リブラ居住区域 ~ 不穏な予兆
――リブラ帝国上位区画内 要人宿泊施設内
「まぁ、何処か不思議な感じはしてたんですけど」
「いやぁ、でも信じろって無理だわ。どう考えたって私達と同じじゃん?まーだ独立種の方ですってのが納得いくよ」
「あぁ、ソレで納得がいきましたよ」
「クェッ!!」
トリオが一様に驚く中、一番早く落ち着きを取り戻したブルーが納得した、と心情を吐き出した。冷静沈着な口調からするに嘘じゃなさそうだが、随分と早いな彼。
「まさか、あの暴徒が地球って星から転移してきたヤツだって言いたいワケ?」
「いいえ。ルチル殿が語った地球とかいう惑星の神の過保護ぶりから考えれば、伊佐凪竜一以外の生存者が居るとは考えられません」
「過保護かなぁ?」
「十分でしょう。恐らくですが、伊佐凪竜一の運命の相手は4姉妹以外にもいたんじゃないかと。あるいはこの星以外の何処かにも。ですがエルフの4姉妹を選んだという事は……」
「私が可愛かったからですね?」
「違ッが……いや失礼、とは言え半分は間違っていません」
ブルーの言葉にアメジストは上機嫌だ。完全にだらしなく顔を崩しながらエヘエヘニヤニヤと笑っているが、ルチルがその緩み切った頬を軽く抓った。いひゃいへふという情けない声に緊迫した空気が押し流されそうになるが、何とか踏ん張ったブルーが再び口を開いた。
「エルフは抜きんでた美貌が特徴ですが、でももう1つ抜きんでた特徴がありますよね?」
「「寿命?」」
オブシディアンとグランディの言葉が重なった。
「えぇ。地球と言う惑星の神は地球人類の復興を成し遂げたかった。そう考えるならば寿命の長いエルフは出産という一点において人類より圧倒的に有利です。しかも4姉妹全員が伊佐凪竜一の番となれば尚の事」
「それが過保護だって?」
「彼の異能と合わせれば破格の待遇ですよ?その異能と4姉妹の存在は世界のパワーバランスなんて完全に崩壊させてます。下手をすれば数人でリブラと拮抗出来るのでは?なのに、そんな状況が許容されている」
「まぁ、確かにそうよね。で、その過保護と言葉が通じたのとどう繋がるの?」
パールの追及にブルーは改めて全員を見た。
「地球の神は過保護であり、その理由は伊佐凪竜一以外の地球人は滅びているからという点に疑いようは無い。この前提に立った結論はこうです。暴漢の正体はリブラの人間、但し魂は違う」
「「「は?」」」
「つまり、召喚の応用です。恐らく地球には滅ぼされたナニカへの憎悪、恐怖に呪縛され、行き場を無くした魂が溢れている。そう予測した人類統一連合は地球人の魂だけを召喚、リブラの人間の身体の中に強制的に入れた」
「はぁ?」
「いやいやいや」
「出来るんですか?」
全員が彼の語る結論に驚いた。驚いていないのは当人とルチル。彼女も同じことを考えていたようだ。
「ちょっとさ、流石に飛躍し過ぎてない?」
「ルチル殿から聞いたカスター大陸での件を総合すればコレが一番確実だ」
「カスター大陸って、ゴーレムが暴れたってアレ?」
「そう。あの戦いで人類統一連合が呼び出したゴーストナイトは恐らく地球人の魂が使われていた筈です」
「でもさ、なんでそんな情報……って、あ!?」
全員が何かに気づき、俺を見た。何となく言いたい事は予想がつく。俺の記憶を読み取った人類統一連合が、地球の存在と現状を知ったんだろう。
「間違いないでしょう。そう考えなければ辻褄が合わない。だけど問題はまだあります」
「「「まだあるの!?」」」
「つまりぃ。破棄された預言書がまだ残ってる可能性が高いって事ですよねぇ?」
「「「フォオッ!!」」」
「クエッ!!」
3人は仲良く限界を超えようとしたが、何とか抑え込んだ。だけど流石にもうこれ以上は無理と言う位に混乱している。今現在もリブラ武術学園の生徒と言う立場でこの情報は流石に重すぎるか。
