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Twin⇔Twin  作者: snowdrop
1章:清らかな川
6/14

06:枕

大学忙しすぎ

「本当にやめてくれ」


1時間目の授業が終了するなり光夜はレイに土下座した。

レイが転校してきてから1週間が経ち、梅雨も本番の今日、彼女はクラスにそれなり以上に馴染んでいた。最も分かりやすい例を言うと光夜弄り。

光夜が女顔であることをクラスメイトと一緒にからかうことが増えた。イジメになるギリギリのラインの見極めも済んでいる。ただ流石に風音の光夜に対する暴力行為を見逃すことは出来ずに風音を止めていた。光夜もこれに関しては本当に、心の底から感謝している。

また、女子の名前も覚え、男子の名前もほとんど覚えた。

それでも、目の保養になるから、ととある女子生徒からお願いされたから……という訳ではなく、ただ単純に美少女同士気が合うから光夜と行動していることが多い。

光夜からすれば睡眠を妨害されたり、少女扱いされたりでたまったものではない。


「い・や」


語尾にハートマークが付いてるんんじゃないか、という口調で光夜が土下座までして要求したことを却下する。


「何でだよ!失明したらどう責任取るんだよ!」


光量は調節しているのでその可能性はないという説明は無駄だった。それでも失明する人間は失明すると光夜に言われたのだ。それでもやめないレイだった。


「なら他の魔法で起こそうか?例えば光夜くんの前にだけ光を灯し続けるとか」

「あ、そっちでお願いします……じゃなくて!まず起こさないでくれ」

「だから先生から頼まれたんだってば。授業中に寝る方が悪い」

「だから色々あるんだって」

「色々って何よ?」

「それは言えないってば」


2人の会話から分かるように光夜の要求は授業中に起こすのをやめて欲しいというものだ。レイの言い分が最もだということは光夜自身も分かっているのだがそれでも彼にだって事情があるのだ。夜に家に居たくない理由を誰にも話す気などないし、両親について調べられたくもない。

──たとえ、レイがこのまま順当にSSOとして組織内での地位を確立したならば知られてしまうかも知れないとしてもだ。その時まで同情的な視線も、監視するような目も要らない。そしその時には恐らく──


「最近は変な感じがするし、奥の手が使えないんだよ……」

「え?何か言った?」

「いや、何でもない……じゃあこうしよう。枕貸してくれ」


──ピキッ


教室内の空気が1週間ぶりに凍った。1週間前というのはもちろんレイがSSOだと判明したときだ。

各々会話しながらも光夜とレイの会話には耳を傾けていた。いきなり土下座を始めた人間に注意を向けないなど不可能なのだから。そんな中聞こえてきた枕を貸してくれ発言。普段親友と違って変態的な発言をしない光夜の声で、だ。


「失言?……あ」


光夜が周りを見渡すと二重の意味でやってしまったことを悟る。逸早く回復して光夜に口撃するのはやはり幼馴染と変た……親友。


「光夜、君にそんな趣味があったなんて幼馴染としてボクは嘆かわしいよ」

「何だ光夜!普段あんなこと言ってるけどやっぱり仲間(同志)なんじゃないか……より一層仲が深まった気がするぜ」

「ち、ちが──」


光夜は急いで否定と弁解をしようとするがその前に回復した面々が好き勝手言い出す。


「光夜っちにそんな趣味があったなんてねー」

「まぁ姫の枕は借りてみたい気もするけどね」

「俺は光夜の枕でも可」

「光夜ちゃん、こうしましょう。私の枕を貸してあげるから光夜ちゃんの枕を貸してちょうだい」


その後も彼らの暴走は止まらない。もう無理だと諦めた光夜は座りなおして貴重な時間を眠ろうとする。


「どう、して……?」


ただ1人、枕を貸して発言をされたレイだけは違う反応をしている。決して貞操の危機を覚えたとか光夜の発言に引いたとかではない。機密情報(・・・・)を知っているかもしれない光夜に不審を覚えたのだ。

かといってこんな衆人環視の中で問い詰める訳にも行かずに光夜の眠り始めるのを見守った。

この日レイが光夜を起こす事はなく図らずも平和な睡眠を手に入れた光夜であった。

なお、光夜をレイが起こさないという事態とその理由をクラスメイトたちはこのように考えていた。


(((そんなに枕貸したくなかったの!?)))


光夜に関わりたくないとレイに思われたのだと勘違いした面々は、幸せそうに眠る光夜を可哀想な子を見る目で見ていた。


◇◇


「しっかし何で今日は皆あんなに優しかったんだ?」


家で豚カツを作りながら光夜は呟いた。今日はソースではなく、自家製のポン酢と大根おろしで食べようとしている。問題は昨日大根の首の方を使ってしまったために、辛いしっぽの方しか残っていないことだがぬかりはない。電子レンジ(の魔法具)で温めれば甘くなる。それを冷蔵庫で冷やせば首の方をおろしたものと違いはなくなる。

豚を揚げる準備が出来たところで余った卵を見て光夜は呟く。


「……ついでだし野菜も揚げるか」


冷蔵庫にあったアスパラガスや玉ねぎを適当な大きさに切り、爪楊枝を刺す。おくらは洗うだけだ。光夜は小麦粉、卵、パン粉の順番で素材につけた後で軽く潰して満足げな笑みを浮かべる。


