第二幕 第六章 その2
郷土資料館の事務室。
夕方の光がカウンター越しに差し込み、棚の資料が赤く縁取られている。
閉館作業をしていた美音の机の上で、携帯が震えた。
着信表示は「入生田主任」。
「もしもし?あぁ、風祭くん?入生田です」
「あ、主任。どうかしました?」
「えっとね、悪いんだけど君さ、明日、工事の立ち会いに行って貰える?」
「工事、ですか?」
「うん。朱山の新設道路。埋蔵文化財にちょっと近くてね。
一応、離れてはいるんだけど、念のため」
美音は手元の手帳を開きながら眉を寄せた。
「ええ…。わかりました。あの、資料館の方は?」
「あー、それは俺が詰めとくから。頼むよ。半日くらいだし」
「そうですか。…わかりました」
「あ、そうそう。あのインターンの彼も連れてって。
外の仕事、経験しといた方がいいでしょ?」
「代山くんを、ですか?」
「うん。現場の空気をね。本当にウチに来るならさ、外の仕事もあるんだから。
ま、天気が荒れなきゃの話だけど」
「…はい。じゃあ、そう伝えておきます」
「助かるよ。えーっと、埋蔵文化財の方はね、
まだ半ば未調査みたいでさ。古墳か墳墓か――そんなもんらしい」
「古墳……」
美音はペン先で予定表に小さく丸をつけた。
「わかりました。明日ですね。はい……はい。失礼します」
通話の向こうで、遠くを電車が走る音がした。
雨上がりの空気を滑るように、その響きだけがやけに鮮やかだった。
通話が切れる。
ディスプレイに残る“入生田主任”の文字を、美音はしばらく見つめていた。
どこか引っかかる。
けれどその違和感の理由は、まだ言葉にならなかった。




