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探(さがす) 其の2

 ――ユースティア橋前広場


「いやぁ、見つかって良かったよ。あの時は済まなかったと思っていてね。だから詫びがてら食事でも奢ろうと思ったのだけど、どうかな?」


 気さくに声を掛けてきたのはチョイ悪親父風の身形をしたアゾゼオだった。俺との戦いで受けた怪我など些事とばかりに屈託なく笑いながら食事でも、と行きつけの店に案内する足取りは軽い。


 こじんまりとした店の中からからは何とも言えない香りと肉が焼ける音が鼻と耳から空腹感を刺激する。


「大丈夫かい?」


「あぁ、身体かね?これでも頑丈に出来て……」


「そうじゃなくて」


 店の軒先にある幾つかの席の1つに腰を下ろすと早速ルチルがアゾゼオの様子を尋ねたが、どうやら体調の方ではなかったようだ。あぁ、と俺も心配の種がもう1つあるのを思い出した。ナントカと言うピスケスの大貴族だったか。アイツ、性格が恐ろしく捻くれてるからただでは済まないだろう。


「あぁ、心配ないよ。見事、仕事はクビだ。ワハハハハッ」


「そりゃあ良かった」

「そりゃあ良かった」


 俺達は仲良く喜んだ。あの時とは違うラフな格好になっている訳だ。クビという一部分だけを切り取れば悲報だけど、あの性格の腐った貴族と関わらないで済む以上の幸運は無い。


「で、今は何を?」


「うむ。一度故郷に戻ろうかと思っていたのだが、ふと君達の事が気になってね。ジルコンから無理やり君達の事を聞きだして、こうして探し回っていたんだよ。で、聞けばどうやら結構な面倒ごとに巻き込まれているそうじゃないか。だから協力できることは無いかと探していたんだよ」


「ならジェットの事、教えて欲しい。確か師匠と言っていたから相応に付き合いはあると思うんだけど、彼の人となりとかを分かる範囲で教えて欲しいんだ」


 ルチルが俺達の置かれた状況を伏せつつ、ジェットの情報を求めた。独立種であるこの人が人類統一連合と繋がっている可能性は低いけど、ジェットと師弟関係の彼を経由して本人の耳に入る可能性を考慮したんだろう。


「彼か?しかし君ならば皇帝陛下からお伺いする事も……いや待て、なるほど。君達、想像以上に面倒な頼みごとを受けているようだね?」


 対面に座るアゾゼオは質問に思考を巡らせ、だが直ぐに何かを察したように俺達を見つめ返した。たったこれだけのやり取りで俺達の状況を把握したみたいだ。凄い考察力、いや野生の勘の方が近いかも知れない。


「まぁ、それなりに修羅場を潜っているのもあるが……実はジルコンからほんの少しだけ事情を聞いている。人類統一連合絡みだろう?我々も奴等には手酷い目に合っている」


 そんなに?と……改めて考えてみれば、そう言えば俺その被害を目の当たりにした事が無かったな。


「露見するケースが少ないのだよ。弱き者は何時の世も辛酸(しんさん)()めるものだが、人類統一連合(ヤツラ)の活発化により独立種の立場は余計に悪化している。ワシとて己の力を誇示せねば明日どうなるか分からない位だから、女子供やハーフがどうなるかは言わずもがなだ。だから基本的に集落を作ってソコから出ない。そんな事情だから尚のこと被害の全容が伝わらないのだよ」


「だからアタシが折を見て陛下に報告してるんだけど、差別的な感情が根強くて遅々として進んでいないのが現状だ」


「そんな感情を人類統一連合(ヤツラ)は焚きつけ、利用している。過大な税や街道の使用制限に始まり冤罪から不当な拘束、果ては最悪は殺人まで実害を伴う差別は見えない場所で今も続いている。今この瞬間も確実に、な」


 神妙な語り口に俺は何も言えなかった。隣の大陸ではそんな話を全く聞かなかったし、ハイペリオンに至っては殆ど俺に好意的な人達ばかりだったから尚の事。


「暗い話になってしまったね。彼の性格だが、昨日の件で知った通りだよ。正義感が強く曲がった事が嫌い。少しばかり直情径行で思い立ったらすぐ行動、思い込みが激しいが、間違いだと分かれば素直に謝罪する実直さも持ち合わせている。それ以外は他の兄姉(きょうだい)と同じ、実直真面目で正義感も強いから結構な数の信奉者がいるようだ。影響力自体はまだまだ及ばないけどね」


 彼の説明に俺もルチルは黙って聞き続けた。俺の印象もアゾゼオの言葉と評価ほぼそのままだ。素直で実直、それは間違いないだろう。


「他に変わったところとかある?」


「他に、かね?強いてあげれば部下というか、仲間が出来たくらいかな。ホラ、あの時に彼の傍にいただろう?ワシが彼に指導したのは入学前までの3年ほどだったが、それまでの彼は特に消極的な性格のせいでとにかく周囲に人が居なかったんだよ。信じられんだろうけどな。ワシとしても心許せる友人が出来たのかと内心で喜んだものだ」


