リブラ居住区域 其の2
――リブラ帝国上位区画内 要人宿泊施設内
昼の暴動から一夜明けた。各々が半日以上を奔走した結果、幾つかの事実が分かった。
その中で最も衝撃的だったのは、行方不明の規模。警備が厳重な上位区画側にも行方不明者がいたそうだ。
大都市リブラは主に上流階級層が住む上位区画とそれ以外の住む下位区画に分かれ、その間をユースティティア橋が繋ぐ。その橋の上位区画側には治安維持の為の大きな鉄門があり、常駐する鉄騎兵と共に人の出入りを制限する。橋を境に警備の厳重さは大きく変わり、緩い下位区画とは違い上位区画は厳重な警備が敷かれるというのにだ。
「驚いたのなんのってねぇ」
情報を持ち帰ったパールが開口一番に心情を吐露した。リブラ出身で、如何に上位区画の警備が厳重か知っているオブシディアンとブルーも酷く動揺している。
「嘘だぁ……」
「ちょっと信じないの?陰険メガネ!!」
「誰が陰険メガネだクルァ!!」
「クァッ!!」
ブルーが露骨な陰口に反論すると、頭上のコカトライズの雛も同じ態度を取った。つーか、連れてきていいのか。
「まだ雛ですし、ソレにアイツを親って認識している以上、離れ離れにするのも問題ですからね」
「まかり間違って雛が死んじゃえばアイツ暴れるだろうからって、だから特例でエンジェラ様が許可出しました」
柔軟だな。普通は認めないと思うんだけど、と素直に驚いた。
「雛の知能をエンジェラ様に確認してもらい、最終的に極秘かつ特例と言う形で許可して頂きました。勿論、何かあれば俺の首が飛びます。飛びます……」
ブルーが真っ青な顔で何かあった際の末路を吐き出した。最後の方、かなり悲壮感に包まれていたけど大丈夫?飛ぶって、物理的だよね?そう、可哀そう。
「そ、その辺は問題ないです。普段は兄が面倒見ついでに人間の常識を張り切って教え込んでますし、今のところ何も問題起こしてませんから。で、本題ですが、当然下位区域の方もそこそこ行方不明者が出てるみたいです。ただ……」
言い終えたブルーがオブシディアンを見た。
「なんというか。その言い辛いんですが、下位区域の被害は軽く見られる傾向があって、だから余り大事になっていないんです。例えば金が無くて夜逃げするヤツとかも別に珍しくない話ですから、だからそう言うのとごちゃ混ぜになって被害状況が把握しづらくて」
やや呆れがちにオブシディアンが話を引き継いだ。下位区画だから捨て置かれる吐き出したため息と伏し目がちな態度がそんな現状を物語っている。
「ソッチもそっちで大変ね」
「そう言うパールはどうなんだ?ウチでこってり絞られたか?それとも……」
「あー、もうその話は無しッ!!」
唐突にパールが不機嫌になった。ムスッとした態度で椅子に腰を下ろすと、あー嫌だ嫌だと何かを思い出しながらぶつくさ呟くに終始する。
「こりゃあ、多分あの許嫁と鉢合わせたみたいすね」
「そうそう、ピスケス領主のバカ息子」
オブシディアンが真実を突っつき、グランディが婚約者の人となり辛辣に評すると、やさぐれていたパールの機嫌が余計に悪くなった。どうやらその許嫁、余程アレな人材らしい。
「あぁ。女にだらしなくて腹もだらしなくて、性格は全て金で解決しようとする最低最悪で、生まれ以外に何も誇れるものが無いって専ら評判の?」
「だから言うなッつーの!!」
限界を超えたパールが手近にあったクッションをブルーに投げつけた。が、あっさり魔術で叩き落とすと露骨に口角を吊り上げた。君達、もう少し仲良くしません?
「ソレよりも、被害の範囲の方が問題でしょ?有り得ないでしょ、上位区画で誘拐なんて!?」
「そうですね。因みに金持ちさん達はどうやって隠してたんです?」
「確認した限り2人で、いずれも愛人だったわ。ま、大っぴらにできないんで無視決め込んでるようだけど。大事にしないのは簡単、身代金とかの要求が一切ないからね。勿論、裏から手をまわしてるみたいだけど……」
「思うほどうまくいってない、と」
「えぇ」
「でもなんで誘拐された人間を調べてるんです?」
「そう言えばそうよね。伊佐凪竜一が暴漢の言葉理解できたのと何か関係あるのかな?」
「で、どうなんです?この件、もう僕達も無関係じゃない。そしてルチル殿が黙れと言った以上、この件は人類統一連合と何か関係があるんですよね?」
「クアッ?」
ブルーの問いかけに、全員の視線が自然と俺に集まった。確かに無関係じゃないが、さりとて言っても信じて貰えるかどうか。
「信じないかも、なーんて事考えてないでしょうね?それこそ今更よねぇ?」
「そうですよ。アナタの滅茶苦茶な経歴を知れば、これ以上我々を驚かすような情報なんて早々ないですよ」
パールの言葉にオブシディアンが同調した。グランディとブルー、その上でくつろぐ1羽も無言で頷いた。確かに一理あるかもしれない。いや、もう仲間なんだから信用して打ち明けてもいいだろう。隠し立てする様な内容でもないしな。
「ま、言ってもいいんじゃないか?そいつ等の言う通り、もうアタシ達は一蓮托生だ」
それまで黙っていたルチルが静かにそう呟いた。彼女も俺と同じ気持ちの様だ。
「とは言え本人が言い辛い……というか言っても信じて貰えない話だろうからこっちから言うけど……」
全員が固唾を呑む。
「コイツな。異世界から来たんだ。地球って言う星から強制的にコッチに転移してきた。理由はその星の全住民が何かに滅ぼされたから」
「「「「フアアァァ!!」」」」
「クァーッ!!」
全員仲良くアッサリ限界超えやがった。やっぱり駄目じゃねぇか。




