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迫(せまる) 其の5

 ――上位区画 ファウスト家跡地


「しかし、派手に暴れたものだな」


「えぇ。しかも昨日に続いて今日もとは、余程にあなた方が邪魔なようですね」


 流石に上位区画となればエンジェラ達が動くのは早い。戦闘終了と同時に滑り込んできた彼女は俺から事情を聴き、カルセドは気絶する2人の魔術師を手早く縛り上げ、それ以外の近衛達は破壊された家屋の調査やアゾゼオの治療など分担して情報収集を始めた。


「ファウスト家のご令嬢。気持ちは分かるが、今は悲しんでいる時ではない」


 エンジェラは俺の胸から離れないパールを諭した。もっと言ってやってください。


「しかしエンジェラ殿。流石にコレばかりは酷な話だと思うぞ」


「そうです!!ご両親を失ったばかりのパール殿にはこれから成すべきことが山ほどあります。ですから今はそっとしておくべきです!!」


 後ついさっきまで死にかけてたオッサンと近衛ナンバー2はなんでそんなに楽しそうなんだい?なぁんで君達そんな風に力説するの?善意と悪意どっちさ?ホラ、離れようとしたパールがまた俺に引っ付いちゃったでしょ?


「離れよ、ネ?」


 エンジェラもさぁ、なんで殺気籠めてるの?それともアレか、一応まだ婚約者と言う設定が生きてるから?そうだよね?


「エンジェラ様!!」


 のしのしと近づくエンジェラの足が、背後から呼び止める声に止まった。振り向けば、近衛の1人が直立不動で敬礼している。


「どうした?」


「家屋を捜索していたところ地中深くに埋められた金庫を発見しました。鍵は見つかっておりませんが、表面の紋様に魔術的数秘術(ゲマトリア )が使われておりまして、恐らく正しい数字を選択しなければ開かない可能性があります」


「そうか……ご苦労。その金庫、運べるか?」


「ハッ、今お持ちします」


 彼女の指示に近衛兵は焼け焦げた家屋跡地へと消え、程なく両手で運べる程度に小さな金属製の箱を持ってきた。


「これは……」


 やっと俺から離れたパールが地面に置かれた金庫をしげしげと見下ろし、ツンツンと触ったかと思えば、次に持ち上げて底面を確認、最後に表面に刻まれた紋様をジッと眺め始めた。が、やがて表面に刻まれた紋様の幾つかを順番に触り始めた。


「開いた」


 パールの無感情な声が聞こえたと同時、無骨な鉄の箱からガチャンと言う音が鳴った。分かり易い、開錠された音だ。


「見せてもらえるか?」


「はい。どうぞ」


 パールは開け放たれた鉄の箱をまるで献上するかのようにエンジェラへと差し出すと、ソコから小さく光る何かが飛び出してきた。


人工妖精(エアリー)……!?」


「あ、コレ。多分私が仕掛けたヤツだ」


「君が?」


 中から飛び出て来た人工妖精(エアリー)とその出処にエンジェラとカルセドは驚きの声を上げ――


「何とも不思議な話だ。あのまま何事も無ければきっと、恐らく見つけるのに相当手間取っただろうね」


 アゾゼオは何とも運の悪い人類統一連合の行動に苦笑し――


「えぇ。多分、きっとこうなる事を見越していたんだわ。番号も私の名前と誕生日だったし」


「聞こえるか、パール」


 パールは何とも言えない表情で空の金庫を見つめていたが、不意に再生された音声に意識を引き戻されると人工妖精(エアリー)を見つめた。


「こんなことになって済まない。元を辿れば私達が原因なのに、その責任を押し付けることになってしまった」


「だからせめて結婚という形で、一刻も早くリブラかわ離れて欲しかったの。でも、そう言えばアナタは一度決めたら簡単に考えを変えない子だったわね」


「私達は人類統一連合に協力していた。資金と物資の一部をヤツラの窓口会社に渡していたんだ。独立種を排除すれば彼等の権益を手中に収め、そうすれば会社の規模をもっと大きく出来ると、そう考えていた。ヴィルゴの件を知るまでは……」


「彼等が人類も独立種も一緒くたに攻撃したというあの件を聞いて私達も、それ以外のパトロンも考えを改めました……いえ、漸く目が覚めたと言った方が正しいでしょうね。でも、もう遅かった」


「私達貴族と人類統一連合の橋渡しをしたのは魔術学舎の学長クンツァイトだ」


「だけど、それ以上の情報は無いの。指示は全部あの男から手紙と言う形でしか来なくて、だから人類統一連合の中心が誰かは分からない。けど、この都市の相当上部に食い込んでいる事だけは確かよ」


