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松山シンスケ2

「付き合ってくれないか」

あの日の夕方俺は決意をして彼女にそう聞いた。

彼女はオレンジ色に染まった空を見上げた。そして俺を見つめた。

「いいよ…」

「本当か!」

俺は嬉しくなって彼女を抱きしめた。彼女の体がこわばったのがわかった。


彼女の美しい黒髪を撫でる。

ベッドで横になっている彼女は時たま、眉をひそめる。

彼女が夜なかなか眠れない性質だということに気づいたのは

ベッドを共にするようになってからだった。


俺は彼女を安心させようとその体を抱きしめた。彼女の腕が俺の腕を掴む。それは痛いくらいだった。

「武田…」


彼女の口から漏れたその名前に俺は息がとまるかと思った。寝言らしく、彼女は俺を掴む腕の力を弱めると体を丸めるようにした。寝顔はとても苦しそうだった。


「なあ、松山。昨日の夜、私なにか変なこと言わなかった?」

彼女はスプーンでミルクに浮かぶコーンフレークをすくいながらそう言った。俺はいつものお気に入りの日本食の朝食メニューの納豆に卵をいれた。

「いや。別に。」

俺は精一杯笑顔を作ってそう言った。

お互いに実家通いなので周一はこうやってホテルに泊まっていて、そこの朝食を一緒に食べるのが習慣になっていた。

「松山?納豆混ぜすぎじゃないか?」

そう彼女に言われて見ると卵が泡だって、手元の小碗の中の納豆が泡だらけになっていた。

「これがうまいんだよ」

俺はそう言いながら納豆をご飯にかける。

「そう言えば今日は辞令が出る日か。」

「うん、東京に行くことになるけど。平気か?」

彼女は俺を気遣うように見た。付き合うようになって彼女はそういう表情を見せるようになった。俺はその顔を見るのがたまらなく好きだった。

「大丈夫。俺の会社は東京出張多いから。遊びにいくよ。」

俺は笑顔でそう答えた。



会社に彼女を迎えにいった。今日は車でこっちに来てたから、そのまま彼女を乗せて家に帰るつもりだった。

俺は視線を感じた。刺すような視線だった。

彼女は俺を見ていて、気づいてないようだった。

俺は視線の主を探るため、顔を上げた。

武田…。

武田タカオがこちらを見ていた。武田は俺たちの姿を確認すると再び建物の置くに入っていった。


なんで武田が??


「どうしたんだ?松山」

「なんでもない」

彼女は動揺する俺を心配げに見上げた。


「武田をみたけど?」

迷ったが俺はその夜、彼女に直接聞いた。彼女は一瞬動きを止めた後、視線を俺からはずした。

「うちの会社吸収合併されただろう。親会社が武田が勤めてる会社だったんだ。私も初めて見たときは驚いた」

彼女は淡々とそう答えた。

「松山?」

俺は急に不安になり、彼女を抱きしめた。


時間がたつに連れて俺の不安は大きくなり、彼女の様子もおかしくなった。沈んでることが多くなった。でも彼女の行動は変わらず、彼女が会社外で武田と会ってる様子はなかった。


あの視線、刺すような視線。

10年たっても変わっていなかった。

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