第三章 その4
夕暮れの商店街は、提灯の赤い光に包まれ、ひときわ華やいでいた。
浴衣姿の人々が行き交い、金魚すくいや型抜き、屋台の鉄板から立ち上る香ばしい匂いが、夏の空気をさらに濃くしている。
待ち合わせ場所に集まった翔流たちの顔は、いつになく楽しげだった。
「見ろよ翔流、あっちのたこ焼き、めっちゃ並んでるぞ!」
颯太が屋台を指差し、はしゃぐ声を上げる。
「いいにおいする……」と呟いたのは沙耶だ。浴衣の袖で口元を隠し、視線をちらと翔流に向ける。
その隣で紗季は、さりげなく髪を整えながら「ねえ、みんなで一緒に行こうよ」と笑みを見せる。
控えめに後ろを歩く美羽も、「うん……」と小さく頷いた。
射的に金魚すくい、屋台を次々と巡るうち、翔流の周りは絶えず笑い声で満ちていた。
「なあ翔流、次はあっち行こうぜ!」
「待って、私も行く!」
呼びかけが絶え間なく飛び交い、翔流は苦笑しつつも断りきれず、あちこちへ引っ張られていった。
――やがて夜空が暗さを増し、花火が上がる時間が近づく。
「そろそろ高台、行っとかないと見えなくなるぞ」翔流が声をかけると、颯太と沙耶が顔を見合わせた。
二人は歩きながらも恋バナに夢中で、足取りはのんびりしている。
「……でさ、あの二人、絶対付き合ってるって」
「えー、そうかなあ? 岩原は意外と奥手だし」
笑い合う二人に、翔流は肩をすくめた。
「おいおい、花火始まっちまうぞ。恋バナは教室でやれって」
からかうように言ったその瞬間、夜空に大輪が咲いた。
鮮やかな光が宵闇を裂き、わずかに遅れて腹に響く音が届く。
「そらみろ、言ったとおりだ」
翔流は口を尖らせながらも、どこか楽しげに二人を茶化した。
「ねえ……」と、沙耶がふいに囁く。
「あそこ、山車が通るみたい」
提灯に照らされた巨大な山車は、太鼓の音とともに人混みの中へ進んでくる。威勢の良い掛け声とともに担がれたそれは、祭りの中心を彩る存在だった。
山車の上には、小学生くらいだろうか?何人かの子どもが乗り、和太鼓を叩いている。
法被を着、ねじり鉢巻姿の子どもたちは必死に腕を振るい、太鼓の音で夜空を揺らしていた。
「おお、すげえ……迫力あるな」颯太が目を輝かせる。
「近くで見てみたい!」紗季が声を弾ませ、美羽も小さく頷く。
自然と人の波が山車の方へと集まり、押し合うように見物人が増えていった。




