/快殺誘導者Ⅰ
水鳥が飛ぶ。
朝露を運んでくる風。
夜が終わり朝が来る。しっとりとした空気。見上げると朝がすぐ側までやって来ている。
そっと鳥に向かって手のひらを向けると優雅に羽ばたいていた鳥は剥製のように動かなくなり地面へと落ちていく。彼女は追悼するような表情で空を見上げ瞳を閉じる。物心ついた頃から人とは違う不思議な力を持っていた。当たり前のように持っていた力だったため特別だとは思ってもいなかった。呼吸が当たり前に出来るように彼女は人を思うがままに殺める事ができる魔手を持っていた。彼女は右手に手袋をはめる。手のひらを向けるだけで人の命を奪ってしまう代物。手袋を身に着けるのは彼女なりの配慮なのだろう。
彼女はもう一度空を見上げる。薄気味悪く静かに誰にも気づかれないように、分からないように、静かに、薄く、黒く、淡く、ほほ笑む。
「手に届くものは命。儚ければそれもまた落ちる定め」
彼女は裏路地から人通りが多くなる大道へと歩いて行く。朝になり人もちらほらと歩き出している。すれ違う人々の無防備さに彼女は呆れてしまう。真横を歩いている人物は何人もの命を奪ってきた生き物。なにも知らずのうのうとぶつかるかぶつからないかの距離ですれ違う人々。気にくわなかった時には命を不特定多数奪ってきた彼女も今はそんな事をしたりはしない。社会的目があるから?そんなことじゃあない。ただ単に面倒くさいから。飽きたから。何の目的もなく殺したところでなんのメリットもないため。だから、今、彼女は自殺志願者を見つけては代行で命を奪っている。殺人もただ何となくしているだけ。
魔手を持っているけどそれだけ。あとはただの人間。刺されれば死に体にもなるし心ノ臓だって止まってしまう。しかし、彼女はどこか死に場所を探しているようにも見える。しかし、未だ彼女を満足させる事の出来る人間には出会えていない。
何となく次の志願者を品定めしていると喉仏を鋭利な鎌で付きつけられている様なそんな気持ちの良い視線を感じる。彼女はその死線に快楽を覚えるほど震えていた。久々の感覚。命を自分ではなく誰かの手によって奪われてしまわれるような、死に引き込まれるねっとりとした甘い感覚。彼女は喜んだ。今度こそ自分を死の地へ誘ってくれる人間に出会えたと。
死線がする方へと視線を向ける、とそこには車椅子に乗りじっとこちらを見てくる一人の少女が目に入ってくる。彼女が只者ではない事はすぐに分かる。
「私と同類?いえ・・・魔女かしら?うふっ・・・うふふ・・・その死線・・・たまらない・・・」
彼女は新たな刺客に感謝を、自宅に招き入れるかのように丁寧にかつ慎重に深々と頭を下げる。頭を下げ顔を見上げると彼女は未だ微動すらせずずっと見つめていた。彼女は車椅子の女性にほほ笑むと人混みへと消えていく。何れ近々また彼女に出会う事になると直感で分かった。それが楽しみで楽しみで仕方がない。
「うふふっ。押さえなきゃ。この気持ちは彼女と逢うまで押さえなきゃ。じゃないと私、狂っちゃう・・・うふふ・・・うふふ」
彼女は欲求を自分の両腕を掻き毟ることで押さえていた。爪の中には自分の肉片が食い込み両腕は蚯蚓腫れのように腫れあがり血も流れ始める。
「は、は、早く・・・早く私に快楽を・・・殺人を下さい」