「そっか。特にめぼしい情報はない……か」


 ルチルはハァ、とため息を漏らした。机に置かれた食事から立ち昇る湯気がルチルの前で踊った。


 状況は少しずつ前進しているが、これといった成果はない。特に期限が指定されている訳ではないが、人類統一連合の滅茶苦茶なやり方を見れば、時間を与えれば被害が大きくなるのは目に見えている。

 

 一通り話終えたアゾゼオは何かあればリブラ領内の湖畔の街にいると言い残し、3人分の代金を払うと颯爽と立ち去った。


 去り行く彼の背中を俺達は黙って見送ったが、その背中は何処か辛そうに見えた。人類統一連合による被害の話を聞いてしまったからだろうか。いや――今まで知らなかった、知ることのなかった、知ろうとしなかった事への不快感、怒りがそう思わせている。


「止めるよ、絶対」


 自然と、そんな台詞が口を突いて出ていた。


「そっか。じゃあ次は、あの暴漢のところにでも行ってみるか」


 俺の言葉を聞いたルチルはいつも通りか、あるいはそれ以上の笑みを浮かべていた。


 ※※※


 ――リブラ領内留置所


「いやぁ。参りましたよ」


 出会い頭から不満を隠そうともしないのはリブラの中央で散々に暴れまわった暴漢を収監する牢獄の看守達。


「やっぱり言葉が分からないのか?」


「えぇ。もうサッパリ。上司もどうすりゃいいのって感じで、今しがた中央までお伺いに行っちゃいまして」


 そうか、ルチルは一言呟くと暫く黙り込んだ。


「で、こんなところに何の御用で?」


「いや。話を聞こうかと思ったんだが、そんな調子じゃあ無理かと思ってね。だけど一応様子は見ておきたい」


「え?いや、しかしその……」


「エンジェラ=リブラからの勅命だ。なんなら確認を取って貰っても構わない」


「わ、分かりました。少々お待ちを」


 看守は勅令と言う言葉にギョッとしながらも人工妖精(エアリー)を取り出した。


「えぇ……はい……え!?は、ハイ。失礼いたしました!!」


 分かりやすい。声は聞こえなくとも反応から内容を推測するのは簡単だ。相変わらず味方にすると酷く頼りがいがある人だ。


「エンジェラ様からの許可があるとは知らず、大変失礼いたしました。ご自由に取り調べ下さい!!」


「ありがとう。それじゃあ、私達が取り調べ終わるまでの人払いもついでに頼めるかい?あっちこっちから横槍入ると時間が無駄になるんでね」


「分かりました。お任せください」


 ルチルの指示に看守は敬礼後、一目散に部屋を出ていった。


 ※※※


「さて、じゃあ何から聞こうかね?」


 収監された暴漢は酷く落ち着いている。身体は微かに動いているが、それ以上の何かをする気配は微塵も感じられない。薬か魔法か、それとも単に疲弊しているだけか。


「起きてるか?」


 俺が声を掛けると、1人の男が反応した。


「お、おい、おい……」


 その反応だけで十分だった。言葉が通じる――つまり、この身体に入っている魂は俺と同じ日本人だ。運が良い。何せ英語以外さっぱりわからないし、その英語も簡単な会話しか分からなかったし。


「話せるか?」


「あ……あ、あぁぁぁああ、ながながナガ長いあいあいだ」


 運が悪い。言葉は通じたが、会話が成立しない。暫くもすれば呻き声に似た何かを発しながら、部屋の隅に逃げるとガタガタと震え出してしまった。


「あの時の化け物はもういない。だから落ち着いて」


 辛うじて頭の隅にこびりつく記憶から落ち着けそうな言葉を選んでみたが、耳に入っていないらしい。


「やっぱ駄目か。多分、アンタが見たって言う化け物と死んだって現実に魂が壊されてる。ここまで記憶に残ってるだけでも奇跡に近いってのに」


 どうやら俺ではこれ以上の力になれそうにないらしい。しかも残念なことに最初に話しかけた男以外は恐らく日本人ではなく、何を言っているのか全く分からない。せめて携帯の電源が入れば翻訳アプリを通して会話出来たのだけど、随分と前にバッテリー切れで使い物にならくなってしまった。


「ここここの世界なら、あ、あ安全なのに……」


「やっぱり駄目だな。言葉は分かるけど要領を得ない」


「仕方ないさ。しかもココに居るのは全員死者。死者の魂は余ほどに強い意志とか思念に縛られていないと劣化しちまうからな」


「でも、それなら何を目的に?」


「幾らでもあるだろう。例えばフォシルの時みたいに道具として、後は地球の情報を知りたかったとか?」


「でもこのありさまじゃあ無理だよね?」


「あぁ、だから……」


「ち、ちちちちちち違うンダっ。皆、皆また殺されるッ。もういやだァ!!」


 何か言おうとしたルチル。だが、被せる様に部屋の隅で震えていた暴漢が絶叫した。最後まで要領を得なかった。何も情報を得られなかった俺達は、ならばせめて彼等の処遇だけでもどうにか出来ないかと無理を承知でエンジェラに依頼すると、この場を後にした。


 何かが起きようとしている。漠然と、朧げだが、とても(おぞ)ましい何かが輪郭を取っていくような感覚を肌で感じる。

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