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第三章 その3
人混みから外れ、的屋の男がふらつく足取りで林へ入った。
昼間から酒をあおっていたせいで、頬は赤く、吐息には濁った匂いが混じる。
「ちくしょう……なんで俺ばっか……」
舌のもつれた独り言をこぼし、腰に手をやる。用を足そうとしたその時、法被の袖が何かに引っかかった。
「……あ? なんだこれ」
振り払っても離れない。視線を落とすと、苔むした小さな祠が闇に沈んでいた。
祭りの明かりは届かず、祠の表面は湿った苔で覆われ、まるで不気味に口を開けているように見える。
「くそが!」
酒に酔った勢いのまま、男は苛立ちをぶつけるように祠を蹴りつけた。
その瞬間、背筋を這うような冷たさが襲う。
風ではない。虫でもない。
――何かが、確かにまとわりついた。
「……あ、あぁ……?」
喉の奥から濁った声が漏れる。酔いに濁った瞳がさらに曇り、口の端が不自然に歪んだ。
頭を振りながら、逃げ出そうとする後ろ姿がビクりと震えると、そのまま項垂れ立ち尽くした。
遠く、祭囃子が響く。
だが林の中のその祠の前だけは異様に冷たい気配に満ちていた。




