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末期ナ意味  作者: masaya
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/蠟燭片鱗 4/?

「うぇ・・・ごほっごほっ」

腐臭に包まれた空気が僕の背中にのしかかってくる。両腕、両足を引きちぎられ()(あし)を逆さまに縫い合わすなんて人のすることじゃあない。こんな事をする奴は人間じゃあないはずだ。兎に角この事を誰か(けいさつ)に伝えなければならない。だけど、気持ちとは反して体が言う事を聞かない。立とうとしても足が震えいつも当たり前のように出来ている動作ができない。一度、一度と丁寧に頭の中で体はどう動かすかを思い出す。その間にも壁に吊らされているパペット(にんげん)は何かを訴えるようにずっと呻いている。

「ごっが・・・ぎぃ・・・」

「・・・こ、これってなんなんだ?」

正解なんて分かるはずがない。横で静かに見つめている彼女だってきっと今初めて遭遇した現場に違いない。だけど、僕は聞いてしまった。彼女なら何かを知っている様な気がしたから。答えが返ってこなくても本当は良かった。ただ、遙堪(だれか)の声が聞きたかっただけ。今、自分は生きているんだと言う証拠が欲しかった。

「分からない」

彼女は一点を見ながらそう言う。その声、言葉を聞いた瞬間に僕は力が抜ける。それは、彼女の声を聞いたからなのか「分からない」と言う言葉を聞いたからなのかは分からなかった。

「大丈夫?立てる?」

そう言うとやっと視線を地面に屈みこむ僕の方へと向け手を差し出してくる。表情も無表情(いつも)のように見えた。差し出された手を握り立ちあがる。先ほど立てなかったのが嘘のようにいつも通りに立つことができる。両膝には薄らと血が滲みこんでいた。自分の血ではなく彼から流れてきた血だろう。一先ず僕たちはこの場から離れることにする。このまま立ち止まっていてもなんの解決にもならないし、第三者(たにん)がこの現場を見た時きっと僕たちが当たり前のように疑われてしまう。

「遙堪・・・ここから一先ずでてどこか公衆電話で警察に通報をしよう。こんな所にいてもしも他の誰かに見つかりでもしたら面倒くさい事になるよ」

すると彼女は少し瞳をいつもより見開きこちらを見てくる。何か驚くような事でも言ったのだろうか?何に対して驚いたのだろう。

「櫨谷くん。瑞穂さんにお礼を言っておいた方がいいわよ」

「奈保さんに?どうして?」

「・・・行きましょう。目的はここじゃあないわ」

「・・・そうだね。とりあえず電話をしなきゃ」

「・・・ちゃんと借りは返してあげるから」

「ん?なに?」

「なんでもないわ。行きましょう」

そう言うと彼女は黙り来た方向へ向きを変え大通りへと戻っていく。今まで唸っていたパペットも口数が少なくなっていく。次第に糸を切られたかのようにただの人形になったかのように眠り(はこ)に入るように静かになってしまう。僕は彼に手を合わせ遙堪の横へと歩いて行く、とボッと後ろから何か発火した音が聞こえる。後ろを振り向くと先ほどの死体が居た場所が燃え始める。自然発火と言うには余りにも不自然すぎる火力、爆発音。

「な、なんだ!?火事!?」

「急いでここから離れましょう」

彼女は急ぎ車輪を漕ぎだしたのでつられ急ぎその場から離れるため前を向き駆けだそうとした瞬間、に背筋が凍ってしまうような視線を感じた。急ぎながらも後ろを向いてみると微かに純白のコートらしき服を着た人が僕をジッと見ているような気がした。もう少し見ていたかったのだけど、前を向かなければ横転してしまうため向き直し走る。無事大通りに出ると僕たちは何事もなかったかのように歩きだす。爆発音につられ所々で(やじうま)たちが色々と足を止め黒煙が上がる場所を見ながら話をしていた。乱れた呼吸、思考を落ち着かせるように小刻みに呼吸をする。

「なんだったんだろう。自然発火にしては火力が大きすぎたよね?」

彼女に言う訳でもなくただ思考(あたま)の整理をするために言葉を吐く。あまりにもオカシイ事が起こり過ぎている。パペットになってしまった人間、不自然にまるであのパペットを消すために起こった発火。

「櫨谷くん」

「あ、ごめん。考え事をしていた。もうすぐ目的地だね」

「ごめんなさい。私やらなきゃいけない用ができたから」

「・・・」

遙堪の目は先ほどと違い本当に何かしなくてはいけない用事を思い出したのだろう。いつになく彼女の目を見ても本音(きもち)が良く分からなかった、が今回は面倒くさい為に嘘をついている訳ではないと分かった。僕はほほ笑む。

「そっか。分かった。用事があったのにも関わらずここまで一緒についてきてくれてありがとう。コンビニはまた今度一緒に行こう。奈保さんには僕が上手く言っておくから」

「ありがとう。あと、櫨谷くんが行こうとしている場所にはなにもないと思うわ」

「ありがとう。何もなくても別にいいんだ。それだったらそれで納得できるし。僕はただその場所に残る空気(きもち)を見たいだけだから」

「・・・そう」

そこで僕たちは別れた。遙堪は近くにあった横断歩道を渡り違う道へと向かって行き僕も目的地でもある場所へ視線を向け歩きだす。目的の場所はもう少し先の路地を曲がった場所。事件のせいで街灯などは壊れ未だ修復されていない。どんよりと区全体(げんばしゅうへん)が悲しみの色を出している様にも見える。サイレンの音も人混みの音も徐々に小さくなっていく。殺人があった場所にそれも夜に出向こうなんてもの好きは殆ど居ないだろう。カツ、カツと足音だけが夜に響く。現場につくと予想通りロープが張られ現場には足を踏み入れる事ができないようになっていた。

「予想はしていたけど・・・っと」

ロープが張られていただけだったので難なく飛び越える事ができしばらく歩いていると妙に禍々しい雰囲気の場所が見えてくる。殺人現場には独特の空気が残っている。実際に現場を見るのはこれで二回目なのだけどあんな雰囲気は一度でも感じてしまえば嫌でも忘れる事ができない。ねっとりとして重い空気。

「ここか・・・」

そこでも一番空気が重い場所がある。その場所こそが殺害が行われた現場。ポケットに入れていたライトを取りだす。地面に光を当ててみると血痕の痕だろうか?くすんだ黒血がまだ残っている。血痕は残っていたのだけど蠟燭の破片はどこにも見当たらなかった。しかし、こんな場所で殺害があったのにもかかわらずどうして表沙汰では事件ではなく事故として処理されてしまったのだろう。

「・・・何かしらの組織(いし)が介入しているのか?も少し調べる必要がありそうだな・・・」

遙堪が言ったように確かに夜、この場所に行ったところで何も情報(おもい)を感じる事は出来なかった。空を見上げ息を吐いてみる。白い息は夜空へと消えていき静かに瞳を閉じ黙とうをした。

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