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金曜深夜、駅前ファミレスで

掲載日:2026/07/17




 金曜の夜でも、駅前のファミレスは十時を過ぎると、少しだけ静かになる。

 騒いでいた高校生が帰って、終電前の社会人も減る。


 深夜一時を過ぎる頃には、ドリンクバーの動作音のほうが会話より目立つ。

 俺は窓際の席で、氷の溶けたメロンソーダを飲んでいた。



「先輩、またそれですか?」



 声がして、顔を上げる。

 水色の緩いシャツワンピースの彼女が、トレーにカフェラテを二つ乗せて立っていた。



「この着色満載の色がさ。落ち着くんだよ」

「ディスってる? 褒めてる?」



 彼女は向かいに座って、片方のカフェラテを俺の前に置いた。



「いらない」

「眠そうだったので」

「お前こそ、寝ろよ。今、何時だと思ってんだ」

「えっ!? 時計、見えないんですか」

「んっ!? コンタクト、忘れたか?」



 彼女は笑いながら、自分のカフェラテにガムシロを二つ入れた。


 カフェラテのガムシロはないだろ、と言いかけてやめる。

 毎週同じことをしている気がした。


 金曜の深夜。

 駅前のファミレス。

 ドリンクバーだけで朝まで粘る。


 待ち合わせはしていない。

 連絡もしない。


 それでも、来るだろうなと思って席に座っているし、実際、彼女は来る。


 名前だけなら知っていた。

 大学の、一つ下。学部も違う。


 最初に話したのは去年の冬で、それ以来、なぜか金曜の夜だけ顔を合わせるようになった。

 理由はたぶん、お互い暇だったからだ。



「先輩」

「なんだ?」

「雨ですよ」

「とっくに、知ってる」

「帰れませんね」

「いや、お前はここまでどうやってきたの?」

「傘をさしてです」

「だよね」



 窓の外では、街灯に照らされた雨が白く流れている。

 終電を逃した酔っぱらいが、改札前でやけ酒を飲んでいた。


 店内のBGMは、穏やかなクラシックが流れている。


 店員のチョイスに少し納得いかない。

 客を寝かそうとして、どうするんだ。



「先輩って……。」

「うん?」

「彼女、いたことあります?」

「急だな」

「暇なので」

「最低な理由だ」

「まあ、ここにいる時点でお察しですけど」

「ああ、自虐ギャグね」

「……で?」



 何だろうか。

 妙に粘ってきた。



「あるよ」

「へえ」



 意外そうな顔をされた。



「その顔やめろ」

「だって、毎週金曜にファミレスでメロンソーダを飲んでる男ですよ」

「メロンソーダには、夢が詰まってるんだよ」

「あーー、子どもの夢ですね」

「アイスクリーム、奢ってくれ。浮かべるから」



 彼女は笑いながらポテトのメニューを開いた。



「食べます?」

「アイスクリームって言ったよね?」

「どうせ後で食べますよね」

「……まあね」

「じゃあ、頼みます」



 タッチパネルを操作している横顔を、ぼんやり見る。

 可愛い部類なんだろうな、と思う。


 でも、その感想は毎回すぐ流れていく。

 可愛いとか、好きとか、そういう方向に進む前に、朝が来るからだ。


 毎週。

 ずっと。



「そういえば」



 彼女が顔を上げる。



「来週、たぶん来れないです」

「ふーーん……。」



 なるべく興味のない感じで返した。



「ふーーんって、なんですか」

「どう返せと?」

「ちょっとは寂しそうにしてくださいよ」

「なんで」

「ラブコメっぽいじゃないですか」

「知らん」



 彼女はくすくす笑って、窓の外を見た。



「……まあ、嘘なんですけど」

「酷いな」

「反応見たかったので」

「暇人か」

「お互い様ですよ」



 それはそうだった。

 早くポテトがこないかな、と思った。




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― 新着の感想 ―
こんばんは! この二人の関係が、とてもいいですね。 一緒にいるだけで楽しそうにしている二人が羨ましくて憧れます。 素敵な物語を読ませていただき、誠にありがとうございます。
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