/蠟燭片鱗 9/?
ジッとゆらゆらと不定期に揺れる炎を見ていると何やら妙な気持になってしまう。僕はあの老婆が持っていたであろう炎に魅せられていた。ジッとただ、風に揺れるそれを見つめていた。ただ、その場を動くことなく見つめるだけ。意識はあるのだけど動くことができなかった。いや、動くことはきっとできたんだろうけど轟々と燃える小さな炎を見ていたかった。このままずっと、死ぬまで見続けていられれば僕はどれだけ幸せな・・・!?
「え?あ、あれ?」
ひんやりとした華奢な手が僕の左手を握る。その瞬間ふと、炎から視線を逸らし手を握っている人物に視線をやると遙堪が僕を見つめていた。どうしてこんな場所に遙堪が居るのかと言う疑問よりも手を握られていると言う状況に若干パニックになってしまう。
「あ、あの・・・遙堪・・・さん?」
「なに?」
「な、なぜ故に僕の手を握ってらっしゃるのでしょうか?」
始めて女性に手を握られたものだから僕はどうしていいのか分からず変な口調で喋ってしまう。遙堪はそんな僕のピュアハートな気持ちを無視するかのようにぼそりと冷たく言い放つ。
「囚われていたから」
「え?」
そう言うと彼女は車椅子を動かし今まで見蕩れていた蠟燭の火をふっと車輪で踏みつけ消す、と同時に視線をこちらに向けてくる。なんだかいつも以上に冷たい視線を向けられている様な気がしたため何もやましい事をしてはいないのだけど視線を下に落としてしまう。すると車輪の音が徐々に近づいてくる。
「どうして一人でこんな場所に来たの?」
遙堪のこんなに熱がこもった声を始めて聞いた。いや、厳密に言えばこれで二回目。昔に一度だけ無茶をした時にこう言うふうに問いかけられた気がする。あまり、喜怒哀楽を表に出さないからこそこう言うふうに声色を濃くされると恐怖を感じてしまう。
「いや。ちょっと蠟燭事件のことで気になる事があったから・・・それで、えっと・・・奈保さんの友人さんが殺されたって言うのは聞いた?」
静かに頷く、がただそれだけ。ちゃんと説明をしろと言わんばかりにジッと僕の内側を見ているようだった。全てを見られているようでどうも気持ちが悪い。だからと言って話を止めると余計に不快な視線を向けられるに決まっている、ので話を進める。
「それで、その佐江島さんが発言していたメモの中にここの教会の名前が頻繁に出ている事が分かって。それで、ちょっと気になって調べに来たってこと。ホントだよ?」
正直に本当の事を告げる。しかし、妙な事に遙堪の表情は先ほどと一切変わらず妙な気迫を帯びたままだった。言っていないことなんてもうないはず。僕は必死に身の潔白を示すように何度も遙堪の顔を見る、と遙堪は静かに瞳を閉じる。
「そう。でもね。夜遅くに一人で出歩くのは危ないと思うわよ。それにこんな所に一人で来るなんて自殺行為そのものよ」
そう言いながら彼女はジッと教会の方へと視線を向ける。それよりもどうして教会に来ただけで自殺行為になるのだろうか?少々どころじゃあない疑問が出てくる。
「どう言うこと?教会に何か秘密があるってこと?」
普通のこと。あそこまで言われたら誰だって出てくる疑問を教会をジッと見つめている彼女にぶつける。
「死人が頻繁に出していた単語なんでしょ?だったら、当たり前に危ないに決まっているじゃない。櫨谷でも気になるぐらい出ていたんだったら尚更よ」
なにが素人か分からなかったのだけど、睨みつけながらそう言って来る彼女の威圧感はそりゃあそうとうのものであり、僕は次に出てくる言葉は見当たらなく黙ってしまう。彼女は不快そうに深いため息をつくと車輪を漕ぎだす。何も言わず僕は彼女の横へ並歩する。しばらく歩いているとふと話しかけてくる。
「ねえ?一つ聞きたいのだけど?」
「なに?」
「櫨谷くんはこの殺人は人がしていると思う?それとも・・・」
「それってどういう意味?」
「言葉の意味よ」
「んー。人じゃあなかったら動物ってこと?それはまずないね。人命を意図的に奪う事ができるのは人間だけだよ。それ以上でも以下でもない。それに蝋を内臓まで流しこむなんてまあ、普通の感情ではできないと言う点から言うと人間ではないかもしれないね」
「そう・・・」
「?」
満足いく答えを言ったのか遙堪はそのまま黙り込んでしまう。しかし、どう言う意図であんな質問をしたのだろう?殺人は人がするものだと思っていたのだけどそれは違うのか?なにか喉の奥に魚の骨が刺さっているような感覚で何か気持ちが悪かった。出そうで出ない答えを考えるのはあまり好きじゃあない。ふと、何か分からないのだけど背中がムズ痒くなったため後ろを振り向くと白装束の老婆がゆらゆらとランプに灯を焚きながらこちらをジッと見ていた。瞬きをした次の瞬間、その姿は消えてしまっていた。
「ね、ねえ・・・遙堪?」
立ち止まる僕に彼女は振り向きながら答える。
「なに?」
「ひ、人って・・・瞬間移動とかできるもん?」
「何を言ってるの?」




