/蠟燭片鱗 16/?
頭を数回振り雑念を振り払う。命がけなのにまるでゲームの感覚で挑もうとしていた自分自身を律する。そう、これは妄想とは違う。自分自身にある傷がそう物語っている。一歩間違えればきっと僕はこの世界から居なくなってしまうだろう。じゃあ、先ほど覚えた感覚はなんだったのだろう。まるで僕以外の思考が急に受信したかのような感覚だった。もう一度深く深呼吸をする。鼻から冷たい酸素が肺へと運ばれ少しずつだけれど鼓動も収まってくる。隠し通路の出口に手をかけ開いてみると先は暗闇だけでよくこんな所を歩いてきたと感心してしまう、がずっとこのまま落ち着いていても仕方がないので足を引きずりながら歩いてきた道を戻っていく。怪我をしているせいか一段と長く感じてしまう。それに、暗闇の中を一人で歩くと言うもの精神的にも辛くなってくる。壁らしきものを伝って一歩一歩歩く。この通路は一体だれが作ったのだろう。そんな下らない事を考えながら前へ進んでいると薄らと入り口から光が漏れていた。
その場所を目指し向かう、と壁に突き当たる。壁に耳を付け中の様子を探る。足音、話し声はしなく慎重にだけど素早く壁を横にスライドさせ部屋へと侵入する。そこには誰もおらず綺麗に整頓されていた部屋は見るも無残な光景へと変わっていた。椅子は蹴り飛ばされ机の上にあったティーカップ等は床に落とされ割れている、と言うよりも戸棚にあった食器類も全て落とされ割れている。この光景を見た瞬間に何故か恐怖と言うよりも怒りが先に出てくる。この光景を目の当たりにしたせいか余計に彼女の事が心配になってしまう。こう言うふうに破壊されていたらと思うと早期に見つけ出す必要性を再確認する。グッと怒りを抑え足元には十分気を使い目の前にある扉へと向かう。最善の注意を払い扉を開けるとひとっこひとり見当たらなかった。部屋から出ると同時に普通と言えば普通なのだろうけど変な違和感に気がつく。
あまりにも自然すぎるほど不自然な沈黙。生がまるでない世界へと連れ込まれてしまったかのような静けさ。窓も開いている。さっき外では子供たちが楽しそうにはしゃいで遊んでいた。ここまで静かならば聞こえてきてもいいはずなのに聞こえてくるのは自分の心臓音と生唾を飲む音だけ。周囲を警戒しつつ歩きだし聞き耳を立ててみても生が感じられない。廃墟になった教会を探索している錯覚に囚われつつ歩いているとほんの少しだけ、本当に微かに布の擦れる音が聞こえた気がした。聞き間違いではない事を祈りながらその音がした方へと歩いて行く。
音がしたであろう道を歩き先の曲がり角を曲がると赤いカーペットが敷かれた廊下へと行き着く。ここは先ほど歩いてきた場所とは明らかに雰囲気が違う。禍々しく薄気味が悪い。数メートル歩いただけでなんとも悪趣味な造形品が五メートル幅で置かれている。造形にしたってリアリティがあり子供が見たら泣いてしまうだろうと思える作品も多々展示されている。ご丁寧に作品一つ一つには題名も添えられており、どれも全てに人名らしき名前が書かれている。これは造形ではなく本当に人間部位を切りとりナニカで固め保存しているようにも見える。精神状態が普通じゃあないのでそう見えてしまうのかもしれないが明らかに異常だと言う事は確かだった。薄気味悪い廊下を歩いていると見た感じ質が違う扉へと突き当たる。
音を立てないよう深呼吸をする。耳を済ましてみても部屋から物音は一切しない。きっとこの部屋には誰もいないだろう、が何故かここには秘密があると直感でそう言っている。扉に手をかけようとした瞬間に突然と僕が歩いてきた廊下から足音が聞こえてくる。それも思いのほか早い駆け足でこちらに向かってくるため咄嗟に扉に手をかける、が鍵が閉まっており入室する事が出来なかった。辺りを見渡すと咄嗟に視界へ入ってきたカーテンの中に隠れる事にした。子供だましだと言う事は重々承知。しかし、隠れる場所と言えばここぐらいしかなかった。鼓動音が外に漏れてしまっているんじゃあないかと思うぐらい大きく脈打つ心臓。初めて数秒間でも良いから止まり音を立てないでくれと願った。ガチャガチャと扉の鍵を開けているのだろうドアがしまる音がしたかと思えばすぐに開きまた、ガチャガチャと音が聞こえ足音も聞こえなくなり、カーテンの隙間から周りを覗いてみると誰もいなかった。とりあえず見つかる事は無かった。ここで見つかったらきっと人生は終了していただろう。生と死のギリギリの狭間に立っていたせいか疲れがどっと押し寄せてくる。しかし、一息する暇もなく彼女を探し出す。




