/蠟燭片鱗 8/?
「ここか・・・流石に歩いてくるのは無理があったかな。寒い」
ボソッと誰に言う訳でもなく愚痴がこぼれてしまう。奈保さんに焚きつけられたのもあってか半ば意地でここまで来た感じが否めなかった。焚きつけられて来たと言ったけど本当はそうじゃあない。ただ、何となく奈保さんの口調に腹が立ったためその感情をどこにぶつけたらいいのか分からずがむしゃらに来てしまった。行動をしてから後悔することが多々あり今がそのまっ最中である。「だからお前はからかい甲斐がある」と笑いながら言われるんだろう。しかし、今の時間に来たところで教会は開いているはずもない。外壁から少しでも何かが見えるかもしれないと思い周りを歩いてみる。ステンドグラスに蠟燭の灯だろうか?ゆらゆらと影の様なものが揺れているのが分かる。話外から見て分かるのはそのぐらいであとは何も収穫はなかった。流石にようもなくこんな所を何度も何度も歩いていると不審者と間違われてもなんだと思い歩き立ち去ろうとした時、妙な視線を向けられているような気がしたため立ち止まる。
「?」
振り向いて見ても案の定、誰も居ない。また、歩きだそうとすると妙な視線を感じたので振り向くとそこには誰もいない。また、歩きだそうと前を向いた瞬間にまた振り向く。
「きゃ!」
小さな悲鳴が響く。すると僕の前には小学校低学年ぐらいだろうか?ニット帽を被った女の子が驚きのあまり尻もちをついていた。
「こんな夜に見知らぬ男の人とだるまさんがころんだをするなんて中々、危険な遊びをしているね」
近づきながら尻もちをついている女の子に手を差し伸べる。見つかってしまったのなら仕方ない、と言いたげな表情で手を握ってくるので引っ張り立たせる。立ちあがったと同時に逃げると思いきや彼女はおしりをパンパンと数回たたき砂をはたき落し改めてこちらを見てくる。
「お兄さんもここを壊しに来た人?」
教会に指をさしながらジッと顔を見つめてくる。子供のくせに妙な迫力があり妙に顔が大人びているようにも見えた。
「いや。ただの通りすがりの一般人だよ。ちょっと散歩をしていただけ」
「嘘。だって、お兄さん今さっきまで教会の周りをグルグル回ってたもん」
「・・・」
いつから見られていたんだろう。と言うより教会を見渡していた時から彼女に監視をされていたのか?と言う事は僕は視線に気がついたのは相当あとだったということか?そんな事を考えていると女の子はお腹を押さえしゃがみこんでしまう。
「どうしたの?」
「お腹が空いた・・・」
「なにかあったかな」
かばんに手を入れあさってみるとチューィングガムがあったので彼女に渡すと喜んで口に運ぶ。先ほど感じた大人びた表情は消え普通の幼い女の子の表情へと戻っていた。お腹が空いていたのか五、六個一度に口に入れたものだから両頬がパンパンになり小動物みたいで可愛くついついほほ笑んでしまう。彼女もつられて満足そうにほほ笑む。
「あのさ?最近、キミの家に誰か来たことない?例えばこんな人とか?」
そう言うとかばんの中から一枚の写真を見せる。興味心身なのか僕の膝、肩に手を置き覗くように写真を見てくる。
「内緒だよ?」
「内緒?」
「うん。本当は教祖さんからは知らない人と喋ったらいけないって言われているんだけど、お菓子をくれたお兄ちゃんにならお話ししてもいいよね?」
そう言うと両足をパタパタとさせながら道路に座っていた僕の足にぺたりと座ってくる。
「このおじちゃんね。いけない人なんだって」
「いけない人?」
「うん。私たちにくれていたお薬をあげないって言ってきたんだって。教祖さんがそう言ってた」
「薬?」
「うん。私はまだ子供だから飲んだらダメって言われてるんだけど、なんかね。この薬を飲んだらね!」
「ここに居たのかい?」
「っ!?」
背後から声が聞こえたため振り向くといかに怪しそうな感じの白衣を着た老婆がゆらゆらとランプを持ち僕たちを見下ろしていた。
「すみません。うちの子がご迷惑をおかけしたようで・・・」
「あ・・・いや、そんな事は・・・」
「ちぇーもう見つかっちゃった!」
足の上に乗っていた女の子は立ちあがり老婆の横へと歩いて行く。ゆらゆらと風に揺れる蠟燭の火が妙に薄気味悪さを倍増させているのか、鼓動が妙に高まる。生唾をゴクンと大きな音を立てながら飲んでしまう。老婆はジッと目を見つめてくる。なんだか、体の言う事が利かない・・・?首元に何か見えない両腕で絞められている様な感覚。呼吸が徐々にできなくってくる。すると女の子が僕の前へと立ち両腕を広げる。
「お兄ちゃんに痛いをしたらダメ!!」
そう言うと先ほど感じていた首元の締め付けが無くなり倒れこむように地面へと視線を向け咽てしまう。
「ごほっ、ごほっ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・ちょっと、なんなんです・・・え?」
さっきまでいた少女と老婆の姿が消えていた。気配も完璧に無くなっており辺りを見渡してもどこにも居なくなっていた。残っていたのは老婆がランプの中に入れていた蠟燭が地面に刺さっており火がゆらりゆらりと風に煽られているだけだった。




