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第五章その5
湯気の満ちた浴室で、織江は静かに湯に身を沈めていた。
交流戦を終えたあとの身体は、思っていた以上に重かった。
湯面に浮かぶ黒髪を手で梳くと、指先から力が抜けていく。
いつもは高く結い上げている髪をほどき、こうして自然に垂らすのは、ひとりの時だけだった。
鏡に映る自分の顔が、どこか見慣れない。
稽古の緊張が抜け落ちたせいか、覇気のないその表情は年相応よりも幼く―
むしろ可憐にさえ見えた。
腕を湯の中に沈めると、竹刀の跡がうっすらと赤く浮かんでいる。
昨日の稽古で打ち込まれた箇所だ。
指でなぞると、微かに熱いような、冷たいような。説明のつかない感覚が指先に残った。
湯の表面がふっと波立った。
風はない。音もない。
織江は首を傾げ、掌を見つめる。
その皮膚の上に、小さな泡が一つ、張りついていた。
指で払うと、すぐに弾ける。
ほんの一瞬、痺れるような感覚が走った。
(…昨日から竹刀握りっぱなしだもんね。疲れてるのかな)
苦笑して立ち上がる。
湯気が静かに揺れて、鏡の向こうの自分をぼかしていく。
そこに映るのは、戦うことを知らない少女のような顔だった。
その目に宿る光が、ひどく儚く見えて―
織江はほんの一瞬、胸の奥に言いようのない不安を覚えた。




