/蠟燭片鱗 14/?
少しでも動くとハサミで切り裂かれた太ももに激痛が走るため手をさし伸ばして来てくれているものの体に力が上手く入らず苦笑いするしか出来なかった。彼女もその表情を見て分かったのかニヤニヤとまるで悪戯小僧のように傷口を見るなり思い切り振り被って叩いてくる。
「がっ!!」
生を受けて初めて体験する激痛。刺され、肉を切り刻まれたとき以上の激痛が襲ってくる。きっと先ほどはアドレナリンも放出しており痛みをあまり感じていなかった、が今はそうじゃあない。安心しきり力も抜けたところでの一発はそりゃあ、言葉にできない。しかし、このぐらいされても仕方がない。奈保さんは相当怒っているだろう。すると奈保さんは煙草を咥えながらしゃがみ込んでくるなり頭を雑に撫でてくる。
「やる時はやるな!格好良かったぞさっきのお前!」
「え?」
予想していた反応と違い戸惑ってしまう。怒られてしまうと思っていたのに褒められてしまった。どう言う事だろう。それにニコニコとほほ笑み機嫌がいい時の表情でこちらを見てくる。
「格好良かったね。女を自分の身を挺して守ろうとするなんて。上司として鼻が高いよ。さっすが私の部下だ!よーくやった!よーくやった!」
「あ、あの怒らないんですか?」
「ん?どうして?」
「あ、いえ・・・」
すると優しいほほ笑みへと変わり目を見てくる。
「私はお前がどう動くかなんて予想をするなんて容易い。それにお前が正しいと思って行動したのならそれは正しい事なんだよ。だから私は怒る権利なんてないし怒る意味もないよ。分かった?」
「・・・ごめんなさい」
口調こそ優しく部下思いの素晴らしい女性上司と思われるだろう。しかし、僕は今彼女に両頬を思い切り抓まれている。しかし、こんな事をしていても助けてくれた。言ってみれば命の恩人。抵抗出来る訳もなくただジッと我慢していると満足したのか抓る事は止めてくれこちらをまた透き通るほど黒い瞳で見つめてくる。
「確かに抓ったりしてお茶らけちゃったけど言っている事は本心だから。キミが正しいと思って行動する事は正しい方向に行く」
「あの力でお茶らけ・・・と言うよりどうして奈保さんはそこまで僕の勘を信用するんですか?」
「ん?」
彼女はしゃがんだままなんだそんなこと?と言わんばかりの表情で淡々と言って来る。
「何となくそう思うから」
いつものように根拠がない発言。だけど、不思議と説得力があり納得してしまうの確かだった。すると彼女は掛け声と共に肩を持ち無理やり立たせてくる。
「っ!!もうちょっと優しくしてもらえると嬉しいのですが・・・」
「あ、そうだったね!ごめんごめん!それよりまだ歩けるよね?」
「え?」
そう言うと彼女は子供がおもちゃを買ってもらった時の様な嬉しそうで楽しそうな表情をしていた。この表情をする時の彼女は決まってとんでもない事を思いついている。恐る恐る聞きたくは無いのだけど聞いてみる、と案の定彼女はさもかも当然のように大けがをしている僕に対してこう言って来る。
「勿論、部下が怪我させられたんだから仕返しだよ」
「でも、関わるなって言っていましたよね」
「じゃあ、キミはなにか?連れ去られてしまったあの女の子を見捨てるのか?」
「・・・いえ。絶対に助け出します」
「そうだな。女の子を守る事ができるなら足の一本や二本やすいものだな!アハハハ」
「・・・」
流石に彼女が言った冗談?には笑えなかったけど確かに今は自分の怪我よりも連れ去られてしまった彼女の事の方が心配だった。しかし、どうしたものだろうか。教会に入ろうと思ってもきっと今日の事があるから警備は厳重になっているだろう。付け入る隙があるだろうか?そんな事を思っていると彼女がこちらを見るなりにやりとほほ笑んでくる。まるで考えている事を分かったかのように。
「大丈夫。この世の中に完璧なんて存在しない。必ずどこかに小さな亀裂はあるものだから。とりあえず止血してから行動開始だ」




