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朱の山  作者: 晦ツルギ
第二幕

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101/107

幕間 ―旅の朝―

「海外へ?」

風祭美音は目を大きく開くとぱちくりと瞬きを繰り返した。


「そ、とりあえず卒業決まったしね」

代山翔流は手を頭の後ろに組みながら椅子にもたれかかるとクルクルと椅子を回す。


「でもどうして?えっと…あの子のこと、思い出したって言ってたのに」

美音は首を傾げながら、回転が後ろ向きに止まった椅子の背越しに、翔流の後頭部に話しかける


「あぁ。胸を刺して…いや、光の中で消えた陽菜のこと。朱山で調べられるところは大体見せてもらったんだけども…」


「何もわからない。…だから?」


「そうだな。とりあえず龍伝説ってのを追ってみるつもりだよ。まぁ、近い国からにしておきたいね。」

翔流は椅子を回すと向き直りながらそう告げた。


「うぅん…。龍が神聖な存在っていう所を周るつもりなのよね?」

美音は曲げた人差し指を下唇と顎の間につけながら話す。考え事をするときの彼女の癖だった。


翔流は組んでいた手をやや大袈裟に広げながら

「そ。まー、どこまで行けるかは運次第。なんだけども」と、少しおどけて見せる。


「…香織ちゃんも進学決まったし、寂しくなるわね」

美音は僅かに俯きながら声を落とした。


一瞬の沈黙の中、時計の音が響く。


「…あいつ頑張ってたもんな」

「そうね。特待生だもの。凄いわね」

「結局あいつ、咎にも負けないで飼いならしたしな。ホント、大したモンだよ」


「朱の咎は呪いでは、ない。ってこと?」

翔流は軽く頷きながら立ち上がり、片手を肩の辺りで広げる。

「あれは力そのものだしな。意志とか悪意みたいなのは持ってない。ただ、制御が難しいだけの超能力みたいなもんさ」


「…そう。言い切れる根拠を見つけたのね?」

美音は、その確信めいた口調にふと翔流を見上げる。

その視線に翔流は自嘲気味な笑みを浮かべながら

「根拠っていうかね。

…俺も触れてみたんだよ。祠とか石組みとかそういうやつに。んで、なんていうか…。

その、力みたいのを感じたよ。俺には憑かなかったけどな」


「相変わらず動きながら考えるを実践してるのね?でも、それで何かあったらどうするつもりだったの?」


「あー、備えは万端。隣に悠眞置いといたからな」

さも当然、というような軽い口調に、美音はため息を吐きながら続けた。

「悠眞くん怒ってたでしょ?目に浮かぶようね」


「あー、怒ってたねぇ。『ついて来いと言うから来てみたら実験のつもりか?俺が負けるような咎になったらどうする気だった!』ってさ。相変わらず正論過ぎて返す余地もないほどさ。怖い怖い…。」


「正論っていうか…、そうね。悠眞くんが正しいわね。あなた、あれから無茶をし過ぎだもの」


「まぁ、ほら。俺に出来ることはさ、自分でやらねーとな」

「まったく…。そんな危険な子が1人で海外調査?先が思いやられるなぁ」

困ったように笑う美音に翔流はいつもの軽い感じを返す。

「まー、でもさ。とりあえず"行ってきます"は言いに来たんだから。それで勘弁してよ」


「うん、気をつけてね。現地では生水飲んじゃダメよ?」

「あー、海外旅行の基本てやつね。でも、俺多分お腹壊したり出来ないんで」


「…怪我もすぐ治る、病気もしない。知ってるけどね。それでも心配はするものでしょう?」

「おまけにこの赤いとこは染めてもすぐ赤に戻るしな」

翔流は自分の前髪を摘みながらそれをくるっと巻いてから離す。

「…陽菜さんの血が触れたっていう、それ?」

「そんなとこ。んじゃ、行ってくるよ」

彼は軽く手を振りながら、くるりと踵を返し、出口へと向かう。

その翔流の背に向け

「確かにあなたならどこでも上手くやれるんでしょうけど…本当に気をつけてね」


「へいへい。わかってるって」

「いってらっしゃい。うまくいくといいね」

美音は努めて明るい声を出しながら翔流を送り出した。


扉を開け、そこで一度振り向く。

「あぁ。上手くやるさ。待ってろよ、龍たち!」

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