表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

自動販売機午後八時

作者: 音葉くらげ

 僕は寒さに震えながら公園のベンチに座っていた。数十分前までは家で布団に包まってゲームをしていたのに、今は寒空の下で星を数えている。元凶は『ひま。出てこれる?』という一つのメール。安っぽい金属で作られたベンチが体感温度を下げているような気がした。

 指の先が動かなくなり、凍ってしまったんじゃないかと不安になる。指定された時間を十五分ほど過ぎ、ブレーキに悲鳴を上げさせ、公園のすみに自転車が止まった。

 小走りで近づいてくる影。

「待った?」

「遅い。風邪ひくかと思った」

 佐々木の格好は茶色のコートに赤色のマフラー、ベージュの手袋。防寒は完璧のようだ。僕は体を震わし、拗ねたように文句を言う。

「ごめんごめん、缶ジュースおごるからさ」

 佐々木は公園の端にある自動販売機に向かって歩き出した。置いて行かれないようにと彼女の肩まで伸びた黒髪を追いかける。『佐々木さんといるときのお前ってなんだか犬みたいだな』友達に言われた言葉が頭をよぎった。

「今日は何?」

「別に。私たち用がないと会えないの?」

 普通に聞いたら心拍数の上がりそうなセリフなのに、こいつがいうとからかわれているようにしか感じない。証拠に佐々木の顔は、笑いを堪えきれないとでもいうように真っ赤だ。

 何の用かと聞いておいてなんだけど、メールの通りにひまだっただけだろう。こいつはそういうやつだ。

 僕と佐々木がなんなのか。僕は正確に言葉にできない。同じ学校に通っていて、よく一緒にいて、昼食を二人で食べることがあって。でも、それは今関係ないことで。だからこんな言葉が僕の唇からこぼれてしまったんだろう。

「僕たちって一体なんなのかな」

 佐々木が振り向く様子はない。僕の言葉は冬の風に流されてしまったのだろう。伝わらなかった言葉は発しなかったのと同じだ。少し残念な気もするけど、もう一度同じ言葉をつぶやく勇気はない。

 自動販売機に着き、佐々木が五百円玉をいれた。促され『つめた~い』と『あったか~い』の並ぶボタンから僕は商品を選ぶ。この季節に冷たい飲み物を買う人がどれだけいるのだろうと思ったけど、横にはセブンティーンアイスが置いてあった。大人ぶって飲んでいるホットの無糖珈琲のボタンを押そうとしたとき、おかしなものが視界に入った。

『なまあったか~い』

 子供の悪戯だろうか。温度表示の部分にビニールテープが張られ、本来ならあり得ない記述がされていた。

「あはは、これでいいよね」

 僕があっけにとられている間に、佐々木が笑いながら『なまあったか~い』飲み物を買ってしまった。

「勝手に買うなよ」

 そっぽを向いて、僕はまた拗ねたフリ。

「いいじゃん。私は好きだよ? なまあったかいの」

 取り出したコーヒーを手に持ち、僕の胸に当てた。

「だからさ、今は『突き合ってる』じゃダメかな?」

 俯きながら佐々木はもう一つの手を握り突き出してきた。

 僕はそこに無言で自分のこぶしをぶつけ、戻り際の手でコーヒーを受け取る。当たり前のことだけど、コーヒーはあたたかかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)素敵な恋の描き方ですね。記述的に登場するお二人はまだ高校生ぐらいの学生だと思うんですけど、初々しさがどことなくあっていいですね。若いっていいなぁ(*^ω^*) [一言] ∀・)興味な…
[一言]  恋を知ろうとする少女の物語を書いている西向く侍的にはグッとくる物語です。 「つきあってください」とかいう告白をするのは日本人だけらしいですよ。  アメリカ人とかはデートを重ねて、思いが重な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