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第四章 その1
新学期が始まり、朱山高校は文化祭を目前に控えてざわめいていた。
教室には寄せ集めた机や椅子が乱雑に並び、壁際には段ボールや木材、刷毛やペンキの缶が積まれている。窓を開け放していてもむっとした夏の熱気が入り込み、絵の具と木材の匂いが混ざり合って鼻をつく。
黒板の前では担当表が貼り出され、生徒たちが群がって名前を確認していた。
陽菜はその紙を見上げ、首をかしげる。
「……あれ、私ひとり?」
割り当てられた仕事は小道具の修繕と衣装の裁縫。二人一組のはずなのに、もう一人の名前には斜線が引かれていた。
教師が「困ったな」と小声でつぶやいた、そのとき。
「俺、やりますよ。手、空いてますし」
すっと手を挙げたのは翔流だった。
「代山? お前、いいのか?」
「はい。放っておけないんで」
笑みを浮かべて答えるその声は迷いがなく、教室の空気を軽くした。
突然の名前に、陽菜はびくりと肩を震わせる。
「え……翔流、くん?」
驚いた顔のまま、小さく「お願いします」と頭を下げる。その仕草は不器用ながらも年相応の可愛らしさをにじませていた。




