第八章 その2
昨日と同じ電車に揺られて、翔流はまた里山の道を歩いていた。
空気はすっかり秋の色で、朝露に濡れたススキが風に揺れる。
彼の足音が、静かな坂道に吸い込まれていく。
陽菜の家の門の前に立つと、ちょうど扉が開いた。
「おはよう、翔流くん!」
陽菜は昨日と同じように、少し早口で言った。
ただ、その声には昨日の会話の続きのような気配が、まるでなかった。
「おはよう。今日も早いな」
「うん、なんか最近よく眠れてるみたい。朝が気持ちいいんだ」
彼女は笑って見上げた。
昨日と同じ笑顔。けれどどこか、違う。
ふたりはいつものように並んで歩き出す。
山の道を下り、住宅街を抜け、川の上の橋を渡る。
陽菜は立ち止まり、欄干から流れを見下ろした。
「ねえ、翔流くん。この川って、どこに流れてるの?」
「え?」
思わず聞き返す。
昨日、同じ場所で同じ質問をされた気がした。
「昨日も聞いてたよ、それ」
「え、そうだっけ?」陽菜はきょとんと首を傾げた。
「うそ、全然覚えてない」
翔流は笑ってごまかした。
「まぁ、いいけどな。……海に流れてるんだよ」
「へぇ、そうなんだ。なんかロマンチック」
その瞬間、昨日と寸分違わぬ笑顔を見せる。
それが余計に胸に刺さった。
彼女の笑みを横目に見ながら、翔流は思う。
――昨日と、同じだ。
言葉も、仕草も、笑い方まで。
まるで昨日が、もう一度繰り返されているように。
「なあ、陽菜」
「ん?」
「……なんでもない」
彼は言葉を飲み込み、歩き出した。
駅前の喧騒が近づくにつれて、
陽菜の声と笑顔が、少しずつ遠のいていく気がした。
心の奥に、ほんの小さな棘のような違和感を残したまま。




