満月の夜に逢いましょう
黒い闇夜の中で、青白い月の光を浴びて人影が浮かび上がる。それは艶やかな長い黒髪と白い肌持ち、高層マンションの一室に居た。その部屋の中のベットの隣にそれは立って、ベットに寝ている青年を見下ろした。
くるしい苦しい。ここは何処。暗い。
青年の苦しげな寝言に答えるように人影は言葉を零す。
「さあ、迷うんだ。この世界で…」
人影が青年の額にゆっくりと手を近づける。
その時、闇から別の人影が浮き上がる。黒のローブを着てフードを深く深くかぶっている。その人影は青年の額に手を近づける人影に気がつくと、叫ぶ。憎しみを声にのせて。
「夢羽!」
夢羽と呼ばれた人影が叫んだ人影を瞳に映す。
「…死神か。」
「またお前か!」
叫んだ人影、死神の手に銀の鋭い大鎌が現れて握られる。夢羽は近づけた手を遠ざける。そして言う。
「『罪には罰を 平凡には幸せを』だったか。」
「我々死神は魂を連れて行く最終審判。それがたった一つのお前という存在に揺らされてはいけないはず!」
「今回は引き下がろう。俺は戦いを望まないし、仕事は終わった。」
妖しく浮かぶその微笑んだ唇を残し夢羽は消える。死神は一瞬驚き直ぐに深刻な顔で青年に歩み寄る。しかし、たどり着く前に青年の光の差さない瞳が開く。次に立ち上がる。
「遅かった!」
悔しそうに焦りを混じらせて言い、大鎌を床に叩きつけたくなる衝動を抑える。事態は一刻を争う。早くしなければならない。死神は青年の後ろを歩きながら大鎌を向ける。目を閉じで青年の精神に進入する。いや、しようとする。
(クソッ)
入れないのは夢羽のかけた呪いだろう。兎に角、時間が無い。焦って呪いが解けない。そして。
青年は扉を開ける。月の光が強い。満月が真上にある。青年は出口を求めるように屋上を歩く。必死の死神。歩く少年。そして、遠くからその光景を見る夢羽。満月のステージ。なんと愉快。
青年は主役を演じる。ステージの端に立ち、待ちに待った出番。客席を見渡し、そして輝くネオンの海に飛び込んだ。
10月31日。ハロウィンの夜の悲劇。龍川 勇輝(17)自殺。
自殺した魂はこの世で永遠にさまよう。自然に笑みが零れる。そして落ちる。
次のターゲットを探さなきゃなあ…
夢羽は囁き、消える。
また、満月の夜に逢いましょう
(残されたのは死神ただ一つ。)
シリーズ化、かもしれない。