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1. 潰えた大遠征

「もはや、北部への派兵を口にする者は誰もいない……」

前王の死去に伴い、次代の王となる王子は、執務室の窓から南の空を睨みながら、あの日々を思い出していた。

かつて、北部の危機を救うため「派遣部隊」の指揮官を自ら買って出た。

だが、待っていたのは難航を極める外交交渉だった。北部の災厄を遠い国の出来事として派兵を渋る南部諸国。父王の計画を実現するため、王子は不眠不休で国々を説得して回り、なんとか「南部諸国連合」としての派遣行動をまとめ上げた。

さらに、のらりくらりと返事を先延ばしにし、北部への道を塞いでいた大国『大聖国』父王自らが交渉へ赴き、その重臣たち、大聖国の王を執念で説き伏せ、ついに軍の通過を認めさせたのだ。

すべてが、うまくいくはずだった。

だが、我が国の派遣部隊の出陣式を直前に控えたあの日、かねてより体調を崩していた父王が帰らぬ人となった。

王の崩御――。

それを境に、派遣に前向きでなかった国々が一斉に「計画の見直し」を要求し始め、派遣は先延ばしとされた。

王子が未婚であったことから、国法の定めに従い、王子の母が「国母」に就任。亡き国王の遺志を継ぎ、我が国と派兵に前向きな国々とだけで「第一陣」を編成し、強引にでも派遣する計画を進めていた。

だが、まとまりかけたその日。

『あれ』が現れ、世界のすべてが変わってしまったのだ。

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