第二幕 第六章 その3
翌朝。
朱山の麓は、まだ薄い霧に包まれていた。
資料館の前でどちらの車で行くかのひと悶着を済ませた2人は、美音の運転するミニで現場に向かっていた。
現在は林道扱いの砂利道は、進む度に小石を巻き上げる音を響かせる。時おり現れる倒木や落石を躱し目的地付近に停車した。
「やっぱり翔流くんに運転してもらえば良かったかなぁ」
美音は呟きながら現場を眺める。
道路工事の現場には重機の姿もなく、杭と測量線だけが、静かに朝の光を受けている。
「ここ?」
翔流が肩に鞄をかけたまま周囲を見渡す。
「…なるほど、路盤形成する前か」
美音は手帳をめくりながら、図面と照らし合わせる。
「そうね。このラインで道を通す、と。それで、あそこの端のほうが“遺跡の可能性あり”って話みたい」
そう言いながら彼女は指をさす。その指の先には道の端。少し盛り上がった部分があり、草木が生えている。
「それにしても詳しいのね。路盤形成とか。見ただけでわかるの?」
「前にバイトでちょっとね。測量とか。」
「ふぅん…」
美音は昨日の雨で少しばかりぬかるんでいた足元の土を慎重に踏みしめた。
「さて、とりあえず本当に文化財があるのか調べましょう。地図によると――」
こっちみたい。と続けながら翔流を先導しようとするも、彼は無言で前に出て藪を漕ぎ始める。
現場の端から、少し入った草藪の中。
そこに、ひっそりと祠があった。
屋根は朽ちかけ、倒れたそれはご神体であろう丸石に、半ばもたれかかるようにしている。
周囲には赤茶けた土と、古びた注連縄の切れ端。
翔流は足を止め、わずかに息を呑んだ。
「…美音さん、これ、触っちゃダメだぜ?」
「え…?」
翔流は草を払って、石の表面を覗き込む。
やれやれ、と小さく息を吐いた。
「なるほどな。……こんなのが、現場の区画内にもあるかもってことか」
霧の中、古びた祠がゆっくりと姿を現す。
空気の層が変わるように、ひんやりとした風が頬を撫でた。




