/蠟燭片鱗 23/122
蠟燭片鱗の話しの大筋を考えているとサブタイトルぐらいの数に収まりそうです。と言っても蠟燭片鱗は章で言うところの一章目なので気長に見てやってください。
涙を流すつもりなんてさらさらなかった。しかし、彼女の一言を聞いてしまった瞬間に何か目がしらが熱くなる気がしてしまいふと視線を下へと下げてしまう。あれだけ自分は大けがをしたのにも関わらず彼女は怒るどころか僕を見て安堵の表情を向けてくれている。心から安心したかのように彼女は微笑みかけてくれている。それがとても暖かく、自分の不甲斐なさに情けなくなってしまう。必ず言おうと思っていた言葉が彼女の表情を見た瞬間に喉の奥へと隠れてしまう。きっと言おうと思っていた言葉を言ってしまったらきっと彼女を傷つけてしまうだろうと思ってしまったからだ。じっとその場に立っていると彼女はクスクスとほほ笑みながらぎこちない手つきで近くにあった椅子へ手を向ける。
「貴方だって怪我をしているのでしょう?とりあえず座ってください」
「・・・ありがとうございます」
お礼を言い近くにあった椅子へと腰をかける。相変わらず彼女は微笑みこちらを見てくるだけ。すると近くにあった果物をぎこちない動きでバナナを取り差し出してくる。
「とりあえずどうぞ」
「ありがとうございます」
「ふふっ」
「え?」
彼女はクスリと何か面白い事でも見ているかのようにクスクスと口元を手で隠し笑っている。しばらく彼女が笑っている理由も分からず戸惑っていると彼女もまた笑いながらではあるけど謝罪をしてくる。
「ごめんなさい。なんだか面白くて」
「面白いです・・・か」
「第一印象とは全然違うから驚きと面白さで笑ってしまっていました。ごめんなさい。でも、どうしたのですか?元気が無いように見えますけど?」
「・・・」
言葉が上手く出て来なかった。大けがをしているのにどうして彼女はここまで人の事を心配する事ができるのだろう。改めて見てみると彼女は重傷と言う言葉が似合うほど全身に包帯を巻かれている。幸い点滴等はしておらず果物を手で取ったところを見ると神経系に損傷は無いのだろう。
「無事でよかったです」
やっと出てきた言葉がこの言葉だった、が彼女は明らかに無事ではない。彼女はその言葉を聞いたとたんまたクスクスと上品に笑いだす。流石に言葉の選択が間違っていたと分かりすぐさま他の言葉を言おうとした瞬間に彼女は満面の笑みで頷いてくる。
「はい。お陰さまで命は繋いでますよ」
僕が言いたい事を察してくれたのか彼女は怒る事もなくただ微笑んでくれている。ぎこちない雰囲気を感じ取ってくれたのだろう彼女は静かに話しを始める。
「不思議な夢を見たんです。どこか分からない真っ暗な空間でした。しばらく歩いているとうす暗い街灯が一本立っていました。そこには小さな男の子がしゃがみシクシクと泣いていたんです。私はどうしていいのか分からず声をかけようとしたのですが彼に私の言葉が届くことはありませんでした。しばらく私は彼の側に居る事にしました。しばらくすると真赤なコートを着たナニカが私たちの側まで近付いて来たんです。直感で私はそのナニカが死を呼びよせる者だと感じ取りました。必死に私は泣いている彼の手を掴み逃げようとしたのですが思った通り掴むことができず彼はそのナニカに手を連れられ暗闇へと消えて行きました。必死に追いかけても、追いかけても彼には追いつくことができませんでした。必死に叫んでも彼はこちらを見向きもせずにその死ノ神に手をつられて幸せそうな笑顔で歩いていました。暗闇の中、一人で居るよりもきっと彼は死ノ神と一緒に居る方が幸せだったのかもしれない。その笑顔を見た瞬間私は立ち止ってしまったんです・・・死と言うものは残酷で苦しいものだと思っていました。けど、実は【死】と言うものは誰かを幸せに出来るものじゃあないか・・・」
「違う!!!」
「!?」
彼女が何を言いたいのか分かってしまった僕はつい大声を出してしまう。他人が思っている事は必ずしも間違いだと決めつけるのはオカシイとは思う。人はそれぞれ価値観が違うので当たり前だ。しかし、彼女が今言おうとしている事だけはオカシイに決まっている。
「誰か(ひと)が与える死は誰も幸せになんてできない!それは救済でもなんでもない!!ただの人殺しだ!!そりゃあ、安楽死なんて言葉があるのは確かです。けど、貴方が言おうとしている事は違う!死が人を幸せにすることなんてある訳がない!!」
座っていた椅子から急に立ちあがってしまい椅子は音をたてながら倒れ彼女は驚きを隠せない表情で見上げて、はいなかった。彼女の瞳には光が差し込んではいなかった。うつろな瞳。彼女の視線はこちらに向いている、がそれは先ほど話をしていた彼女の瞳ではない。
「ふふふ・・・五月蠅いよ」
「だ、誰だ?」
「誰だとは御挨拶だね。ボクは薦津夏花のもう一人の人格さ。以前どこかで逢わなかったっけ?あれ?それはキミじゃあなかったっけ?・・・まあ、いいや。はい・・・これ」
薄気味悪いほほ笑みをこちらに向けてくる、と同時に一枚の紙切れを差し出してくる。紙切れにはどこかの住所が記載されていた。
「これは?」
「凄いね。この状況で普通に疑問を僕に投げかけてくるなんて・・・普通、僕を見ると人は薄気味悪くなって逃げ出すんだけど。まあ、僕を薄気味悪く見た奴らはみんな僕に殺されるんだけどね。ククク・・・ホント面白いよ。キミって本当に人間?それとも僕と一緒で殺人鬼なのかな?・・・ククク」
「・・・」
からかうように喋りながら包帯で巻かれいかにも動かすだけで激痛が襲って来そうな両腕を組みクスクスと笑っている。彼女は一体何者なんだ。そんな事を思っているとまるで心を読まれたかのように彼女は話しだす。
「ボクは薦津夏花そのものだよ。でも、影と考えてもらってもいいかな。とりあえずキミが知りたい事はそこへ行けば分かるよ」
「なんで、僕にそんな事をするんだ?」
「単なる気まぐれさ。と言ってももう一人のボクはその紙をキミに渡そうとは思っていなかったっぽいけどね。だから気まぐれと言う名の優しさでもあるかな」
「・・・そうなんだ」
ぎゅっと紙をポケットに入れ立ちあがり病室を出ようとすると彼女の声が聞こえてくる。
「あ。そうそう。【日下春子】って子供には気をつけた方がいいよー」
「日下春子?」
「キミも教会で逢ったでしょう?小さい女の子だよ。あの子は聖女。そして、ボクを連れ出したキミを憎んでいるよ。きっと今血眼になってボクとキミを探していると思うよ。まあ、病院は特別な力があるからボクは見つかる事は無いだろうけどキミは・・・まあ【キミも】大丈夫か」
「それはどう言う?」
それっきり彼女からは反応が無かった。視線をやると瞳を閉じ静かに寝息をたてていた。静かにドアを開き病室から出る。相変わらず静かすぎで薄気味悪さだけが残る場所だ。こんな場所に一人で遙堪は待っていたのかと思うと感心してしまう。カツカツと歩いていると一種の違和感が背中を舐めまわすようにねっとりとさすってくる。




