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探(さがす) 其の1

 ――上位区画内ホテル一室


 アレから5日。何の因果かごく自然な形でジェットと知り合いになれた。が、幸運はココまで。3人と接触したはいいものの、それ以上の進展はなかった。


 そこそこに交流をしてみたが、3人の人となりに怪しい部分が全く見られなかった。勿論、裏では何を考えているか分からないのだが。


「ならアッチに戻って情報集めてきますよ」


 そんな現状に業を煮やしたパールが情報収集を申し出た。彼女曰く、ただ時間を無為に使う位ならばダメ元で情報収集してみてもいいんじゃないか、だそうだ。確かにその通り。現状で決め手に欠けるならば、手掛かりを探すのが一番有用な行動だ。そんな彼女の表情は快活で明るく、肩の荷が下りて絶好調と言わんばかりだ。


「良いのかい?会い辛いんじゃない?」


「勿論。だけど伊佐凪竜一には恩があるし、だから親にグチグチ文句言われる位なら喜んで我慢するって」


 心配するグランディを他所に彼女がやる気満々なのは、めでたく婚約が破談となったからだ。が、俺の尽力が破談の後押しをした訳ではない。


 直接の原因は彼女の婚約者フェルスパスが皇帝陛下の息子の1人、ジェットに舐めた口を利いてしまったから。当人も皇帝陛下自身も本心から気に掛けてはいないらしいが、ヤツの父親としてはそうはいかないようだ。


 つまり、不肖の息子が帝国でこれ以上の問題を起こすのではないかという恐怖に駆られたエイシス家側が破談の申し出た為、パールの両親は渋々承諾した事で晴れてフリーとなった。


 コレがあの騒動から3日ほど経った時の話。相応に苦労したが直接何かした訳じゃないから恩義を感じる必要は無いと伝えたのだが、それでも彼女の意志は揺るがなかった。だから「ありがとう」と、素直な感謝が口を()くのは当然でして。


「えへへ。何なら第一夫人にする?」


 それはNo thank you。恩義は感じなくていいけど、巻き込んだ事は少し反省しなさい。


「即答しないでよ!!」


 暴走しがちなのは肩の荷が下りた影響か。何にせよ棘のある物言いが鳴りを潜めたのは良い傾向なんだけども、あの一件以降の彼女は大体こんな感じで妙に馴れ馴れしくなった。恩人に失礼な態度はとれないという至極真っ当な判断なら僕ぁ文句言いませんけどね、大人だからね。


「若い子ッ、若い子がいいのね?」


「なーんで嬉しそうかなぁ、なーぎーくぅん?」


 嘘です、後ろのお姉さま方が怖いんで余計な事は言いたくないんですよね。


「ま、まぁともかく。あ、そうだ。二手に分かれましょうか?パールの補佐には俺が付きますからソッチは下位区画で情報収集ってのはどうです?上位区画(コッチ)は顔の広いファウスト家のご令嬢がいますし、逆に俺やパール以外の誰かでは目について仕方が無いですからうってつけでしょう?」


「め、名案ですね。じゃ、じゃあ俺も上位区画に」


 嫉妬に塗れるエルフに戦々恐々とするグランディが恐る恐る提案するとオブシディアンが賛同した。


「そうですね。では下位区画も二手に分かれましょう」


 更にブルーが下位区画の調査を手分けするよう提案を重ねた。


「根拠は?」


「現時点で怪しいのは2つ。農耕ギルドと魔術学舎。クエスト内容を事前に知らせなかった件からするに、おそらく一枚噛んでいる筈です。クエスト関係の最終的な決裁は学長なので、先ずはそこから探りたいんですけど、それで……出来れば総裁にお手伝い願いたいのですが」


「私ですか?」


「現状、学長や教職員と事を構えるとなると総裁しか頼りになりません。俺ではどこまで立ち向かえるか不明ですので」


「えぇ……でもぉ」


 至極真っ当な理由からの提案に困惑するアメジストが俺をチラチラと見つめる。何をそんなに、と煮え切らない態度を見かねたブルーが縋るような視線で俺を見た。よし来た。


「手伝ってあげてくれないか。俺を助けると思って」


「はぁい」


 うん。分かってた。こういえば即答するってわかってたけど、でも俺ちょっと悲しいよ。もう少し大局見よ?それにほら見て、ブルー君も凹んでるよ?苦虫を嚙み潰したよう顔しながら地面見つめてるよ彼。


「で、では俺と総裁は魔術学舎に、伊佐凪竜一とルチル殿は農耕ギルドへ向かってください。調査名目と言えば普通は怪しまれるでしょうけど、アナタならば手違いで魔獣討伐に送り込んでしまったという負い目から素直に通されるでしょう。しかも駄目押しで皇帝陛下のお知り合いのルチル殿がついているならばまず反論などされません」


「あいよ。じゃあ行くぞナギ」


 と、いう訳で上位区画と下位区画に分かれて情報収集を行う事になった。一足早く出発したパール達の足取りはとても軽く、仲良さそうに談笑しながら向かうその様子を見れば一抹の不安も感じていない。


 が、割り振りの関係で俺もアメジストもルチルも傍にいない。何もなければ良いが、もし――と最悪を想定した瞬間、不意に背筋を冷たい何かが伝った。大丈夫だと、そう信じよう。俺は楽しそうに目的地へと向かう一行の無事を祈りながらユースティア橋を目指した。


