/蠟燭片鱗 29/122
楽しみに待って下さっていた方々には本当にお待たせして申し訳ありませんでした。これからはちゃんとアマガミは土日に見ることにします。
ぽたぽたと黒い雫がカップへと落ちて行く様を見つつどうにか気持ちを落ち着かせるため深く何度も、何度も深呼吸を繰り返す。当然そんな事で落ち着けるはずもなくただもどかしさがだけが募っていく。いつもならじっくりと待てるドリップ式の珈琲でさえ苛立ちを覚え横に置いてある粉末状にしてある珈琲をカップに入れお湯を注ぎ奈保さんが座っている席へと持って行く。
「相変わらず何を考えているか分かりやすいな・・・お前って」
奈保さんは資料を見ながらそう言うと机に置かれた簡易珈琲を口へと持って行く。反論する事もなく僕もソファーへと腰をかけ机に散らばった資料を眺める。相変わらず怒りしか生まれて来ない資料を眺めていると無理やり資料を取られてしまう。
「・・・そんな目で資料を見たところでなにも解決はしないぞ」
資料を一つにまとめソファーから立ち上がりいつもの席へと戻っていく。
「奈保さん・・・」
「ん?なんだ?」
「この薬ってまだどこかで出回っているんですかね?それとも佐江島氏がなくなったことで開発は止まっているのでしょうか?」
少しの希望を込めた質問はいともたやすく粉砕されてしまう。
「人間の自我を殺して道具に出来る薬品だぞ?当然開発は持続されているだろう。こんな金になる薬を一人の研究者が死んだぐらいで凍結なんてされるものか」
分かりきった事を聞いてくるな、と言う深いな声色で返答をしてくる。
「つまり、また誘拐、死人が出ると言うことですよね・・・」
「まあ、そうなるな」
淡々と言う口調にどうしても我慢が出来ずにいた。どうしてそこまで冷静に物事を考えることが出来るのだろう。僕の知っている奈保さんは口調はきつくてもそんな事を言うはずがない。
「・・・奈保さんは殺されるかもしれないと分かっている命を見捨てるんですか?!」
ソファーから立ち上がり奈保さんの方へ視線を向ける、と見た事もない表情をした奈保さんが座りこちらを睨みつけていた。
「ああ。人は知らず知らず死んで行く生き物だ。それがどうしたと言うんだ?お前はこの世の中に居る全ての人間を助けようとでも言うのか?いつ、どこで、だれが殺されるか分からない人間を常に監視しするのか?お前はいったい何様なんだ。今までだって理不尽な殺人は数多く起きていた。なのにお前は気の毒だ。そのぐらいしか思っていなかったはずなのに今さら正義感に目覚めたのならどうぞ警察にでも行けば良い。そうするなら資金ぐらい出してやるさ。お前がいつも言う通り、私が無理やりここに引きこんだお詫びも込めてな」
「・・・」
そう言うと一人の女性は資料へと視線を戻し、一人の男性はそのままソファーへと腰を落としていた、と言うより男性はただその場に腰を落とすことしか出来なかった。二人の人間が黙ってしまい、数台あるドラム缶テレビから流れる音しかこの場の空気を震わせるものはなかった。そのぐらいこの空間は冷え切っていた。ある局では相変わらず教会の外壁を映したまま放送しているところもあれば切り変え娯楽番組へと変わっているところもあった。いつもなら、無駄につけっぱなしにしない、なんて注意をするのだけど今回はその雑音がありがたいと思ってしまう。しばらくダラダラと蛇口を開けた水道水のように流れている同じ番組を見ていると、妙な違和感を覚える。
「・・・?」
後ろを振り向いても誰もいる訳がない。今この空間には奈保さん以外の生命は存在していない。いたとしても言葉を発することが出来ないネズミなどだろう。唯一言葉を発することができるその一人も難しそうな表情をしながら資料を見ているだけ。きっと言葉を一言たりとも発していないだろう。だが、誰かの意思が耳に入ってきた事は確かだった。
