第二幕 第六章 その6
病院の駐車場。夕陽が傾き、アスファルトの上に長い影を落としている。
入生田が現場監督と立ち話をしていた。
「――あ、そう。念のためで今日だけ入院?うん、大事ないみたいだし、良かったよ」
「いやー、助かりますよ。役所の若い子達、すぐ救急呼ぼうとするでしょ? ウチの規模だと、労災とかになったら大ごとなんでね」
「まー、その辺は持ちつ持たれつだからねぇ」
「ありがたいですよ。労災なんて使った側も“危機管理がどうの”とか言われて出世出来なくなっちゃうしさ。誰も得しなくて」
入生田は眉をひそめると、眉間をほぐすように指でこすりながら続けた。
「“怪我と弁当は自分持ち”ってやつ、まぁわかるけどねぇ。…でもね、大きな事故の時は迷わず救急呼びなさいよ?行政処分とかはさ、間に入ってあげるから」
「いつもすみませんね。入生田さん居なきゃ、ウチ何度潰れてるか…」
「いやいや。俺なんかね、なんもしてないの。
――そーだよね?」
「はい、もちろんそのように!」
「んじゃ、俺は怪我人のお見舞いして帰るから。またねぇ」
後ろ手にひらひらと手を振りながら、入生田は病院の玄関へと向かう。
自動ドアの前で立ち止まり、ポケットからタバコを取り出しかけて――苦笑し、指先で軽く弾くようにしまった。
「…病院入っちゃうと、しばらく吸えないしなぁ」
ぽつりと呟き、敷地の端の灰皿へ向かう。
一本に火をつけ、長く息を吐いた。
「…やれやれ。毎度のことながら、肝が冷えるねぇ」
ジリジリと燃えるタバコの火は夕陽と重なり、
紫煙はほどけるように陽の中へと溶けていった。




