/蠟燭片鱗 32/122
彼女は彼の姿が見えなくなるまでジッと眺めていた。その表情はどこか儚く、永遠の別れを告げるかのような、冷たく、寂しく、追悼するような優しいものだった。大けがをしているのにもかかわらず彼は自分の事よりも彼女の事をずっと心配していたに違いない。彼女もそれはずっと分かっていた。あれだけの大けがだ。痛くないはずがない。それでもなお彼はずっと彼女にばれないようにピエロを演じ続けた。
「馬鹿な癖に気を使いすぎよ」
口調は淡々と冷たいものだった、が口元は微笑んでいた。それも一瞬で終わり彼女は人形の誰をも拒絶する表情へと変わり肘かけに置いていた両腕を車輪へと運ぶ。先ほど彼に伝えた、夜まですることがない、と言う言葉は彼を騙すためだった。これから彼女が向かおうとする場所はきっと彼は知らなくてもいい世界。きっと知ってしまったら彼は人間では無くなってしまう。
「人が出入りすることがない・・・廃墟ビルか」
彼女は車輪を漕ぎながらこの辺り一面の地形を思い描く。
「煙突が見えて廃墟になったビル・・・ここしかないわね」
目的地を定め彼女は一段と力強く車輪を握り漕ぎだす。きっと今から向かう場所は終わりの始まりの場所だと言うことを分かっていた。彼女はきっとその場所に、ナニカがあると言うことは直感的に分かっていた。だけれどどうしても出向きたくない場所であった。廃墟と言う場所は彼女にとっては忌まわしい記憶が残る場所に似ていたから。まだ彼女が幼かったころの話し。
「ふふっ」
彼女は自分の思考に対しておかしく笑ってしまっていた。まるでこれから行く場所で命でも落としてしまうのか?と思えるぐらい昔の出来事が頭の中を駆け巡っていた。
「これが走馬灯なのかしら。けれど、丁度いいわ」
丁度いい。彼女はそう呟く。彼女にとっての過去は憎悪でしかない。キラキラした思い出なんて皆無と言ってもいいだろう。しかし、そのお陰で彼女は生粋の魔女となりこの世界を生きてこれた。それだけには感謝していた。まともな人間の感情を持っていたらここまで冷徹に人を殺めて生存ていなかっただろう。過去を思い出すたびに彼女は人間に対して冷徹、冷血になれる。これから向かう場所にもきっとナニカが居るのだろう。それ(ナニカ)をきっと彼女は殺めるつもりなのだろう。そう、だから、丁度いい。そう言ったのだ。過去を思い出す事によって未来(櫨谷)を断ち切るためだろう。どうしても、彼は優しすぎ、そして人間らし過ぎる。彼女にとって人間はただの憎しみにしかない。それでも、彼女は彼を気にいっていた。一生伝えないし、伝える気もない。それに甘酸っぱいような男女の関係になるような気持でもない。ただ、単純に、気にいっていた。彼女からしたらとてもではない奇跡。人間を気にいるなんて一生ないと思っていた。だけれど彼は彼女を変えた。人間らしくさせていった。それを彼女も不快だとは思っていなかった。むしろ、このまま人間として生きていくのもいいかもしれない、なんて微笑ましく、浅はかな事を思っていた。過去を思いだしていたと言うことは櫨谷との日々も思いだしていた、がそれ以上に憎悪が大きくすぐに彼との思い出はあとかたもなく消え去ってしまう。
「ふぅ・・・」
小さく深呼吸を済ませ空を仰ぐ。目に映る空はとても、とても、とても、美しく、命を殺める日にはお似合いな真っ青な色をしていた。それは、それは、まるで、童話の中で描かれるような色。今まで一体どれぐらい空を仰いだかなんて覚えていない。けれどいつも決まって人を命を殺めるときは決まってこんな生々しく嘘々しい空だった。それだけは覚えていた。一歩、一歩、確実に死神は命を奪おうと廃墟へと向かう。徐々にすれ違う人間の視線も少なくなってくる。市街を抜け殆どの人間が立ち入らない区域へと足を踏み入れた瞬間に命が乾いている事が分かる。物にも動きがある、がこの場所ではその動きすらない。自然現象でさえこの場所で生存することを否定しているように感じた。しかし、彼女には命がない場所は心地も良くあった。そっと彼女はポケットに入れていた小さな紙を取りだす。
「ルーファ(小さい子供)ファール(血に飢えた狼)ルーファ(赤い子供)エール(終わりの詩)」
ひらりと彼女は小さく折りたたまれた紙を地球へと落とす。
本当に更新が遅くなり申し訳ございませんでした。仕事が忙しく精神状態がとんでもない事になっておりました。この状態で書いてしまうととんでもなくグロくなると判断し断片的に次の章の物語を考えておりました。情緒も安定してきたのでこれから更新をしていこうと思います。
改めまして本当に更新が遅くなり誠に申し訳ございませんでした。読者様の失った信頼を取り戻せるように頑張りますので温かい目で見て頂けると嬉しいです。
では、失礼します。