「奈保さん。聞こえましたか?」
「なにがだ?」
「いや、なんか誰かの声が聞こえた気がしたんです。内容ははっきりとしないんですけど・・・」
「・・・テレビかなにかの声じゃあないのか?言っとくが私は一言も発していないからな?」
「・・・はい」
そう言うとまた彼女は資料へと視線を戻す。奈保さんは気のせいだと言ったのだけど確かに聞こえた。
「・・・やっぱり聞こえる」
「・・・」
本当は変わらないのだろうけどいつも以上に重く冷え切った部屋の空気は肩に重くのしかかっているように思える、がそれでもぎこちなく立ち上がりこのノイズはどこから聞こえるの気になったためハンガーにかけてあったコートを取り外へ出ようとすると呼び止められる。
「どこへ行くつもりだ?」
「ちょっと、気になることが出来まして」
「まあ、どこへ行こうがお前の勝手だ。けど、暗闇には絶対に近づくな」
「暗闇ですか・・・分かりました」
奈保さんがなにを言いたかったのか本当はよく分からなかったけど、頷きドアノブに手をかけ外へと出る。相変わらず外は天気が良い。冬なのにもかかわらずコートを脱いで歩いている人も多い。流石に僕はコートまで脱ぐほど熱いと感じていなかったためそのままなんとなくノイズを発している人がいるであろう方角に向き歩きだす。しばらく歩いていると紺色のスーツを着た一人の若者がニコニコと笑いながら急に挨拶をしてくる。
「こんにちは!あの・・・櫨谷さんですよね!?」
「えっと僕に?」
すると彼は数メートルだった距離を数センチほどまで近付いてくる。
「お兄さん以外にだれが居ますでしょうか?!」
「は、はぁ・・・」
見た感じ外見では僕よりも二、三歳年は上だろう。しかし、こんな人と関わりをもったことなんて無かったはずだ。それに、なにか品定めでもしているかのようにジロジロと足元から頭上までジロジロと隠すことなく見ている。
「あ、あの・・・僕になにか・・・?」
「用がなかったらわざわざ人間なんかに話しをする訳ないでしょう」
先ほど身に纏っていた穏やかな雰囲気とはうって変わり不気味な雰囲気を纏い始める。見ただけで分かってしまった。彼は猟奇殺人者だ。しかし、なぜ、こんな所にしかも僕の事を知っている?すると、彼は微笑み口を開いてくる。
「お兄さん!ちょっとこの辺りじゃあ人目もありますし。あそこでお話ししません?」
そう言うと近くにある喫茶店へと指をさし歩き始める。ついて行く事に躊躇いも会ったけれど、彼は蝋燭事件の片鱗を知っているような気がしたため素直に彼の後ろをついて行く。
「そうそう。僕ね?素直な人間は好きなんです!一歩間違えばお兄さん死んでましたよ」
「・・・」
「あ!でも!安心して下さい!命を取ったりなんてしませんよ?僕はちょっとお兄さんとお話しをしたいだけですから!ただ、お話しをしたいだけなんです。お話しをね?お話しって言っても僕が一方的に話しをするだけですからね?僕って意外と質問とかされるの嫌いなんですよ?知ってました?知ってますよね!だって僕が嫌いな事をする人はこの世の中から消える運命なんですもん。でも、僕って好き嫌いないんですよ?ピーマンだって食べれますし、セロリだって食べれるんですよ?ね?僕って凄いお利口なんですよ。だから、お利口な僕が嫌いなものは全部この世の中からいらないんです。知ってましたよね?うん。知ってる知ってる!お兄さんもそう言う顔してますね。良かった。よかった!でもね?お兄さん最初僕が話しかけた時、忘れていたような表情しましたよね?僕、ソレスゴクショックだったんですよ?