金曜深夜、駅前ファミレスで
金曜の夜でも、駅前のファミレスは十時を過ぎると、少しだけ静かになる。
騒いでいた高校生が帰って、終電前の社会人も減る。
深夜一時を過ぎる頃には、ドリンクバーの動作音のほうが会話より目立つ。
俺は窓際の席で、氷の溶けたメロンソーダを飲んでいた。
「先輩、またそれですか?」
声がして、顔を上げる。
水色の緩いシャツワンピースの彼女が、トレーにカフェラテを二つ乗せて立っていた。
「この着色満載の色がさ。落ち着くんだよ」
「ディスってる? 褒めてる?」
彼女は向かいに座って、片方のカフェラテを俺の前に置いた。
「いらない」
「眠そうだったので」
「お前こそ、寝ろよ。今、何時だと思ってんだ」
「えっ!? 時計、見えないんですか」
「んっ!? コンタクト、忘れたか?」
彼女は笑いながら、自分のカフェラテにガムシロを二つ入れた。
カフェラテのガムシロはないだろ、と言いかけてやめる。
毎週同じことをしている気がした。
金曜の深夜。
駅前のファミレス。
ドリンクバーだけで朝まで粘る。
待ち合わせはしていない。
連絡もしない。
それでも、来るだろうなと思って席に座っているし、実際、彼女は来る。
名前だけなら知っていた。
大学の、一つ下。学部も違う。
最初に話したのは去年の冬で、それ以来、なぜか金曜の夜だけ顔を合わせるようになった。
理由はたぶん、お互い暇だったからだ。
「先輩」
「なんだ?」
「雨ですよ」
「とっくに、知ってる」
「帰れませんね」
「いや、お前はここまでどうやってきたの?」
「傘をさしてです」
「だよね」
窓の外では、街灯に照らされた雨が白く流れている。
終電を逃した酔っぱらいが、改札前でやけ酒を飲んでいた。
店内のBGMは、穏やかなクラシックが流れている。
店員のチョイスに少し納得いかない。
客を寝かそうとして、どうするんだ。
「先輩って……。」
「うん?」
「彼女、いたことあります?」
「急だな」
「暇なので」
「最低な理由だ」
「まあ、ここにいる時点でお察しですけど」
「ああ、自虐ギャグね」
「……で?」
何だろうか。
妙に粘ってきた。
「あるよ」
「へえ」
意外そうな顔をされた。
「その顔やめろ」
「だって、毎週金曜にファミレスでメロンソーダを飲んでる男ですよ」
「メロンソーダには、夢が詰まってるんだよ」
「あーー、子どもの夢ですね」
「アイスクリーム、奢ってくれ。浮かべるから」
彼女は笑いながらポテトのメニューを開いた。
「食べます?」
「アイスクリームって言ったよね?」
「どうせ後で食べますよね」
「……まあね」
「じゃあ、頼みます」
タッチパネルを操作している横顔を、ぼんやり見る。
可愛い部類なんだろうな、と思う。
でも、その感想は毎回すぐ流れていく。
可愛いとか、好きとか、そういう方向に進む前に、朝が来るからだ。
毎週。
ずっと。
「そういえば」
彼女が顔を上げる。
「来週、たぶん来れないです」
「ふーーん……。」
なるべく興味のない感じで返した。
「ふーーんって、なんですか」
「どう返せと?」
「ちょっとは寂しそうにしてくださいよ」
「なんで」
「ラブコメっぽいじゃないですか」
「知らん」
彼女はくすくす笑って、窓の外を見た。
「……まあ、嘘なんですけど」
「酷いな」
「反応見たかったので」
「暇人か」
「お互い様ですよ」
それはそうだった。
早くポテトがこないかな、と思った。




