/蠟燭片鱗 12/?
随分とこのシスターは子供たちから慕われているのが分かる。歩いていると子どもたちが嬉しそうに彼女を見るたびに呼び止め縄跳び、けんけん、一輪車乗りなど思い思いの特技を見せては満足そうにしている。それに、シスターもにこりと微笑み子どもたち一人ひとりに相槌をうっており子供たちに慕われるだけある気がした。何となくだけど彼女は敵ではないと思った。彼女を見ているとどこか心の奥の方がポカポカしてくる。ふと彼女がしゃがみ込み一緒に歩いていた女の子に耳打ちをする。なんだろうと思い立ち止まるとすぐに彼女はこちらを向いてくる。
「おにちゃん!ばいばい!またね!」
そう言いながらどこか走り去ってしまう。不思議に思っているとシスターでもある薦津がこちらを向いてくる。先ほど子どもたちに見せていた表情とはうって変わり静かな冷たい表情へと変わっていた。これが本性か?なんて思っていると静かに僕だけにしか聞こえないような小声で話しかけてくる。
「静かに。視線はそのままにして聞いてください。教祖様がこちらを見ておられます。今から少し教会を案内しますのでついてきて下さい」
「・・・」
ドクンと波打つ心臓。彼女のその言葉で身の危険を知ることができた。しかし、どうして教会側の彼女が言ってみたら部外者でもある僕を助けるような行動をしてくれるのかが分からなかった。彼女は頭を下げ予定調和通りなのか、急に教会に関する話を始める。きっとこれが最善の逃れ方なんだろうと肌で感じとりぎこちなくだけれども彼女の話しに合わせるように努めた。彼女は色々と案内をしてくる。表情こそ変わらないものの一向に先ほど見せていた笑顔、柔らかい表情は見れていない。きっと、未だにどこか分からない場所で教祖と言うここの主が僕を監視しているのだろう。彼女は歩く音さえ気を使っているように静かに素早く隅っこにある部屋へと案内してくれる。部屋に入ると大きなため息が後ろから聞こえてくる。振り向くと彼女がうふふと上品にだけどどこか恥ずかしそうに笑っていた。僕までつられて笑ってしまう。
「ここは私の部屋なので監視はされないです。教祖様はプライバシーまでは侵入して来られない方なので。どうぞお座りください」
そう言い彼女は近くにあった椅子へ座るように促してくるのでお言葉に甘えて座らせてもらう事にした。素朴で整理整頓が行き届いており綺麗な部屋だった。それに、甘く少しだけドキッとしてしまういい匂いもしていた。女性の部屋に入るのは初めてでどこか緊張とワクワクが止まらなかった。キョロキョロと部屋を見渡しているとお茶の準備をしてくれていた彼女が僕の方を向き笑いだす。
「そんなに珍しいですか?」
「あ、いえ。僕、女性の部屋に来るの初めてで」
「そうなんですか・・・ふふふ」
そう言うとティーカップを乗せたお盆を持ってくると前にあった木の机に音も立てずに置く。まるでシスターではなくメイドなのかと思わせる立ちまわりに驚いていると彼女は僕の前にある椅子へと腰を落としこちらを見てくる。その表情は先ほどの冷たい表情ではなく暖かい笑顔でもない。悲痛に満ちた痛々しい表情。彼女はカップに注がれた紅茶を一口飲みナニカ決心したように目を見てくる。
「あなたがきっと救世主なんです。どうか子供たちだけでもいいので助けてあげて下さい」
彼女は悲痛な声でそう言う。咄嗟のことで思考回路は上手く働かなかった。唐突に救世主、助けて下さいなんて言われてもどう言った反応をすればいいのか分からない。それ以上に僕はそんな凄い人間ではない。どこにでもいる人間。それ以上でも以下でもない。戸惑っている僕をみるなり彼女は話を続ける。
「ここは普通の教会じゃあないんです」
「普通の教会じゃあない?」
「・・・はい」
ゆっくりとだけど確かに彼女は深く頷く。
「ここは麻薬密売場でもあるんです」
麻薬。教会に似つかわしくない単語が出てくる。と言うより彼女はどうして赤の他人である僕にそんな大切な事を言ってしまうのだろう。僕の表情から疑問を抱いていると感じ取ったのか彼女はこう続ける。
「どうして、今日会ったばかりのあなたにこんなお話しをしているのか?と疑問をおもちなんですね?」
「・・・ええ。まぁ」
「・・・それはですね」
彼女が口を開こうとした瞬間、ドンドンと怒気を纏っているような叩きかただった。咄嗟に彼女は立ちあがり僕をクローゼットの中へと誘う。
「ここに抜け道があります。どうぞお逃げ下さい。ここは私がなんとかしますので」
そう言うと彼女はドアを閉めドンドンと叩く音が鳴りやまないドアへと近づいて行く。一瞬、めまいが襲ってくる。めまいの最中に脳裏に彼女の死体が見えた気がした。咄嗟に僕はクローゼットの中から出ていきドアに近づこうとする彼女の手を取る。予期せぬ行動に驚いていたのか彼女は目をまんまるに開いている、が僕は彼女と一緒にクローゼットの中へと入り抜け道へと進む。
「ど、どうして」
「急に引っ張ってしまってごめんなさい。でも、人が死ぬのはもう嫌だから」
そう言うと彼女は黙ってしまい僕の手を握り少し後ろをついてくる。




