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朱の山  作者: 晦ツルギ
第一幕

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24/107

第五章その5

湯気の満ちた浴室で、織江は静かに湯に身を沈めていた。

交流戦を終えたあとの身体は、思っていた以上に重かった。

湯面に浮かぶ黒髪を手で梳くと、指先から力が抜けていく。

いつもは高く結い上げている髪をほどき、こうして自然に垂らすのは、ひとりの時だけだった。

鏡に映る自分の顔が、どこか見慣れない。

稽古の緊張が抜け落ちたせいか、覇気のないその表情は年相応よりも幼く―

むしろ可憐にさえ見えた。


腕を湯の中に沈めると、竹刀の跡がうっすらと赤く浮かんでいる。

昨日の稽古で打ち込まれた箇所だ。

指でなぞると、微かに熱いような、冷たいような。説明のつかない感覚が指先に残った。


湯の表面がふっと波立った。

風はない。音もない。

織江は首を傾げ、掌を見つめる。


その皮膚の上に、小さな泡が一つ、張りついていた。

指で払うと、すぐに弾ける。

ほんの一瞬、痺れるような感覚が走った。


(…昨日から竹刀握りっぱなしだもんね。疲れてるのかな)


苦笑して立ち上がる。

湯気が静かに揺れて、鏡の向こうの自分をぼかしていく。

そこに映るのは、戦うことを知らない少女のような顔だった。

その目に宿る光が、ひどく儚く見えて―

織江はほんの一瞬、胸の奥に言いようのない不安を覚えた。


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