 ※※※


 ――下位区画 農耕ギルド内


 こじんまりとしながらも整理が行き届いており、各種資料が棚に綺麗に収められた部屋の中に俺とルチル、そして農耕ギルドの副代表が顔を揃えている。話の内容は勿論、数日前の依頼取り違えの件。


「ですから、その件は調査機関の方にもお話した通りで……」


「その上で、だよ。重ね重ね同じ内容を答えるのは時間の無駄だという事は承知しているんだけどね。しかし今回の件、特にスピネルが気に掛けているんだよね」


「す、スピネル様が、ですか?」


「当然でしょ?彼が管轄する武術学園の生徒を危険に晒したんだ。しかもクエスト自身も彼が見繕ったものだから尚の事、正直怒り心頭でさ。これ、内緒だよ?」


「ひ……わ、分かりました。その代わり……お願いですから私が言ったという事はどうかご内密に」


 嘘ではない。が、真実でもない。確かに怒ってはいたし調査もすると言っていたが。しかし、例え真実であっても話し方ひとつで印象がこうも変るものかと俺は驚いた。俺一人では絶対にこうも上手くいかなかっただろう。


「つまり、何か言っていない事があるんだ?」


 ルチルの追及に副代表はしどろもどろにはいと答えた。完全に憔悴しきっているが、それはつまり相当な内容を隠しているという事だ。怪しいとは思っていたが、まさかビンゴだとは思いもしないよ。

 

「実は、あの依頼……全部代表が1人で仕切っていたんです。普通ならば事務に任せるんですけど、でもあれだけは何故か……」


「ふぅん。で、その代表は?」


「それが……その依頼取り違えの日辺りから連絡が全く取れなくて。家に行っても家族の方は仕事に出たと言うんですけど仕事には来ていないし、行きつけの酒場にも娼館にもいないんです」


 行方不明?それって大問題じゃないのか?なんでこんな大事なことを黙ってるんだ。


「えぇ。問題だと思ってます。でも……」


「ここ最近発生している誘拐事件に巻き込まれたのか?」


「わ、分かりません」


 副代表は力なく呟くと俯いてしまった。この様子ではこれ以上の話は聞けそうにないな。


「なんてこった。間が悪すぎるな」


(良いかね?)


 あれ、久しぶり。


(その誘拐事件。本当に偶然かな、と思ってね?もしかしたら誘拐事件はダミーで、本当の目的は協力者を人知れず始末する為、と言う可能性もある。勿論、口封じついでに地球人の魂を入れる器を作る目的もあるかも知れないが)


 まさか、と疑う気にはなれなかった。ヴィルゴでの滅茶苦茶なやり方を見ていれば、協力者の口封じついでに実験材料に使うなんて非道な行いも十二分に有り得る。


「誘拐事件、もしかしたら別の意図があるかも知れないって」


 神から聞いた話を伝えるとルチルと副代表は素っ頓狂な声を上げた。


「本当はヤツラの協力者を始末するという目的のカモフラージュかも知れない」


「お前……時々鋭い事言うなぁ」


「へ?は?ヤツラ?」


 ルチルに珍しく褒められたけど、これ俺の考えじゃないんだよね。一方、副代表は理解不能と言った様子。演技かも知れないけど、でもこの反応を見れば何も知らない可能性の方が高い。


「いや、コッチの話だ。じゃ、何かあったらまた来るよ」


 ルチルは強引に話を切り上げ、ギルドを後にした。帰り際、捕まりたくなければ黙っておいた方が良いと副代表に言い含めて。


「結構ガバガバだな」


 足早に店を出たルチルが現状を評した。


「いや、いい傾向なんだ。多分、ヴィルゴでアタシ達が勝ったのは想定外だったんだろう。だから本来ならば真相に辿り着けるヤツなんていない、そう言う想定だった。だけど想定外の敗北の影響がデカくて、修正が上手くいっていない」


 彼女の説明にあぁ、と納得した。確かに敵の計画がスムーズに進んでいれば俺達がこんな場所に居ない訳で、そうすれば誘拐事件も単純な行方不明として処理されてしまった可能性が高い。


「結果はどうあれ、アンタは結構な数の人間を救ってる。もっと誇っていいぞ?」


 ルチルはそう言うと俺の傍に近寄り――


「だからコイツはアタシからの礼だ」


 俺の頭に手を回し、少しだけ背伸びをした。吐息が掛かる位の距離からジッと俺を見つめるのは同じエルフから美しいと評される美貌。


「だけど、無理はするなよ。本当に」


 そう囁きながらその顔をドンドンと近づけ、やがて唇を重ねた。何というか、何時もの彼女らしくない仕草に酷くドキッとさせられた。


 だけど、名残惜しそうに離した顔に何時もの様な快活さは感じず――何というかとても悲しげだった。言葉通り無理をして欲しくないという本音はあるのだろうけど、この状況にはまだ俺が必要で、それは今後も無茶をしなければならないという意味で――せめぎ合う感情の整理が出来ない、そんな気がした。


「おお!!ソコにいるのは昨日の……」


 直後、俺達は誰かから声を掛けられた。この声は確か――?

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