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朱の山  作者: 晦ツルギ
第一幕

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26/107

第六章その1

朝の空気は冷たく、坂の上に薄い靄が残っていた。

翔流は鞄を片手に、まだ眠たげな表情で校門へ向かっていた。


(罪と咎…)

昨日の授業で聞いた言葉が、どうにも頭から離れない。

意味はわかったつもりなのに、どこかしっくりこない。

罪じゃないのに責めを受ける。そんな理不尽、現実にもご万とある。


「おーい翔流、朝から考え事か?」

後ろから軽い声が飛ぶ。井細田だった。

缶コーヒーを掲げて、眠そうに笑っている。


「よ、おはよ。うーん、まぁ…ちょっと気になることがあってね」

井細田は隣まで寄ると怪訝そうな顔で

「お前が気になること?」


翔流は少し迷ってから口を開く。

「“咎”って言葉、知ってるか?」


「とが? なんだそれ」

「昨日の古文で出てきたんだよ。罪とは違うらしいけど、意味が気になって」


「あぁ、なるほどな。古文で藤原道真の話でもしたんだろ?あの先生福岡出身であの話大好きだから。」

井細田は笑って言った。

「でさ、それよりも…聞いたか? 剣道部で事故あったらしいぜ」


翔流は目を瞬いた。

「事故?なんの?」

「それがさ。昨日の夕方、誰かが倒れて救急車が来たって。うちら進学科の生徒らしいけど、詳しいことは聞いてないや」


「……」

(剣道部で進学科…悠眞と織江先輩も、あっちだよな)


風が坂を吹き抜ける。

落ち葉が二人の足元を転がり、金色の朝日が校舎の壁を照らした。


「ま、部活中の熱中症とかだろ。季節の変わり目だしな」

井細田は軽く言って、缶を傾ける。

「お前も寝不足すんなよ。顔、死んでるぞ」


「…ああ、わりぃ。気をつけるよ。」

翔流は曖昧に笑って答える。

だが心の奥で、“咎”という文字が、昨日よりも重く響いていた。


罪ではないのに責めを受ける。

―でもそれが何だって言うんだ…?


彼の視線の先では、朝の光が道場の屋根にきらめき、翔流は眩しさに目を細めるのだった。


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