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迫(せまる) 其の2

「全員ココに居ると踏んだのだが、入っても良いかね?」


 低く重い声。ゆっくりと扉が開くに連れ、見慣れた顔が姿を現す。ジルコン、アゾゼオ――その隣にもう1人。が、見覚えがない。誰だ?着ている服とか雰囲気から上流階級の偉い人っぽい雰囲気は出しているが、それ以上は分からない上に、目を合わせらどころか喋ろうとさえしない。ただ蒼白のまま、震える様に立ち尽くしている。


「叔母様!!」


 パールの驚く声が背後から突き抜けた。


「オバ?」


「ウチの直ぐ近くに住んでるの、でもどうして叔母様が?」


 動揺するパールが一目散に叔母と呼んだ妙齢の女性の元に駆け寄った。知り合いの顔に安堵したのか、その人は糸が切れた人形の様に膝から崩れ落ちた。目に浮かんだ涙が頬を伝い、絨毯にシミを作る。よほどの何かがなければこんな反応をしない。場が一気に緊迫した。


「先ずは部屋に入っても良いかな?ご婦人はベッドで休んでもらった方が良いだろう」


 ジルコンの提案にパールは叔母の肩を支えてベッドまで連れ添い、寝かせ、アゾゼオが持ってきた飲み物を傍のテーブルに置いた。


「先に結論から言っておいた方が良いだろう。パール君。君には言い辛い話だが……」


 何かを伝えようと口を開いたジルコン。が、言い淀む。平時であろうが酒を飲んだくれていようが隠し切れない強さが滲む目には、強い同情と悲壮の色が浮かんでいる。言わずとも、全員が察した。


「何となく、あの……」


「先程、君のご両親と使用人が遺体で見つかった。プロの暗殺者の仕業だ」


「そう、ですか」


 告げられた真実にパールは辛うじて一言だけ反応すると隣に立つ俺にしだれ掛かって来た。顔を見た。血の気が引いており、叔母と同じく目元には涙が滲んでいる。分かっていたとは言え、面と向かって突きつけられればやはり耐えられなかったようだ。


 彼女はそのまま俺の胸元に顔をうずめ、暫く動かなくなった。流石のこの状況にルチルもアメジストも何も言えず、ただ黙ってその様子を見守る。


「ところで、どうしてプロだと断定出来たんです?」


 重苦しい雰囲気に耐えかねたブルーが会話を強引に押し進めた。この人なら傷口とか手口から特定しそうなものだけど、でも確かに断定するのはちょっと不思議だと思っていた。


「あぁ、捕まえたからな」


「えッ?つ、捕まえた?」


 この人、しゃあしゃあと凄いこと言うな。グランディやブルー、オブシディアンも驚き唖然とした。


「あの程度ならば雑作も無い。しかし君達、運が良かったね」


「運って、まさか……」


「昨日、我々の到着がもう少し遅ければ君達の誰か、あるいは総裁以外の全員が命を落としていた可能性もあった。如何に総裁が強かろうとも、君達と言う荷物全員を無傷で守り通すのは困難を極めただろう」


「狙いは恐らくファウスト家とその関係者。理由は真相に近づいた、あるいは近づかれる可能性があるからとみていい」


 ジルコンがベッドに横たわるパールの叔母へと視線を移した。自然と全員の視線が同じ場所へと向かう。この人が、いやこの人も真相に近づいてしまったのか。


「元々は彼女の方から我々に保護を求めてきたのだ。パール殿のご両親の遺体が見つかってから程なくだったところから、何か重要な話を聞いてしまったか教えられた可能性が高い。当人達が揃って遺体となった事で次は自分の番だと怖くなった、そんなところだろう」


「で、我々が保護した矢先に襲撃されたという訳だ。ご婦人は良い勘をしているよ。もう少し遅ければ凶刃に掛かっていた」


 アゾゼオは一連の出来事をそう締めくくった。


「でも、コレで事態は好転しますよね?暗殺者を捉えたというならばそっちからも情報を引き出せるでしょうし」


「無理だな。暗殺者に最も必要な素養から判断すれば、ね」


 襲撃犯が捕まったという事実に安堵したのか、それとも真相に近づけると考えたのか。話を聞いたブルーは若干興奮気味だったが、直後にアゾゼオに冷や水を浴びせた。え、と驚愕するブルー。


「素養?え、あ……そっか」


 首を横に振るアゾゼオにブルーは察した。他の面々も僅か遅れて気付いた。多分、自害したんだろう。言わずとも空気で察したアゾゼオが「当たり」と、苦悶の内を吐き出した。


「ま……暗殺なんて絶対に周囲にバレたくない仕事を頼むのに、口の軽いヤツに依頼する訳ないですよね」

「クアァ」


「もう死んでる、か」


 アゾゼオの問答に納得したブルーとルチルがため息を重ねた。


「だが、無駄を承知で君に診て貰いたい。現状、君の治療技術は最高レベルだ。無理やりにでも蘇生させて、情報を引き出せるかもしれない」


「分かった。だけどその前にご婦人が一体何を知っているのか聞いておきたい」


 ルチルの言葉に再び全員がベッドに横たわるパールの叔母を見つめた。何時の間にか意識を取り戻した彼女は全員の視線に、震える身体を抑えながら、少しずつ語りだす。


「は、はい。あの、……実は、兄から、兄が教えてくれたんです。近々、リブラで大きな騒動が起きるって。だから逃げるなら今の内だって」


「騒動?」


「はい。でも、あの……具体的に何が起こるかまでは教えてくれなかったんです。曖昧に、濁して。だけど……今にして思えば、遠からず、確実に殺されてしまうって分かっていたんじゃないかと……そう思えたんです」


 そこまでを語り合えた叔母さんは、以後固く口を閉ざしてしまった。


「何ともふわっとしているな」


「あぁ。しかしヴィルゴの件を考えれば、下手すればこの大都市リブラ全域を巻き込む可能性もある」


 ジルコンの推測に誰も、何も言えなかった。何かが起こる。それまで曖昧だった予感がはっきりとした輪郭を取る。朧気ではない、はっきりとした悪意を纏った敵の姿が見える。

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