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末期ナ意味  作者: masaya
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/氷月舞踊

彼女は一枚の名刺を持っている。昨日の夜に持たされたものだった。不思議と彼女は目の前に突如現れた魔法使いの言葉を何度も、何度も繰り返していた。それは、日々日常で普通に生活をしている人間には、馬鹿馬鹿しく、嘘嘘しく、聞こえるはずだった言葉。しかし、彼女にとっては新鮮だった言葉。嘘か真かなんて関係はない。彼女にとって初めて向けられた言葉。けれど、すんなりと(こころ)に入ってきた。他人(だれか)から向けられる言葉はいつも耳にするだけで殺意(いらだち)を覚えてしまっていた。体の中に土足で入られるのが特に嫌いだったのだ。なのに魔法使いが言った言葉だけは受け入れることができた。新しい自分に彼女自身が驚き、この場所に立っている事さえ、いや、他の命に興味を持っていることすら新鮮で不思議な気持ちであった。

「ここ・・・よね?」

彼女は持っていた名刺、目の前にあるビルを交互に何度も、何度も見かえしていた。ジッとビルの入り口に立ったままどうする事も出来ずただ、見かえしているだけだった。第三者から見ればきっと迷子、しかり困っている人に見えたはず。しばらくするとしぶそうな表情をしつつビルに向かってくる一人の男性がいた。両手にビニール袋を持っているところきっとビルの主になにか買い物を頼まれたのだろう。パンパンに膨れ上がったそれを持ちながらビルへと近づいてくる。必然的に彼の視界の中に名刺を持った彼女が映る。当然のように彼の表情も苦虫を噛んだような表情から一転、人間が警戒心を生まれさせない表情へと本能的に変わる。

「あの、なにかお困りですか?」

「え・・・」

声のする方へと視線を向けるとそこには両手に破れるか破れないかのギリギリの辺りまで膨らんだビニール袋を持っている男性が立っていた。彼女が口を開こうとした瞬間に、目の前の男性が名刺を見つつ口を開いてくる。

「あ、それ!」

「?」

「もしかして、奈保さんに用事があるんですか?だったら、丁度、僕も用事があるので一緒に行きましょう」

そう言うと彼は微笑みながら目の前のビルへと入っていく。彼女は少し呆気にとられていると振り向きながら、こちらですよ、なんて気さくに声をかけてくる。彼女もまた見ず知らずの男性の言葉につられながらビルへと入っていく。うす暗い廊下を歩き数字が光るドアの前まで歩いていく。すると、先に歩いていた男性が申し訳なさそうな乾いた笑いで彼女の方へと顔を向けてくる。

「すみません。ちょっと両手が塞がってて・・・済みませんが押してもらえますか?」

そう言うとボタンのようなものに視線を向けてくる。彼女もコクリと頷き彼が言うままボタンを押す。

「全部押しちゃった・・・はは・・・まあ、階をちゃんと言わなかった僕が悪いか・・・」

隣に立っていた男性はそう言うと笑いながら彼女を見る。彼女はどうして笑っているのか分からず無表情のまま彼を見かえすだけだった。ベルのような音がすると、目の前の扉が開く。男性は、どうぞ、と言い彼女を先にエレベーターの中へと誘導する。彼女が入り彼もすかさず入る。扉が閉まり体が少しだけ浮き上がる感覚を覚える。どこかで体験したことがある感覚だった、が良く思い出せない。ベルの音が一定の感覚で聞こえ、一定の感覚で扉も何度も開く。その度に横に立っていた男性は苦笑いを浮かべ彼女に申し訳なさそうに頭を小さく下げるだけだった。どうしてそんな表情をするのか彼女には分からなかった。何度も聞いた音が鳴りまた扉が開く、と彼は小さく手を扉の先へと向ける。

「この階です。普段より数分遅くついちゃいました」

そう言いながら笑い二人で降り少し歩くとまた、扉が目に入ってくる。またもや男性は申し訳なさそうに笑いながら、ここを開けてもらっていいでしょうか?、なんて言ってきたのでドアノブに手をかけ開く、とそこには見覚えのある人物が座りながらなにか資料を眺めていた。すると、後で入ってきた男性が座っているであろう人物に声をかける。