「は、はい。総裁のおっしゃる通りです。預言者より与えられた預言書は4冊全てが焼き払われたと歴史に記されています。が、幻の5冊目があったか、あるいは誰かが復元したか、何れかでなければ異世界からの召喚という高度な魔術は使用できません。恐らく、現時点でソレを使えるとなると……」
「私とぉ……」
「他の姉妹も全員使える。ただ、魔力の問題はともかく地球の位置とか諸々の条件が揃ってないから今すぐやってみろと言われても不可能だ」
「ですよねぇ」
「そんな高度な技術なんだ?」
俺もトリオも驚きっぱなしだ。
「えぇ。具体的には召喚対象を正確にサーチする魔術に大量の魔力と相応の時間を消費します。通常レベルの転移ですらごく一部しか使用できないと言えばその難易度が伝わるでしょう?ただ、今回の場合に限れば魂だけなのでサーチさえクリアできれば後の難易度はそこまで高くありません。転移は移動させる物体の質量に応じて消費魔力が増加するものですから、質量の無い魂を転移させるコストはほぼゼロです」
「だが、何れにせよ召喚を使える誰かが協力しているのは確かだ」
「少なくともヴィルゴで暴れたフォシルと同等かそれ以上。ですが……」
半端なところで口を閉ざしたブルー。彼の顔を見た。混乱と疑問がない交ぜになった複雑な表情をしていた。ルチルと(珍しく)アメジストも同じ表情を浮かべている。普段ちゃらんぽらんなアメジストまで真面目になるという事は、相当に異常な何かがあるのだろう。
「問題はそれ程の技術を誰から学んだのか、と言う点です。恐らくヴィルゴでも問題になったのでは?」
「ちょい待ちブルー君。本人に聞けば解決するだろ?」
「そ、そうよ……アレ?もしかして……」
「し、死んだんですか?」
辛うじて話についていくだけで精一杯のトリオが混乱する頭で質問を重ねたが、ルチルの反応に言葉を失った。彼女の雰囲気から答えを察したようだ。
「あぁ。より正確には行方不明だ。仲間に助けられたのか、口封じされたのかすら不明。ある日突然牢獄から完全に姿を消しちまった」
「色々な噂が流れましたよねぇ。例えば死凶とか……」
その言葉にトリオとブルーが殊更に大きく驚いた。全員が据わっていた椅子を大きく揺らすと、アメジストへと視線を映した。でも死凶ってナンダ?四凶とは違うのか?
「そう言えばアナタは知らないんでしたねぇ」
アナタは止めろ。
「そんなアナタの為に……」
話聞かねぇな。あぁ、でもこのやり取り懐かしい。
「死凶、死を呼ぶ凶。姿、形状不明。存在なのか、現象なのかすら曖昧。ただ、滅びた都市や村に僅か『遺言』という形で情報が残る、都市どころか下手すりゃ大陸丸ごと崩壊させるレベルの災禍、災害、あるいは災厄。スノーホワイト、レッドリーパー、ブルーエッグ、ブラックソーン。口さがない連中は死凶の名を騙った報いなんて噂したけど、結局は分からず仕舞いさ」
ルチルはお手上げ、と匙を投げた。そんな彼女をアメジストは恨めし気な目線で見つめる。どうやら自分が説明したかったらしい。
「となると、現状では昨日街中で暴れまわってた連中から話を聞くしか方法がなさそうですね」
「つまり、俺か」
「そうで……」
やはり、と全員が改めて俺を見た。昨日の暴徒と話が通じるのは俺だけ。じゃあ早速、と次の行動が決まった矢先、大勢が階段を駆け上がる靴音が響いた。人類統一連合か?一気に緊張感が高まり、気が付けば誰もが武器を手に握り締めていた。がッ!!
「私、怖い」
只ならぬ雰囲気を感じ取ったアメジストが腕を絡ませてきた。こんな状況でソコに精神回せる、俺はそんなお前が一番怖いよ。後さぁ、絶対怖がってないよなぁ?なんで顔赤らめてるんだい?胸の感触は非常に惜しいが、やっぱ離れろ。