本当ならあの表情をした人間はすぐに殺しちゃいたいんですけど、でも、お姉さんのお気に入りらしいですからなんとか我慢したんですよ?でも、ちゃんと僕の言うことを聞いてついて来てくれたから今回だけは許してあげようかな?なんて思っていたんですよ。ね?僕ってお利口でしょう?ね?ね?ははっ、やっぱりお話しって楽しいですね。別に喫茶店に行かなくても外でも話しをしても良かったですね?あーでも、僕って日差しもあまり好きじゃあないんですよ。あ、お兄さんなら知って当然ですよね。僕が嫌いな物を知らない人なんてこの世の中に居る訳ないし。あはは。やっぱりこの世の中って上手に周っていますよね。嫌いな人って僕の目の前からいなくなっちゃうんです。それって凄くないですか?僕が嫌だなーって思う人は気がついたら血だらけになって息をしていないんです。全く不思議ですよね?あ、でも僕がやってる訳じゃあないですよ?人殺しなんて最低、最悪の生物がすることなんですから?知ってました?命を殺める事っていけないことなんですよ?僕はそんなこと絶対にしないんです。だって、悪い事はしたらいけないって先生に学びましたから。ははっ。面白いなー。お兄さんとの会話はいつも以上に面白い。なんたって魔女のお気に入りの人ですからねー。あ、でも、僕もお兄さんのこと好きかもしれません。でも、ちょっとだけお兄さんにペナルティを与えなきゃいけないかもしれないなー。だってね?折角僕が話しかけたのにすぐに反応してくれなかったでしょ?それってやっぱり傷ついたんです。知っているでしょ?僕が一番嫌いなのって人から蔑んだ目で見られることって。あーなんかお兄さんのさっきの視線を思い出しただけでちょっとイライラしてきたなー。どうしたらいいですかね?うーん。あ、そうだ!」
そう言った瞬間に彼は握り拳を作ると同時に振り上げ足へめがけ数回ほど思い切り振りおろしてくる。
「くっ・・・」
殴打された場所は怪我をしていた場所だった。ズボンの上からでも分かるぐらいジワリと黒いしみがじわじわと浮き出してくる。彼は満足したのかその場でお腹を抱えながら笑いだす。
「あははっ!お兄さん言い表情してますねー!!知ってました?僕って血を見るのも苦痛にゆがむ人の表情を見るのも大好きなんですよ!!いいなー!いいなー!ゾクゾクしちゃいます!やっぱり僕ってお利口だからそれだけで許してあげちゃいます!あー僕ってなんて良い子なんだろう。あーいいこだなーいいこだなーあーあーあーあーあ・・・飽きた。やっぱりお兄さんとの会話も面白くないです。やっぱり面白くない。面白くないです。もー!!!どうしたらいいんだ!!!!うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
彼は発狂し始め自傷行為を始め出す。両爪で頬をぼりぼりと切りきざみ始め周りを歩いていた人々も恐怖と、驚愕でその場に立ち止まりただ、ただ彼の姿を見ているしかなかった。両頬、両腕にはドロドロと血が付着し爪の隙間、辺りには彼の頬の肉片が散らばってもいた。僕もどうしていいのか分からずそのまま見ていると誰かの通報か巡回中に見つけてきたのか警察官が彼の自傷行為を無理やり止め押さえこむ形で落ち着かせ始める。
「僕はお利口なんだ!何で邪魔をするんだ!お利口な僕が人間なんかに捕まる訳にはいかないんだ!僕はお利口なんだ!おまわりさん!僕は悪いことなんて一つもした事がない良い子なんです!知ってますか?!僕って偉い子なんです!!ああああああああああああああ!!!」
大人二人で拘束されていたにもかかわらず彼はその大人たちを吹き飛ばし走り去っていく。警察官も驚いては居たがすぐさま立ち上がり彼を追い走り去ってしまう。その場に残っていたのは大量の肉片、血だまり、叫び戸惑う女性の姿だった。