「奈保さん。お客さんですよ!」

「ん?あぁ・・・」

返答をしたものの資料に意識が向いているのか気の抜けた言葉が返ってくるだけだった。

「ここへ座っておいてください。いま、お茶を入れてきますので。あれでも仕事はちゃんとするので・・・すみません」

そう言いながら男性は奥の方へと歩いていく。彼女は彼が言ったように目の前にある黒いいかにも高級そうなソファーへと腰をかける。一人になってやっと彼女はハッと自分の変化に気がつく。今まで他人に話しかけられるだけでも拒絶した来たのに彼の言うことはすんなりと体に入ってきた。まるで昨日の魔法使いの言葉と同じように。

「よっと・・・ふふっ・・・来たね」

「・・・」

目の前には先ほど気の抜けた返事をした女性が微笑みなが目の前のソファーに座りジッと彼女を見てくる。

「それで、昨日の言葉は一体何だったのでしょうか?」

本題。彼女はただ、昨日の言葉の真意を聞きたかったためわざわざここまでやってきた。奈保もまた彼女が一声に言いだすことを分かっていたのか煙草に火をつけ微笑んでくる。

「そこまで焦る必要もない。焦ってもいいことなんて無いぞ?焦りは禁物なんて言うだろう?人間、余裕が大切なんだ。余裕を無くした時、人は必ず失敗をし自滅していく」

口から白い煙を天井に向かって吐き出す。彼女の対応は客に対して当然お手本になるようなものじゃあない。反面教師にするにも馬鹿馬鹿しい。そのぐらい失礼な態度であった、が彼女は人間(たにん)と接して来なかったためにそれが別に失礼なことである態度とは思わずジッと返答を待っていた。すると、横から声が聞こえてくる。先ほどの男性であった。

「ちょっと、お客さんに失礼ですよ。すみません」

そう言いながら彼女の前には綺麗な蒼色のティーカップの中に赤褐色の液体がゆらゆらと揺れていた。

「お茶よりも紅茶の方がいいと思いまして」

ニコリと微笑みながら彼は奈保の前にも同じものを置き立ち去る、と目の前に座っていた奈保が笑い口を開いてくる。

「ふふっ。面白い奴だろう?なにも頼んでいないのに雰囲気だけを悟って客の好みを勝手に決めるんだ。普通なら当の本人に好みを聞くだろう?だけど、アイツはそんなの聞きやしない。けれど、今までアイツが好みを外したところを見たことがない。きっと君も紅茶を気にいると思うよ。須崎冬実さん」

「どうして?」

「ん?あぁ・・・名前かい?別に名前を知っていたってオカシイことはないんじゃあないかな?調べようと思えばいくらだって出てくる」

「違う」

「違う?」

「・・・どうして、私を止めたの?あの能力も知っているようだったけど」

奈保は紅茶を啜り彼女へ視線を向ける。

「どうして・・・か。まあ、理由を言うならば、単純に勿体なかったからだけど?」

本心で奈保は言っている。人間の命は最後の最後まで生きぬかなければダメなんだ!自分で自分の命を投げ捨てるなんて言語道断!、なんて偽善(きもち)なんて一ミクロも含まれていない。奈保が勿体ないと言っているのは彼女の、命、なんかではない。勿体ないと言うモノが冬実の中に無ければあの場所で止めはしなかっただろう、いや、あの場にさえ居なかっただろう。冬実も彼女が言っている、勿体ない、という言葉は自分自身の命に向けられたものではないと言うことぐらい分かっていた、が何故、自分の中にあるモノをなんの面識もない彼女が知っていたかと言うこと。


同じ物は同じ者に引かれ合う。


「ふふふ・・・」

なにが可笑しかったのか目の前の女性は煙草をふかしながら笑いニコリと優しい笑みでこう言ってくる。

「よっし!じゃあ、殺してあげる!」

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