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末期ナ意味  作者: masaya
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/蠟燭片鱗 30/122

辺り一面に木霊する女性の悲鳴。しかし、周りの大人たちは彼女をなぐさめることもなく自分たちの日常へと戻っていき立ち去ってしまう。人が荒れ狂う姿は足を止め驚愕しながらも見ていたのにもかかわらず恐怖のあまり震え地面に座っている女性にはなにも声をかけることなく立ち去る人々にただただ恐怖してしまう。どうしてそんなことが出来るのだろう。面倒事には関わりたくないのか?ただ、一言だけ彼女に、大丈夫ですか?、と声をかけるぐらい出来るだろう。なのにそうしない世の中に僕は怒り、疑問を通り越し恐怖と言う感情しか生まれて来なかった。目の前の女性は両腕をぶるぶると震わせまだ地面へ座っている。

「大丈夫ですか?」

「・・・だ、大丈夫・・・です」

彼女は恐る恐る顔を上げ僕の顔を見ながら答える、けれど体はまだ強張っているのか震え同じ体制のまま座っている。立ったまま会話をしてしまうとどうしても彼女を見下ろす形になってしまう。それでは威圧感を与えてしまう可能性があるため同じように地面へと腰を落とし極力彼女を怖がらせないように普通に話しかける。

「いや、今日は良い天気ですね。冬とは思えない天候だ」

我ながら反応のしずらい事を言っている事は重々承知している。先ほどの出来事をなるべく触れないように、と考えながら言葉を続ける。

「僕は櫨谷って言います。えっと・・・難しい苗字でごめんなさい」

「・・・して?」

「え?」

「どうして・・・貴方が謝るんですか?」

「えっと・・・あれ?どうしてでしょう?」

すると強張っていた彼女の口がうっすらとではあるけどほほ笑んだように見え自然と出てくる言葉も軽くなってきた気がする。

「僕ってとりあえず何でも謝っちゃうのが癖でして・・・上司からは悪いと思ったこと以外は謝るな!自分自身の言葉が軽くなるぞ!なんていつも怒られちゃってます。言いたい事は分かります。確かに自分が悪くないと分かっていて謝るのは間違いだし逆に相手を余計に怒らせてしまうことだってありますからね」

「・・・私は良いと思いま・・・す。謝罪をする事はいいこと・・・ですよ。争いから生まれることなんて何もないです・・・から」

「謝罪は良いことか・・・そう言って貰えたのは初めてです。ありがとうございます」

冗談まじりに言っていると彼女はまっすぐと純粋な瞳をこちらへ向けてくる。先ほどとはうって変わり光が入った目、生きた瞳。彼女は冗談で言った訳じゃあないとすぐに伝わってくる。

「あ、すいません」

「くすっ」

「あ、ははっ」

「本当にすぐに謝っちゃうんですね」

「ま、まあ・・・」

その後二人の間に会話は無かった。数分間の間、僕は彼女が落ち着くまでの間、歩行者を何も考えることなく眺めていた。歩いている歩行者一人一人の視線が僕の足へと冷めた視線を向けてきていることは分かっていた。そりゃあ、外傷は無い女性の横で片足だけ赤黒ずんだズボンを穿いている男が座っていれば冷たい視線を送りたくもなる。

「あれ危ないよな・・・痛そうだね」

歩行者の声もちらほらと聞こえてくる。自分でも彼に殴られた場所が出血している事ぐらい分かっている。最初はドクドクと熱い血液(えきたい)の感触が分かっていたけれど今じゃあもう感覚が分からなくなっているほど冷えてきている。目に見える傷は治そうと思えば処置をすればすぐに治る、けれど彼女は一番治りにくい精神(こころ)が深く傷つけられていた。精神ほど傷つけられて痛いことは自分自身体験していたことで辛いと知っていたため彼女をほってはおけなかった。遙堪が見たら、お人好しもそこまでくれば末期ね、なんて言われてしまいそうだ。確かにそうかもしれない。・・・なにか視線を感じたため横を向いてみると彼女が不思議そうな表情でこちらを見てきていた。大分、人間らしい表情に戻ってきており少し安心も出来た。

「どうかしましたか?」

「あ、いえ・・・なんだか嬉しそうにほほ笑んでいたからどうしたのかな?って思って・・・」

「え?」

近くに会ったガラスに視線をやると確かに口元がほほ笑んでいた。

「ホントだ・・・なんでだろう。ははは」

笑顔を向けると彼女もまたクスリと微笑んでくる。彼女の着ている学生服を見ると懐かしさを覚えてしまう。

「えっと・・・君は学生だよね?」

「え・・・は、はい」

「そっか。じゃあ、今日は完璧に遅刻だね」

「え?」

そう言いながら僕は右腕につけていた時計を彼女に見えるように向ける。

「ホントだ。けど・・・」

「うん。そうだね。今日はそれで良いと思うよ。なんなら僕も君の遅れた理由を話してあげるよ。今さらだけど君の通う学校の僕は卒業生だから。生徒指導の先生は厳しいでしょう?」