「私達が残せるのはコレだけだ。済まない。欲に目が眩み、人の道を踏み外した愚かな父と母を許してくれとは言わない。だが……」


「「どうか死なないでくれ」」


 人工妖精(エアリー)は2人の遺言を語り終えると大きな欠伸と共にパールの傍をフワフワと周回し、やがてポケットの中にモゾモゾと潜り込むとそれ以上動かなくなった。敵の正体は相変わらず分からない。が、魔術学舎の学長が敵と繋がっているという事実だけでも良しとしよう。後は彼を尋問するなりすれば――


「エンジェラ様!?」


「た、大変です!?」


 直後、大慌てで数名の近衛がエンジェラの元へ駆け寄るとそっと何かを耳打ちした。


「そうか、ご苦労」


 彼女はそう伝えるだけで精一杯と言った様子だった。臍を噛むその表情からは苦悶が滲みだしている。


「まさか……」


「そのまさか、つい先ほどヤツが死んだ。昨日の暗殺者に続き……だがどうやってかまるで見当がつかない。ある瞬間から突然苦しみだし、治癒魔術も全く効果ないままにただ黙って死ぬのを見ているしかなかったそうだ。ラルビカイトは生きているが、遺言から察するに何も知らない可能性が高いだろう」


 何てことだ、誰ともなくそう口ずさむと同時に重苦しい空気が周囲を包んだ。結局犠牲を出すだけで殆ど前進しなかった。だけど、今はこれで良い。とりあえずパールが無事なら今はソレで良い。コレで死なせてしまったら両親に顔向けできないしな。


「えへへッ」


 そのパールは俺を見て何処か照れ臭そうに微笑んだ。両親の死からまだ立ち直れていないだろうに。


「ともかく、一旦戻ろうか」


「ならば暫しの間、ココから離れた方が良かろう。特にパールは今後も狙われる可能性が高いから必須だ。実力を侮る訳ではないが、この場の人間と比較すればどうしても一段劣る」


「ハイ。じゃあ行こっか、ナギ君」


 はい。と言うか俺もついていくの確定なんすね。


「このまま守って。お願い」


 が、しおらしい態度で言われるとどうにもツッコミをいれ辛い。ソレに死なれては寝覚めも悪いし、なら当分このままだろうと諦めた俺は腕を絡めてくるパールに引かれるまま彼女の家を後にした。が――


「あ。そうだ、誕生日っていつ?」


 家を出た直後、パールが思い立ったかのように尋ねてきた。君、いきなり脈絡ない質問するなぁ。だけどまぁ教えても問題――とココでふと疑問に思ったのだが、俺の誕生日ってどうなるんだろう?この星準拠で良いのか?地球の暦とは多分ズレがあるだろうし、そもそも地球での誕生日教えても何も出来ない様な気もするんだけど――どうしよう。


(ならば教えよう)


 まーた突然出て来たよ、肝心な時に出てこない神様。


(HAHAHA、随分と辛辣だね。しかし今はソレよりも、この星の暦と地球はほぼ同じ。だから地球の誕生日を教えても構わないよ)


 成程。じゃあ6月15日で問題無いわけだ。


(あぁ。それではまた。いやぁ、恋のキューピッド役も大変だよ)


 お前は先ず俺の危機を優先して助けてよ。後、流れ矢があちこちに当たって偉いことになってるんだけど――ってもう聞いてないよアイツ。まぁその話は後で良い。隣から期待一杯の眼差しを送るパールに誕生日を教えると――


「嘘!?相性、最高じゃん!!」


 彼女は今日一番に驚いた、みたいな表情と共にとんでもないことを口走った。相性、良いんですか?そうですか。と、俺が複雑な気持ちでいるその横ではアゾゼオとカルセドが大いに喜んでいる。なんでやねん。


「は?私なんか運命の相手なんですけど!!」


 背後から聞こえた声に振り向けば、ふくれっ面のエンジェラがなぜか対抗心を剥き出しにしていた。いやスイマセン、その話は初耳なんですけど。え?ムッキムキの褐色筋肉質な変態マッチョマン占い師が言っていた?ほぉ、自称地球の神様(あのおっさん)か。


 ※※※


 ――リブラ帝国上位区画内 要人宿泊施設内


 大事を取って今のメンバー全員で一旦リブラを離れ、アゾゼオが滞在しているという湖畔の街に待機するという提案を全員に伝えた。敵がどこから来るか分からない以上、当然ながら誰も反対はしない。が……


「へぇ。パールちゃんと相性いいんだぁ?」


「わ、私とも相性バッチリです。よね?よね?」


 まーたルチルとアメジストから責められてるよ俺。


「じゃあ、相性確かめましょ、ネ?ネ?」


「こーれは詳しく話を聞かないと駄目だよねぇ。なんであの子、ナギ君を見ると頬を赤らめてるのかなぁ?」


 いや、不可抗力ですって。助けてアゾゼオさん……駄目だアイツ俺の苦境を肴にしてやがる。隣のジルコンもネ?面白いでしょ?って顔するな。

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