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Twin⇔Twin  作者: snowdrop
1章:清らかな川
8/14

08:仮面の少女

遅くなりました。変わりに23時間後くらいにもう1話投稿予定です。

まぁ待ってる人なんてほとんどいないんでしょうが

少女の登場は場をにわかに硬直させた。少女はその間にレイの横に移動する。


「《止血(ヒーマスタット)》……治癒までしている暇はないみたいですからこれで我慢してください」

「あ、ありがとう…ございます」


治癒には時間がかかる。それは魔法を用いたとしてもだ。例えばかすり傷を治すのにかかる時間は10分、今回のレイの傷の場合3時間以上かかるだろう。そんなに待ってくれる程獣は悠長な人間ではない。むしろ止血するまで待ってくれただけでも驚きに値する。

だからレイは何も言わない。いや、何者なのかと聞きたかったがそれを聞ける雰囲気ではない。

まぁレイが遠慮しても獣が遠慮なく聞くのではあるが。


「さて、と……待ってあげたんだ。君が何者かくらい教えてくれるかな?」

「……まぁいいでしょう。四埜です、都合により名字は省略させてもらいますね」


チラリとレイを見た後そう答える仮面の少女は四埜と名乗った。


血が止まったことで視界が若干戻ってきたレイは四埜を見て思う。胸がでかい、ズルい。私なんかまな板なのに……と。彼女を見た瞬間に何故かそんなことを考えられる程の余裕を取り戻したのだ。

どこか懐かしい、慈愛に溢れた雰囲気。まるで母のようなその雰囲気に心が落ち着いた。そういえば、光夜も似たような雰囲気だった。本人に言ったらすごい勢いで怒られそうだななんてことまで考えている。


「どうして仮面を着けている?……魔法具か?」

「さぁどうでしょう?確かに私の秘密ではあるのですけれども」


四埜のオーラからすると仮面は明らかに無粋だ。腰までストレートに伸ばされた黒髪、レイが嫉妬する程の大きな胸、括れた腰、スラッとした脚、染み1つない透明感のある肌。仮面に隠されていない唇も瑞々しい。いかにも美少女です、というオーラだ。

顔に傷があるとか目が可愛くない、または綺麗でないという可能性がない訳ではないが彼女の様子や発している雰囲気からするとそういうのとも違う。コンプレックスを抱えているようには見えない。

だから獣はコンプレックスから仮面をつけているのではなく、別の理由からそれをつけているのだと判断した。


そして何より、レイの破棄した魔法(不意討ち)をかわしたことからもわかるように、獣は魔力の流れを微かにではあるが感じられる。はっきりとではないが少女から仮面へ魔力が流れている感じがした。故に彼は仮面を魔法具だと判断した。恐らく魔力を引き換えにした能力の向上の類いだろうという予想もしている。


「どうしても知りたければ私を倒すことですね」


無理でしょうけど、と付け足し挑発する四埜。流石にそれに激昂するほど獣は子どもではなかったが眉が若干ひきつっている。


「……これだから自分の力を過信した餓鬼は……」


獣は四埜に過去の自分の姿を見て苛立つ。だからこそ現実というものを教えてやる為にあえて挑発に乗る。ただし、過去の獣自身と違ってチャンスなど与えるつもりは毛頭ない。


「そうさせてもらおうか」


その苛立ちを圧し殺した声に周囲の温度が低下する。


「「《火の剣(ファイアソード)》」」


奇しくるも2人の声は重なる。燃え盛る剣が空気を温める。それでも周囲の温度は低いままであるという錯覚を抱かせる。殺気というものにはそれだけの力がある。

2人が作り出した剣に込められた魔力はほぼ同じ。それに驚いたのはレイだけ。なにせさっき自分が戦っていたときよりも多くの魔力が獣の剣には込められていたのだから。


普通、人は魔法を使うとき自分の実力に適した量の魔力を込める。多少無理をすれば強い魔法は発動できる。だが疲れる上に直ぐにガス欠になってしまうのでほとんどの人はそんなことをしない。

獣の顔に疲労の色は見えず、無理をしている様子はない。これが意味することはレイが獣に手を抜かれていたということ。悔しさよりも先に驚きが出たのは下位とはいえレベル9である自分を圧倒的に上回る力量を持った人間。世界にも公式には92人しかいないとされるレベル10が2人も目の前にいることが原因だ。いや、あくまでそれは公式にであるので93人目と94人目のレベル10。が、だ。


「ひゅう、その仮面の力かい?」

「私を倒したらと言ったはずですけど?」


獣が驚かなかったのは仮面がそういう物だと考えていたからだ。

自信の源が魔法具による底上げならば昔の愚かしい自分よりは身の程を弁えている、と獣は四埜の評価を改める。


「そうだった、な!」


接近し、四埜に対して両手で持った火の剣を思い切り叩き付ける。避けられたところで反動を利用するつもりだから関係ない。上から全体重を乗せたその攻撃は四埜の細腕ではまず弾けないはずだった。

四埜は一瞬しゃがんだかと思うとその反動を利用して真っ向から獣の剣を受け、弾く。否、弾き飛ばした。そのままヒールのある漆黒の靴で蹴りを放ち追撃しようとするがそこは歴戦の猛者の獣、体勢を立て直し距離をとる。


「おいおいマジか……受け流すくらいならまだしも弾き飛ばせるような一撃じゃなかったんだが」

「この靴にあらかじめ風魔法をかけていましたので、あんな一発芸もう出来ませんよ」


仮面については答えるのを嫌がった割りに、今の行動はあっさりとネタばらしをする四埜に疑問を覚えるが、自身の肉体的な力が負けた訳ではないことに対する安堵が勝り、それについては聞かずにもう一度駆け出す獣。


最初の均衡していた頃のレイと獣の戦い、剣の色や速さ等に違いはあれどその再現が行われる。

一向に終わる気配のない攻防、どちらの呼吸も乱れていない。時折魔法名が叫ばれ、赤い魔法が飛び交うことがあるがその程度では戦況が動いたりしない。獣が牽制程度に『結界発生結晶(プロテクター)』を狙う動きを見せることはあっても四埜がそんなものに惑わされることはない。その様子は獣に本当に狙う意思がないことを見抜いているというものではない。曲がりなりにもこの街を守る動きをしているのだ。多少なりとも動揺してもよさそうなのに全くそんな様子は見られない。


まるで、今目の前にある結晶は偽物(フェイク)であると確信しているかのように。


唐突に四埜が魔法名でない言葉を発する。それは今相対している人間が感じているであろう違和感を確認させないするためだけでなく、自分の疑問も解消するためでもあった。


「そういえば、どうしてレイに本気を出さなかったのですか?貴方が最初から本気を出していれば私の介入は間に合わなかったかも知れないですのに」

「馬鹿言え、介入が間に合わないはずないだろう。大体そんなことをしていたら隙だらけのところを襲っていただろう?」


四埜の口元に明らかに笑みが浮かぶ。獣の言うことが最もであり、そうならなかったことが残念で仕方がないというもの。

本気を出すということは目の前の相手にのみ集中するということ。別の相手の不意討ちには対応出来なくなる。


「仕方ない。君が俺に勝てたら教えてやろう」

「貴方が勝ったら仮面のことを、私が勝ったら理由を話すということでしょうか?いいですね、それ」


四埜がその言葉に合わせてテンポアップする。それと同時に獣もテンポアップする。ここから無駄口は必要ない。

だと言うのにそれからさらに10号ほど剣を交え合った後、獣は再び口を開く。


「一般に、どれか1つの属性が突き抜けてる奴ってのは他の属性はそこまで強くない」

「あの『聖騎士』ですら2、いえ3属性以外は微妙らしいですね。そんな常識がどうかしたのですか?」


訝しげな表情で獣を見る四埜。口元しか見えないが。この間も剣舞は続いている。

「あくまで一般にだってことだ。《水の砲弾(ウォーターシェル)》」


──ドォーン


四埜が居た場所から土煙が舞う。視界は晴れないが今の一撃で確実にダメージは与えられたと判断し、レイの方を向く。


「い、今の……さっきまでの火よりちょっと弱いけど……かなり高威力な……水?」


今のは明らかに水魔法で、しかもレベル8の人間が放ったものとほぼ同じ威力だった。そのことにレイは驚愕し、自分は本当に手加減されていたのだと改めて実感する。そして、四埜といえども無傷ではないだろうという獣と同じ判断を下す。


「ちなみに他の四大下位、つまり風と土も水と同じくらいで使える。……昔俺が負けた相手が全四大下位魔法を使えてな、自慢気に語ってくれたよ、自分が苦手な属性まで得意にする方法をな。生死も確認せずに、な。嬢ちゃんは先輩のせいで死ぬんだ」