「って違う。まだ満足するのは早いだろ俺。満足は揚げ終わってからするものだ」


ゆっくり時間をかけて豚を揚げ狐色の綺麗な豚カツ、野菜カツが完成する。

あらかじめ千切りにしておいたキャベツの乗った皿にそれらを乗せて出来上がりだ。


「思ったより時間かかったな……帰ってから寝てたのも失敗だった」


光夜の呟き通り今はもう夜遅い。9時を回っている。昼寝というのは真に恐ろしい。時間が全然足りなくなってしまう。学校でする昼寝は時間が早く経つ気がするので素晴らしい等と自分に都合のいいことを言いながらテーブルに持っていく。

「早く食べて2人の分を弁当にしないとヤバイな。いただきます」

どうしても生活リズムのおかしい両親と鉢合わせしたくない光夜は急いで、だがしっかりと噛んで食べる。


「あ、ちょっと赤い……」


じっくり時間をかけたというのに完璧には揚がっていなかった豚カツの真ん中の方を失敗したと思いつ

つ、まぁ大丈夫だろうと食べる。


「ごちそうさまでした」


光夜は両親の弁当を用意すべく立ち上がった。


◇◇


──ピンポーン


弁当にカツを詰め終わり、食器を片付けていると訪問者を知らせる音が鳴り響く。


「は?こんな時間に?」


もうすぐ10時だぞ、捕まっても知らないぞ?と訪問者に文句を言いながら誰かを確かめる。自分が毎晩外出していることは完全に棚上げしている。


「ってなんだレイか、なら捕まらないな」

「はい?」

「何でもない」


突然訳の分からないことを言われた訪問者、レイは怪訝な顔をする。それを無視して光夜は来訪の理由を尋ねた。


「聞かなくても分かってるでしょ?」

「いや、マジで分からない」


光夜には本当に心当たりがなかった。だと言うのにレイは疑いの眼差しをやめない。


「枕のことよ」

「は?朝のアレ?……え?本当に貸してくれんの?」

「いや、貸さないわよ……そうじゃなくて──」

「え?アレって機密情報なの?知らなかった」

「私まだ何も言ってないんだけど……ふざけてるの?」

先回りしておいて知らなかったなどと抜かす光夜に軽く苛立ちを覚えるレイ。それでもグッとこらえる。

「いや、マジで知らなかったんだって」

「……まぁいいや。で、何でその機密情報を知ってるの?」

「何でって……じーちゃんに教えてもらったから」

「光夜くんのお祖父さんはSSOだったの?」

「いや、違うと思う……会ったことないから知らないけど」


会話が噛み合わない。

ただ、レイは1週間前に風音から軽く聞いた光夜の両親のことを思い出して自身の言葉が軽率だったことを認識する。


「えっと、ごめん」

「気にすんな」


光夜が教えている範囲のことをレイに話したということは風音から聞いていたので、ここで再び会話が噛み合わなくなることはなかった。


「でだな、じーちゃんってのはだな、お前の前任者だ」

「この街の前のSSOってこと?」

「ああ」

「確かにご高齢で引退されるから私がこの街に来たんだけど……どうして知り合いなの?」

SSOは夜の警察だ。活動時間以外、つまり朝から夕方にかけては休息に充てるのが一般的である。引きこもりと大差はない生活をしている。レイだって特殊な枕(・・・・)がなければ学校に通うことなんて出来はしないのだ。学校に通うのも休息のうちと捉えているからこそである。

「んんー……まぁいっか。たまに(・・・)夜中に散歩してるんだよ俺」


光夜は質問に答えるべきかどうか悩んだが結局答えることにした。一部が明らかに虚偽だがそうしとかないとダメな気がしたのだ。


「犯罪じゃない……」

「ちゃんと許可は貰ってたさ。……非公式だけどな」

「今何か小声で付け足さなかった?」

「足してない足してない」


聞こえていたらしょっ引かれかねない台詞だ。


「……まぁいいわ。ちゃんと許可を貰ってたなら……」


口調は疑っているが光夜は気にしていない。


「そうそう。ってことでよろしくな」


言外にまだまだ夜中に外出するのはやめないと言う。これにはレイも焦るが光夜が文句を言わせるはずもない。


「さて、あと1分程だぞレイ。街が最も危険に晒される時間帯まで」

「っ……はぁ、この件についてはまた明日話しましょう」

「おう、頑張れよ」


レイはドアを閉めて夜の街へと繰り出す。一見、仕事の時間が近づいたからレイを送り出した。または詰め寄られないためにレイを追い出したととれるこの会話。根底にあるのはただの自己保身。それと分かる者は光夜を除けば1人しかいなかった。


「じゃあ、行くか──」


こうして光夜も空野邸をあとにした。


作者「諸事情により夜間の無許可の外出は犯罪です」

光夜「知ってる」

作者「指摘がありましたがこの世界には、日本の家電製品がほぼ全部あります。ただ起動に電力ではなく魔力が必要ってだけです」

光夜「ちょっと魔力入れたら蓄えてくれるしな。定期的に入れないと切れちゃうのが難点か」

四埜「ネットゲームのしすぎで魔力切れ、病院に搬送とかよく聞きますよね」

作者・光夜「「お前の出番まだだから!」」

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