「あ、ありがとうございます。確かにあの先生は厳しすぎます。と言うより怖い・・・です」

「ははっ。相変わらず嫌われているんだね。まあ、あの先生は規律に関しては厳しすぎることで有名だから。と言っても学校の秩序が保たれているのもまた嫌われる先生が居るからこそなんだけどね。生徒は生徒をストレストの標的にすることなく共通の(せんせい)を作りだし少しでもストレスを自分に向けようとしている優しい先生なんだよ。これを言うと、違うわ、なんて言われるんだけどね。まあ、それでも水面下ではどうなっているかなんて分からないんだけど」

「・・・櫨谷さん?」

「ん?どうしたの?」

視線を彼女の方へ向けると手前の道路の方へと視線を向けていた。彼女の視線の先を見てみると話しに夢中になって気がつかなかったのだけど、続々とパトカーや検視官の人たちが現場近くへ車を止めたりと集結し始めていた。流石にここで捕まり話しを聞かれるために数時間単位で拘束されるのは状況的に面倒な事になりそうだと思い、僕は重い腰を上げ立ち上がろうとした瞬間に脇からほっそりとした女性の手が差し出され立ち上がる手伝いをしてくれる。

「警察に捕まったら余計に学校に遅れちゃいます。この場から離れましょう」

先ほどまで震えていた女生徒は思えない発言に驚いてしまうけれど、彼女と考えている事は一緒だったため抵抗をする事もなく僕たちはその場から立ち去る事にした。あれだけ足から出血をしていれば痛みを感じない方がオカシイのかもしれないけれど僕はそのオカシイカテゴリーに入っていた。痛みも多少感じるけれど激痛と言うほどでもなかった。歩きかたはぎこちなかったかもしれないけど難なく前へ進む事も出来ていた。しばらく歩きふり返ってみると血だまり周辺を刑事たちが現場検証を始めようと周囲に黄色い侵入不可と言う文字が書かれているテープを張り出す。もう少しの間あの場所の近くに座っていたらきっと刑事たちに掴まり話しを聞かれるところだっただろう。正直、僕たちもなにが起きたかなんて分かってはいない。ただ、分からない、と言うことを数時間説明するのも面倒なためこうして現場から離れてきたのは正解だっただろう、と思い歩いていると彼女がニコリと照れくさそうにほほ笑んでくる。

「私、嬉しかったです」

「嬉しかった?」

「私がパニックになっている時、周りの大人たちは声をかけずに立ち去って行って・・・でも櫨谷さんだけは私の事を見捨てずに声をかけて下さって・・・凄く嬉しかったです。ありがとうございました。お礼になにか・・・」

僕は彼女に支えられていた手を優しく振りほどく、とキョトンとした表情でこちらを見てくる。

「僕はそんな感謝される事をしてはいないよ。ただ、無視はできなかったんだ。心の(トラウマ)がどれだけ苦しい事なのか分かっているから。ただ、それだけだよ。お礼をしてもらうほど大した事はしていないよ。気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」

「そ、そうですよね・・・なんだかごめんなさい!」

「いや。そんなことないよ。それよりも早く学校に行って生徒指導の先生に説明しに行こう」

「はい・・・それで櫨谷さんって・・・」

再び歩きだし彼女が話しかけようとした瞬間に電子音がポケットから聞こえてくる。

「わぁ。ポケベル持ってるんですね!」

とり出したポケベルを見るなり彼女はどこか女子高生らしい反応を示す。これは奈保さんから無理やり持たされているもので使い方は良く分かっていない。しかし、液晶にはあまり穏やかではない文字が打たれていた。

「えっと・・・」

「・・・あ、私、椛谷綾って言います」

「椛谷さん。ちょっと急用ができちゃって。とりあえず僕の番号を教えておくから指導の先生になにか言われたら連絡をして。僕の方から電話しておくから。ついて行くと言ったのに急に変更してごめんね」

そう言い僕はポケットに入れていたメモ用紙に数字を書き彼女に渡すとただならぬ雰囲気を察してくれたのか何も聞くことなく歩き立ち去っていく。彼女の姿が見えなくなるまで見送り僕も歩いてきた方向へ向きを変え現場へと向かう。もう一度、液晶を見てみるとそこには【きょうかいばくはつ】と表示されているだけだった。どの教会が爆発したのか大体予想はついていたのでその場所まで向かう。現場に近づいて行くうちに人、車、罵声、など色々な意思(おと)が耳へと入りこんでくる。




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