今の話が本当ならばそれは魔法における革命だ。何故公開しないのかと思う一方、四埜が負けた今、そのせいで死ぬ自分にはもう関係ないかと考えるレイ。だが一方で何故かまだ四埜に対する安心感が消えていない。

と、そこにどこか馬鹿にしたような声が響く。


「生死を確認しないのは良くないですね。自分で実感したんじゃなかったのですか?」


土煙が晴れてその声の主の姿が見える。


「馬鹿、な……水の砲弾はランクⅦ、魔法名だけで撃てる魔法の中なら上位に位置する魔法だぞ……それを時間のない中の火魔法で防げる訳が……」


水は火に強い。四埜を火使いだと勘違い(・・・)していた獣は困惑する。


そして気付く。土魔法を使ったのだと。


止血は水魔法、靴にかけていたという風魔法。どちらも何事もなかったかのように言っていたため見過ごしたがどちらも高い技術力が必要だ。さらに言うなれば自分という前例がいる。それが意味するところはただ1つ。


「まさかお前は三属性……いや、お前も俺と同じ四属性使い?」


だとすれば一体どうやったというのか?自分が行った方法は想像を絶する苦痛を伴う。その方法を見つけるだけでも不可能に近いというのに、だ。目の前の少女が何者なのか本気で気になってきた獣だが今はそれよりも逃げなければいけないという考えが頭を支配し、その疑問を聞くことを許さない。


「ご名答……と言いたいところですけど私は貴方のような紛い物とは違います」

「……どういう意味だい?」


答えなど分かりきっている。自分の魔法をあっさり防ぎきったのだ。それが意味することはただ1つしかないのだから。


「《火の砲弾(ファイアシェル)》《土の砲弾(アースシェル)》《風の砲弾(ウィンドシェル)》《水の砲弾(ウォーターシェル)》」

出てきたのは同じ大きさ(・・・・・)の赤、茶、緑、青色の球体。


「ちぃ!焦がせ!襲い来るものを燃やして防ぐ盾《焼却の盾(バーンシールド)》」


獣は火以外も得意とはいっても火には及ばない。だが四埜は違う。そも、四埜には一番得意などという概念がない。全ての四大属性が同じように使え、そしてそれはどれか1つでもその域に達すれば世界中から羨望を向けられる力なのだ。流石に仮面がここまで万能とは思えなかった、四埜自身の才能だと獣も認める。


獣が作ったのはランクⅨの盾。それは火、土、風の砲弾までを防ぐことには成功した。だが水の砲弾は盾に阻まれながらも突破し、獣を襲う。


「狙い通り……これでいつもいつも馬鹿にされてきた制御もマシになりましたかしら」

「く、そ……」


四埜が狙ったのは脇腹。狙い通りにレイと同じところに傷を負う獣。レイと違って倒れることはなかったのだが。今度は自分が手加減されたという事実に、しかも相手は自分の半分くらいしか生きていない少女だということに、そして、結局自分の大嫌いな男に借りを作らなければならないということに苦い顔をする。


「ちっ、取り合えずここは逃げさせて貰おう」

「その怪我で私から逃げきれるとでも?」


傷はレイとほぼ同じなのだ。何もしなければ失血死してしまう。そんな怪我で逃げられるはずがないと考える四埜と現在進行形でその痛みに耐えているレイ。


「君1人なら無理だっただろうな。だからこうする。《火の投擲槍(フレイムジャベリン)》《煙幕(スモーク)》」


本日三度目の槍をレイに投げつけ、自身の周りに煙幕を発生させる獣。だが四埜は煙幕に気を配る余裕はなかった。レイを守ることが優先されたのだ。


「しまっ…《水の壁(ウォーターウォール)》」


レイの前に現れた四角い水の壁は見事に獣の投げた槍を防いだが、小規模な水蒸気爆発が起こる。


「あ……」


漏れ出た言葉は四埜か、レイか。

それでレイが吹き飛ぶようなことはなかったが衝撃でレイの意識は闇に落ちた。

何故か血痕はなく、どこに行ったかも分からなかったので、四埜は獣を追わずにレイの治療を再開することにした。



作者「四埜の正体は誰なんでしょうねー(棒)」

四埜「まぁこの作品のタイトルとかタグとか見たら分かりますけどね」

作者「それはそうとお前喋り方変わった?前は~かしら?とか~でしょう?とか高圧的な態度だったような……?」

四埜「あなたがレイとの書き分けが難しいから敬語で──」

作者「あーあーあーなにもきーこーえーなーいー」

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