々しささえ感じてしまう。しばらくの間、動くことも呼吸をする事も忘れ彼女を見ていた、と言うよりもたかだか十歳にもいかない少女の祈る姿に見蕩れてしまっていた。すると彼女は合わせていた手を離し、祈りを止め静かにゆっくりと慈愛を込めた表情でこちらを見てくる。彼女の場所体と絶対に見つかるはずがない。なのに彼女は僕の方へ視線を向けてくる。
「誰かいるのですか?」
彼女は優しく囁くように投げかけてくる。
「ゴメン。別に隠れて盗み見るつもりじゃあなかったんだ」
謝罪をしながら陰から姿を現す。彼女もまた立ちあがり容姿とは違い大人の女性の様な表情を向けてくる。色白で真っ青な瞳。きっと彼女は外国の貴族かなんかだろう。周りから出ている雰囲気がどことなく高級感があり気品もある。彼女に見つめられ精神を見えない何かに掴まれてしまったかのような不思議な感覚に囚われる。
「あの、こんな所でなにをしているんですか?」
容姿は幼いのにもかかわらず醸し出される雰囲気でついつい敬語になってしまう。すると彼女はクスリとほほ笑む。
「知り合いがここで眠りについたと言う事を聞いて、礼儀として花をたむけに来たんです。お兄さんこそ隠れていてなにをしていたんですか?」
「ちょっと散歩をしていたんだ」
「そうですか。夜の散歩はいいですよね。朝が終わり夜へと変わる時が肌で感じる事がでるから好きです」
そう言い終わると彼女は頭を下げ歩きだしていく、が大切な事を言い忘れたかのように彼女は歩いた後、立ち止まりもう一度こちらを向いてくる。
「ホん当ハどうシてこノ場ショに?」
「・・・」
彼女は僕に嘘ではなく本音を聞いていた。先ほど言った言葉は嘘だとばれていた。数分前の彼女とは違い薄気味悪いほほ笑みになっている事に今さらながら気がつく。せっかくの綺麗な顔立ちが勿体ないと思ってしまうほどに歪んだほほ笑み。
「本当にただ散歩をしていただけだよ。もしもそれが本当のことじゃあないとしても今日ここで初めて会った君に僕の本音を話す意味もないし必要もないと思うんだ。どうかな?」
「・・・」
彼女は思ってもいない返答だったのかクスリとほほ笑む。不気味ではなくこのほほ笑みは先ほど感じた優しいほほ笑みな気がする。
「それもそうですね。ここで会ったのも何かの縁。また、何れお兄さんとは会える気がします。さようなら。帰り道には気を付け・・・いえ。今さらお兄さんにこんな事を言っても仕方がないですね」
そう言うと彼女は歩き去ってしまう。彼女のすぐ後を追うのもどうかと思ったのだけど流石にずっと殺人現場に居て次こそ警察官に見つかったら面倒だったため彼女のあとを追うように歩きだす。先ほど来た道を歩いてみても彼女の姿を見る事はなかった。
「とりあえず収穫は無し・・・それよりさっきはここの通りこんなに人が居たっけ?」
知っている道へと戻る、とそこは先ほどまでとは違う世界かと思わせるほど命が溢れていた。先ほど起きた爆発の野次馬たちが家へと帰っているのだろう。人が歩いている方向と真逆へ歩いて行く。コンビニに寄る気力もなかったので近くにあった自動販売機で奈保さん、遙堪、僕の三人分の夜食を買いビルへと戻ることにした。




